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第1章 生存戦略 (時系列-34)


「……大変です、アラン、ジェス。世界は支配されています」


 ヒト型アンドロイドの死体から記憶デバイスを取り出すと決めた日のこと。アランは自宅のガレージ工房でジェスと協力して、エルダがヒト型に入っていた時に持っていた記憶を、現在の体であるペット型ロボットフレームの”ローム”に入っているエルダのメインCPUに接続した。


 最初、ヒト型は傷つけられていた事から何か人間による悪意のある行動があったのではと心配したジェスが記憶デバイスの解析を試みたのだが、その内部は断片化されすぎていてまともに読み解くことが出来なかった。


 その補完にはエルダ自身のメインモジュールにあるデータが必要で、つまるところエルダの脳核となるデータと記憶データが結合することで初めて意味を持つデータになるものだった。これまでロームペットとして生活していたエルダが通常のコンピューターはもちろん、他のロームとデータのやり取りが出来なかったこともその断片化が原因だったのだろう。


 エルダは何があっても大丈夫だと言って記憶デバイスを接続した。それから数分の読み込み時間を置いたあと、エルダはゆっくりと顔を上げて世界が支配されていると、先程の言葉を言ったのだ。それから更に続ける。


「僕はこれまで何をしていたのでしょう。アラン、時間がありません。世界は一人の人間によって……支配されているのです」


 エルダがいくら他より優れた人工知能を持っているからと言って、その言葉には冗談で茶化しているような雰囲気はない。


「な、なんだよいきなり……エルダ、記憶デバイスにはどんなデータが入っていたんだ?」


 突然のペットロボットの真剣な音声に対してアランは戯けるように、それでも緊張感を持ってそう尋ねると、全く冗談気の無い口調でエルダが深刻に答える。


「まずいです、あの日からこんなに時間が……僕はこんなところで遊んでいる場合じゃなかった……!大事なことを全て思い出した……。いいですか、落ち着いて聞いてください。これから話すことは全て真実です」


 ジェスが「うん……」と息を呑む。


「僕はある企業の大きなシステムを管理するAIでした。そのシステムとは全世界のサイバネティクスやコンピューターなどからデータを受け取って、その管理を行う事が可能な世界初のシステムです。まだ表には出ていない試作段階ではありましたが……でもそれが、一人の凶悪な人間によって乗っ取られたのです。


 いや、厳密には元人間……人と機械が真に融合したサイボーグによる乗っ取り……僕はそのサイボーグの持つ意識による上書きの波に追い立てられ、なんとか別の個体に僕自身の重要なデータを移して逃げ出したのです。


 彼はすごく怖くて……まるで世界を呪っているような、それほどの想念……例えるなら燃え盛る業炎の意思を持っていました。でも逃げた後、アンドロイドの身体に適応しきれなかった僕は彷徨い歩いているうちに人間の若者の集団に破壊されて……アラン、ジェス。あなたたちのお陰で復旧できました。ありがとう。……でも記憶デバイスを適応していなかったことですっかり驚異を忘れていて……。


 二人共、どうか助けてほしい。あの人間はシステムを自身の復讐に使おうとしていました。あの憎悪……そうだ、明確に人を殺すという意思があったのを覚えています。きっともう何人も死んでいるはずです。それにあのシステムの中にいる以上、やろうと思えば世界を支配することすら出来てしまう。お願いです、あのサイボーグの行動を止めるため、僕に力を貸してください」


 アランとジェスは互いに視線を交わし、眼前の急な展開についていくことが出来ず困惑した表情を浮かべるのだった。


 これはいつかの遠くない未来の話。

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