表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/47

第21章 エルダ・ウィルス (時系列-15)


「あの野郎! ルーデン! クソッタレめ!!」


 カンザキは怒声を挙げ、机を蹴りつけた。メガテック社にある机は頑丈にできているから壊れたりはしないが、机上に置かれたコンピューターが音を立てて揺れるのを、周りの研究員が不安そうに見ていた。だがそれでも昂ぶった感情が抑えきれないカンザキは喚き散らし続けた。


「なんとか取り外せないのか!? オーディンの侵食を止めろ!! ルーデンは一体何を仕込んでいったんだ?!!」


 巨大システム、オーディンの制御室では技術者が総動員でオーディンに発生したウィルスの解明を行っているのだが解決の糸口は見えなかった。


「わかりません、ひどく曖昧なシステムで……でもオーディンの根本にまで食い込んでいます。削除しようものならオーディンにまで悪影響が出て……親和性が高すぎるんです、元々あったもののようにオーディンと深く結びついています」


 ルーデンが仕込んだのはエルダのプログラム。元々同一のものであった育ちの違う双子に当たるユニットを無理やり組み込んだのだ。仕込んだ当初はまだ何も起こらなかった。


 その頃にルーデンの反抗的な態度を重く見たカンザキが彼を拿捕、または殺害せよと命じた。それは殺害という形で達成され、そこまではカンザキにとって順調だった。


 だがルーデンの始末からたった二日後。オーディンは突然自身をエルダと名乗り始めた。(厳密にはオーディンの名前を捨てたわけではなく、エルダの文字がシステム名に上書きされたバグのような状態である)オーディンはカンザキの命令を無視するようになってしまったのだ。


 それに対してカンザキは最初にバックアップの復元を実行する。オーディンが正常だった状態に戻そうとしたのだが、そのバックアップはオーディンによって適応されるごとに現在の情報で上書きされて無意味になった上、一切操作を受け付けなくなった。なので次は強制停止を試みると、社内で適応されているサイバネティクスが一斉にハッキングされた。


 義足を持つものは強制的に会社へ向かう足を止めさせられ、義手を持つものは会社に近づくと電柱や壁を掴んで離さなくなり、そのような適応をしていない者も体内にサイバネティクスを適応していた場合は会社に近づくにつれて苦痛が与えられるなどして、適応者は全て会社に近づくことが出来なくなってしまった上、工場の生産ラインをオーバーライドされて百体近くのアンドロイドが生産され、非サイバネティクス適応者まで物理的に押し出したり物を投げたりして会社から遠ざける働きをし始めた。


 工場は閉鎖したのだが、カンザキはこの件を外部に漏らしたくないようで警察などには通報していない。


「どうすればいい?!」


 カンザキは冷や汗を流しながら技術者に掴みかかる勢いで聞いている。


「……新たなプログラムで上書きするしかありません。ベースはオーディンのバックアップがあるのでそれを使えばいいですが、ルーデン博士がどこに何を仕込んだのかわからない以上、再発する可能性もあります」


「なんとかならんのか?!」


「既存のオーディン……つまりオモイカネのデータを流用せず、完全に新たなプログラムを組めばあるいは……」


「それだ! それでなんとかなるな!?」


「しかし、あのルーデン博士で二十年かかったものですから、……時間が足りません」


「チクショーッ!」


 メガテックで動かせる部隊を招集してアンドロイドを全て排除し、物理的にシステムを破壊するべきか?カンザキは頭を抱え、ぶんぶん振りまわしながらルーデンへの怒りを募らせていると、別の技術者が背後から声を掛けた。


「カンザキさん、あのエルダと名乗るウィルスに今即座に対応出来る、いい方法がありますよ」


 ルーデンと同じく、メガテックの出資する技術者の一人、ウェイン・デッカー。サイバネティクスを扱う生体科学者で、システム・オーディンで制御しきれない「誤差」を調整するマシンの開発を依頼した博士だ。


 邪魔なものを的確に「排除」するためのマシンを作らせ、ルーデンのシステムよりも早くその第一号を完成させていた。


「デッカー博士……そ、それは一体」


 カンザキは縋り付くようにデッカーに擦り寄った。


「以前使った『ジョン』を再び使うのです。たった一つの成功例なので惜しくはありますが、オーディンを失うほうがずっと手痛いでしょう、カンザキさん」


 誤差の調整に使うマシン第一号とはつまりジョンのことである。サイボーグとして最高のプロトタイプとなった彼は内蔵された兵器すら金属探知機やスキャニングに引っかかることはないし、その身体機能で道なき道を進むことが出来る。


 それを簡単に差し出すデッカーだが、彼にとってはまた新しい被験者を差し出してもらえば済む話というだけのことなのだ。


「使うっ、使うとは?」


「彼は脳を完全なデータ変換させた人類初の『電脳サイバネティクス』適応者ですから。……オーディンに直接同期させるのです。そうすれば彼はたちまちオーディンの内部を掌握するでしょう。それが『電脳』です。そうすれば後はエルダ・ウィルスとやらを駆除してもらって、私の目論見では時間と共にオーディンの持つ膨大な情報の宇宙に彼の意思は溶けていくことでしょうな。そうなればシステムは元通りです」


「なるほど……思考する人間の脳と機械を融合したアレだからこそ可能か……デッカー博士、直ぐに手配をしていただきたい。あのエルダ・ウィルスが次の暴走を起こす前になんとしてでも止めたいのだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ