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第19章 機械の家族 (時系列-11)

「エルダ」


「ルーデン?」


 深夜、遅い時間に人工知能のエルダは突然制作者のルーデンにブートされた。エルダはスリープの際にはいつもリビングのアンドロイド用ドックに入ってメンテナンスや脳核に溜まるキャッシュの整理を行っていて、ブートする前はそこにいたはずが今はルーデンの自宅ラボにいた。


 もう長いことそこには入っていなかったのだが、ルーデンは二人きりで話したいということなのだろう、チトセはこの部屋に入ったことがない。いわゆる隠し部屋のような場所なのだ。


 少し疲れたような表情のルーデンは暗さのせいもあって実年齢よりも老けて見える。エルダは彼の姿をじっとカメラで捉えながらそう思った。


「私が君を生み出して、どれくらいだったかな」


 いつもより波長の弱い声でそう質問するルーデン。


「チトセより約一年早いだけですから、十五年弱ですね。細かい時間まで必要ですか?」


「いや……。エルダ……これからチトセに会えなくなるとしたら、君はどう思う?」


 エルダはその質問に不安を確かに覚え、彼の方に向き直ろうとしたが身体は動かなかった。目として取り付けられているカメラは動くが、どうやらメンテナンスを受けている途中のようである、という程度の認識しか出来ない。


「えっ……とても寂しいし、嫌です」


 ロボットであるエルダから真っ先に出てきたのは戸惑いと感情の言葉だ。人に作り出された人工知能とは思えない受け答えだろうが、ルーデンはそういうモノであることを知っているし、特に驚くことは無く話を続けている。


「聞いてくれエルダ。私は大きな過ちを犯した。それも取り返しがつかないかもしれないというところまで来ている。だが……ある方法を使えばもしかすると何かが変わるきっかけになるかもしれないんだ。そしてそれにはエルダ、君の力が必要だ」


 ルーデンがしているメンテナンスはいつもより念入りに思えた。だって内部構造にまで手が及んでいる。それがエルダには不安で不安で仕方がない。それを言葉にするのが怖い、という感情までエルダは知っていた。


「力を貸すのは構いません。でもチトセと離れ離れになるのは嫌です。あの子は私を実の姉のように……家族のように想ってくれています。私がいなくなったらあの子も悲しむと思いますし、私がなにより嫌だし……離れたくありません」


「そうだな。そうなるように出来ている、とは酷い言い方か……だがもう、君しか頼れないんだ。もし上手く行けばきっとまたチトセに会えるはずだから……」


 ルーデンがエルダのアイ・カメラを見つめた。「すまない」と言う彼はやはりひどく憔悴している……だからこそ怖い、自分がなにかに使われる!それだけは”直感”した。


「もしって、そんな……嫌ですルーデン……そんなの勝手です!私を生み出して、こうしてたくさんのことを”考えて”、”感じられるように”作っておいて、自分の都合で切り捨てるってことですか!?」


「頼む、もう君しかいない。人類のために君の自由を奪う事になって本当に、本当にすまないと思う」


 ルーデンはエルダの頭からなにか重要なユニットを取り出している。エルダは必至に叫んだ。命乞いではなく、自分の知った愛を失いたくなくて。


「自由じゃなくていい! 私はただチトセがしっかり育つのを見られれば! だからやめッーーー」


 プツ。エルダのコアユニットが抜かれ、エルダのマニピュレータやカメラなどのユニット全てが停止した。


「あとはこれを、アレに組み込むだけ……」

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