第2-3章 一番のともだち (時系列-?)
エルダとチトセの邂逅から約十五年の時が経った。
「チトセ、良いですか? つまりここの因数が……」
「うー。わかんない~、もう終わり~、ゲームしたい~……」
エルダはアップグレードを施されてヒト型のモジュールを与えられている。生みの親であるルーデンが実験的に組み上げたプロトタイプのアンドロイドモデルで遠目には本物の人間のようなロボットだ。チトセには物心つく前から母親がおらず、研究でなかなか家のことが捗らない自分の代わりにチトセの面倒を見てほしいと作ったそのモデルは、数値的に市販のアンドロイドよりもずっと高性能なスペックを持っている。
エルダはペンを持ち、机に向かっているチトセの隣で勉強を教えている。チトセだが、学校へはある理由から行っていない。行けない、が正しいか。
「だめだよチトセ。今日はあと2ページで終わるんだから。さっきの問題もぱっと解けたんだから、これもきっと簡単だよ」
「コホっ、コホっ。ん~~、飽きた。ゲームしようよぉお」
咳をして口を抑えたチトセの背中を優しく擦ったエルダのマニピュレーター。同時に咳の音波長をスキャンしながら言った。
「もう、仕方ないなぁ。じゃあ後で残りのページもやるんだからね。……で、何のゲームする?」
「”ポポの星3”クリアしよう~」
するとエルダが家庭内ネットワークで何かを操作したのだろう、ゲームハードが自動的に起動し、ホログラフィックゲームが部屋の中心に広がるとチトセはペンを置いて自分の定位置にしているソファーにぴょんと跳ね飛ぶように向かっていった。学校へ行けなくなって、遊び相手はエルダのみ。母で、姉で、友達。最高の理解者のエルダ。
「私ポポね!」
先にコントローラーを持ったチトセがはしゃぎながらそう宣言すると、エルダもマニピュレーターでコントローラーを掴みながら不満そうに、でも楽しそうに返す。
「うー。私もたまにはポポが使いたいよ。でもグイグイも可愛いからいっか」
エルダは自分と遊んでくれるのも嬉しいという気持ちはもちろんあったのだが、彼女に人間の友達が出来るのも大事なんだろうなとか、何が彼女のためになるんだろうか、とエルダは人間のように悩むことが出来る思考を持って、いつもそんな事を考えるのだった。でも今はチトセと一緒の時間を楽しむのだ。彼女が辛い時、少しでも良い思い出を糧に頑張れるように。