表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第四章 霊峰に眠る魔刀
97/365

19.人魔合一

 ――二つの戦いが終わり、残るはエルトリスとアルカンの死合のみ。

 一度は一方的に吹き飛ばされたエルトリスではあったが、直様立ち上がれば、眼前の敵を――自らの知らない力を振るうアルカンを見た。


「驚いておるようじゃな。知らぬも当然よ」

『私とアルカンは、貴女よりずっとずっと、ずっと長く。共にいる、だから』


「――っ、チ、ィ……ッ!!」


 再び、鞘に収まっている魔刀から花びらが舞い散り始める。

 それの正体が何なのかは理解できなかったが、エルトリスはそれに触れたら不味い事だけは、本能的に察していた。


 花びらがルシエラに触れた時に生じた衝撃。

 ふわふわと舞う花びらから発せられたとは思えない程の剛撃に体ごと吹き飛ばされた、その記憶が宙を舞うソレへと注意を反らす。


「流石だの、あの一合で感じたか――じゃが」

『無意味、無駄、駄目。そんな事をしても、私とアルカンは、無敵(さいきょう)だから』


 花びらから身を躱すように動き始めたエルトリスにアルカンは感心しつつも、それをただ見ている訳では当然無く。

 ゆらり、と陽炎が揺らめくように身体を揺らせば――そのまま、エルトリスへと一気に間合いを詰めてきた。


「ぐ……っ!?」

「儂もただ見ておるだけでは無いぞ――!!」


 見えない剣戟が、再びエルトリスに襲いかかる。

 刃の煌めきさえも見えないそれを、エルトリスはルシエラを盾にする形で辛うじて防ぐ、が――


 ――そうしている間に、ひらり、ひらりと舞い散る花びらは数を増し。

 まるで花吹雪の如く周囲を舞うそれを躱しながら、見えない剣戟を躱す事などできようはずもない。


「なら……これ、で――ッ!!」


 エルトリスはそう判断するや否や、ルシエラを鞭のごとく伸縮させながら、周囲を薙ぎ払うようにグルン、グルンと振るい始めた。

 自らの全周を守るように振るうその形は、先程アルカンが見えない刃の雨を降らせた時に身を守ったそれである。


「――悪手じゃなぁ、お嬢ちゃん」


 ――ただ、その時と違っているのは。

 花びらが放つその剛撃は、先程アルカンが放っていた剣戟とは比べ物にならないほどに重いという事。


「ぐ、あ……っ!?」


 ゴキン、ゴン、ガゴン、という重たい音が何度も、何度も鳴り響く。

 巨人が刃を振り下ろしたかのようなその重音が鳴り響く度に、エルトリスがルシエラをもって展開したその護りは歪み、ほつれ。


『いかん!守れエル――』

「……カカ、入ったぞ」

「――あ」


 ……そのほつれを、アルカンが見逃す筈もなかった。


 ザシュ、という鋭い音が、突然鳴り響く。

 エルトリスの胴を薙ぐように、突然その刃傷は現れた。

 先程までのように、受けていい刃を受けたわけではないそれに、エルトリスは短く声を漏らしつつ。


「……っ、あ、ああぁぁっ!!」


 激痛に、苦痛に表情を歪めつつも。

 アルカンに向けて、エルトリスは渾身の力を以て刃を振りかざす。


『――無為、無駄、無謀。こうなった私達は、最強(むてき)

『く……っ、おの、れ――!!!』


 その、ルシエラの(あぎと)を舞い集った無数の花びらが遮った。

 ガギン、ゴキン、と激しい音とともに火花を散らしながら、ルシエラの牙は全力をもって回転する――が、それが喰らうよりも花びらから放たれる剛撃がルシエラを、エルトリスを弾き飛ばす方が、早く。


「――……っ!!」


 声にならない声をあげながら、再びエルトリスは――今度こそ、壁面に叩きつけられるような形で吹き飛ばされた。

 腹部に負った刃傷は、辛うじて反応したのか致命傷ではなかったものの、決して浅くはなく。

 壁面に叩き詰められた衝撃で、呼吸さえも出来ないのか。

 エルトリスは辛うじて立ち上がりはしたものの、ふらり、ふらりとしたその様からは余裕など微塵も感じられなかった。


「……ぬ」

『どうしたの、アルカン』


 射程外に離れたエルトリスに追撃を入れて決めようとしたアルカンだったが、不意に気付く。

 最後の一撃は苦し紛れのモノだった筈だが、それがもたらした結果は間合いを――一瞬だが、エルトリスに考える時間を、余裕を与えるものだった。


「いや……まさか、の」


 そこまで計算づくだったとするのなら、つくづく恐ろしい。

 そう思いつつも、アルカンはエルトリスに感謝にも似た念を感じていた。

 こんな若い、幼い子供がよもや自身を――人魔合一という切り札を切らなければならない程に追い詰めるとは、アルカンも予期しては居なかったのだ。


 無論、結果として切り札を切ったアルカンには及ばなかった訳では有るが、それは仕方のないことだろう。

 アルカンが若い頃に魔刀を手にしてから、数十年を経て得た理に、まだ年端も行かぬ幼子が到達しうる筈もない。


 自分が後10年生きられたなら良かったのだが、と内心思いつつも、アルカンはエルトリスに止めをささんと再び間合いを詰める。

 出来るならば、目の前の幼子が全盛期となった時に戦いたかった、と僅かばかりの後悔を抱きつつも、見えない剣戟の間合いまで後数歩、と言う所まで踏み込んで。


 ――次の瞬間、アルカンは信じがたい物を見た。







 ――呼吸が、荒れる。

 激痛で思考が乱れ、視界はかすみ、意識を保つ事さえ難しい。


『――しっかりせんかエルトリス!来るぞ!!』

「……わか、ってるよ。だい、じょぶ」


 そんな最中で、ルシエラの言葉に辛うじて、声を返す。

 来る、と言われはしたが――アルカンの力は圧倒的だった。

 先程までは力で上回っていたから、それを軸に圧する事ができたが、今となってはそれさえも上回られているに等しい。


 理外の剣戟を可能にした技と、魔刀の力。

 その二つが組み合わさっている今のアルカンは、ヘカトンバイオン以上の難敵と言っても過言じゃなかった。


 何が出来る。

 弾き飛ばされ、多大なダメージを負ってまで稼いだ時間で、考える。


 技で上回る事は無理だろう。

 あれは、技のみに生きたアルカンだからこそなし得たモノであって、付け焼き刃で為せるものではない。

 力で上回る事は、或いは可能かもしれない。

 だが、それでも――上回れるのは一瞬だ。

 その一瞬を過ぎれば、後は為すすべもなく斬り刻まれるだけで、それまでの間にアルカンを打倒するのは難しい。


 何か。

 何か、アルカンに比肩しうる――アルカンを越えられるものは、無いか。


「……あ」


 ――そこまで、考えて。

 ふと、酷く単純で簡単な事柄で、俺はアルカンに比肩している――いや、多少は劣るかも知れないが、それでも十分に太刀打ち出来る部分がある事に気がついた。


 なんて単純で、なんて簡単な――それでいて、一度もやった事がない事。


 だが、アルカンが出来たのだから、俺とルシエラが出来ないなんて事がある筈はない。

 何しろ、俺とルシエラはこの体になる前からの、長い長い付き合いなのだから。


「ルシ、エラ」

『どうした、エルトリス!構えよ、来るぞ――』

「……わたし、と……一緒に、なって」


 ――そう言葉にした瞬間、ルシエラは呆けたように言葉を止める。


『……それは、どういう意味じゃ』

「力を、合わせよう。やった事、ない、けど――一緒に」


 俺らしからぬ言葉に、呆れているのだろうか。

 でも――ああ、でもそうすることで到達できる境地があると、アルカンに見せられてしまったのだから、仕方ないじゃあないか。


『ああ、ああ……ふふ、そうか、やっとそう言ってくれたのか』

「……ルシ、エラ?」

『エルトリスが望むのであれば、喜んで。私とお前が合わさったのならば、誰に負けようものか』


 ――ルシエラらしからぬ言葉に、らしからぬ声色に、どくん、と胸が高鳴った。

 それと同時に、手にしていた柄からシュルリとチェーン上の触手が這い上がり、絡みつく。


 それは、俺が切り札としていた――ルシエラの力を根こそぎ使うそれに、似ていたけれど。

 そのまま、俺の身体にまでチェーンが巻き付いてくれば……いや、優しく包んでくれているのを感じれば、それとはまるで違う事が、理解できた。


 ……温かくて、心地いい。

 全身を犯していた激痛が嘘みたいに消えて、安らぎさえ感じる。


『――さあ、共に征くぞエルトリス』

「うん……いっしょに、いこう」


 素直に、そう言葉にしながら――ルシエラと俺の体温が重なるのを、感じながら。


「――人魔合一!」

『人魔合一――!!』


 俺は、アルカンに習って、叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ、応援お願いいたします。
― 新着の感想 ―
[一言] エルちゃんとルシエラが絡み合って一つに( ˘ω˘ ) (紛らわしい言い方)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ