第14章 ハロー・ワールド (時系列-21)
「よっし、後はこれをここに繋いで……ジェス、電源入れて」
「ほい」
アランは自宅のガレージ工房に置いたかつての死体もといアンドロイド……これの修理を次の日には諦めてしまっていた。なんせ壊れていたパーツの値段が学生には全く支払えないレベルだったので脳核部分だけを取り出し、それをロームと呼ばれる丸い箱型のペットアンドロイドのボディに組み込むことにした。その作業の詰めが今まさに行われており、様子を見に遊びに来ていたジェスが電源を入れるとブート音とLEDランプが点灯する。
「おっ!ついた!」
「わー、やった~」
二人はちゃんと起動したロームの様子に浮かれるようにその丸箱のまえに座った。犬を可愛がる時のような体勢でロームと脳核の適応作業を待っている。それの進行度を光シグナルで見守り、その適応サインが完了を伝えた。
「助けっ……あ、ここは……私、俺、僕、ちゃん、くん……私。どこ?あれ?……あっ、はじめまして……?」
アランとジェスは互いの顔を見合わせた。そしてお互いの感情がわかる。「なんだか気味が悪いね」という表情だ。普通、起動したロボットは「ハロー」といった挨拶から始まるのに。
「えっと……オレ、アラン。こっちはジェス。君の名前は?」
「こ、こんにちは。ジェスだよ」
ピロピロ、とローム特有の可愛い挙動を見せてはいるのだが、その様子はどこかおかしく、ロボットにインプットされた挙動ではなく『本物の生き物が怯えている』ように見えた。だが二人を見据えるとその怯えが収まって、おずおずと名乗る。
「私は……そう、僕は……エルダ?」
以前入れられた死体アンドロイドではエルダと呼ばれていたらしいが、その発言はやや疑問系だ。
「エルダ、よろしく。君は道端に捨てられててさ、オレが拾ったんだよね。それで修理してたんだけど、メインのモジュールだけ引っこ抜いてロームに移植したんだ。前より窮屈かもしれんけど、平気?」
「そうなのですか。……えっと、僕、過去の記録がほとんど思い出せないのですが」
ロームは少しビクビクしながら腕を動かしたりキョロキョロと周りを確認している。
「あー、記憶媒体はまだあっちのアンドロイドに残ってるんだ。ま、ひとまず会話出来るようになったのはいいね。それにやっぱ高級モデルって感じがするな、会話が自然だし、動きもなんかスムーズって感じだ。ボディがロームでも良い脳核を積むとアップグレードされるんだなぁ」
なぁ? とジェスに同意を求めると、やはりジェスも同意見らしい。最近じゃロームのペットは珍しくないのだが、前時代のペットロボットと比べてそれなりに「架空の生物」っぽくなってきてもやはりロボットらしい部分は見えてしまうものだ。
だがCPUの出来が違うのか、この『ローム・エルダ』は挙動から本物みたいに見える。と言ってもアランはロームペットを飼ったことはないので比べる対象がないのだが、要はそれだけ感動的だったという事だ。
「はぁ……。とりあえずよろしくお願いします、アラン、ジェス」