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第22章 ジョンの最後の任務 (時系列-17)


「起きろ、ジョン。……ん、流石に緊張してるのか?……まぁ、こうして声をかけるのも今日で最後になるわけだな」


 作戦進行の男は一匙程度の感慨を持ちながらジョンに声をかけた。目的地へ向かう車中、後部座席には珍しく目を開けていたジョンがいる。


「そうだな」


 着いた目的地、メガテック・カンザキの本社前で車を止め、トランクから武器を取り出しながら会話を進める二人。


「ジョン。最後の作戦の確認をする。依頼者はメガテックカンザキ。排除対象はエルダを名乗った”システム・オーディン”のウィルス。状況を再確認するぞ。最後くらいやらせてくれ」


 ジョンは沈黙で先を促した。これまで作戦の確認はこの男からさせたことはなかったが、今日くらいは良いだろうと黙って聴くことにしたようだ。


「カンザキの新しい管理システムらしい”システム・オーディン”が、お前が以前殺したルーデンの残したエルダというウィルスに感染した。そのウィルスのワクチンを作ってもシステムごと消してしまうことになりかねないらしく、この対処に人類初の電脳を持つお前が選ばれた。作戦の達成目標はお前の電脳をオーディンに直接有線で接続し、これを掌握することだ。有線後はオーディンを乗っ取っているエルダを直接排除する。お前なら思考と感覚だけで出来るらしいからな」


 そうしてジョンは死ぬ。オーディンと直結することでジョンの電脳は溶けるように飲み込まれるらしい。自分を作ったデッカー博士の研究所の親元がメガテックカンザキである以上、逆らうことは出来ない。……が、ジョンにも考えがないわけではない。


「敵はサイバネティクス工場を稼働させ、緊急停止するまでに生産された戦闘適応アンドロイド八十七体がオーディンを守っているそうだ。お前はそれらを排除して進む必要がある。いいな」


「了解」


 ジョンは人間の持つことが出来る重量を超える武装を背負い、手に持つ小銃の弾薬を確認している。腰には即応向きのオート拳銃を下げたことを確認したが、何故か言い知れない不安を覚えた。


「エルダ・ウィルスによって建物内部の通信網、外部に繋がる電波の類は全て遮断されているから、突入後はバックアップ一切なしだ。ちなみにメガテックは無人。動いてるものは全て排除対象と思え。カンザキさんは失敗は許さんとさ」


 作戦進行の男はそれ以上説明をしなかった。男自身が話のきな臭さを強く感じ取っているのだが、それについてメガテックに追求していない。メガテックの深層に触れることに対して危険察知能力が働いているのだろう。


「なぁジョン、万が一失敗したらどうなるんだろうな……俺達は終わりかな。まぁ考えたって仕方ないか。いつでも突入しろ。達者でなというのも世話になったというのも違うか。妙な関係だったが、嫌いではなかったぞ」


 作戦進行の男も、ジョンもまた今日はいつもより多弁である。


「安心しろ。失敗するつもりはない。何が何でもオーディンに有線で接続する。さよならだ、もう会うこともないだろう」


「ふ、最後まで変わらないか。じゃあな」


 と言った作戦進行の男だったが、最後の最後でジョンの新たな一面を見たような気がした。これまで淡々と機械のように仕事を片付けてきたジョンが決意の色を見せた事について、ひょっとして自分を元気づけるために言ったのか? それともこれまでのどの作戦よりも難しい内容に奮起していたのか? とうっすら考える。


 それももう確かめようがない。メガテック社に入っていったジョンを見送った後、酒でも飲んで次第を待とうと自宅に車を走らせたその帰路にある信号での停止中、横にピタリとつけられた車の窓が開くと黒光りする筒がニョキとせり出してきた。


 それが何なのか理解するまでに要した時間は一秒以下。男も場数を踏んでいたのだ。だがよく反応して強く踏み込んだアクセルも虚しく、何十発もの弾丸が打ち込まれて男は絶命する。制御を失った車は漂うように公道を進み、歩道に入り込む寸前で自動制御装置が働いて停車した。


 男の風体は堅気ではなかったし、蜂の巣になって死んだのだ、捜査官が見てもギャングかなにかの報復程度にしか思わないだろう。


 この間にもジョンの作戦は滞りなく進行中である。

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