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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第四章 霊峰に眠る魔刀
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10.少女とバカ御一行

 翌日。

 今度はもっと深い所まで行こうという事になったのもあって、食料やら野営の準備やらを済ませてから、俺達は再びヤトガミの洞窟に向かっていた。


 相変わらず物見遊山の気分で来ている連中が多かったが、まあそれは良いとして。

 今回は浅い階層――リリエルが最初に異形を相手にした階層を、早々に駆け抜けていく。


『うーむ、不味い』

「贅沢言うなよ、量さえ有りゃあ文句ないくせに」

『馬鹿者、私とて偶には量より質をだな――』


 奇声を上げながらこちらに来る異形は、ルシエラの一振りで喰らい潰し。

 こちらが認識できていないらしい異形は、捨て置いて。

 そうやって進んでいけば、あっという間に昨日アルカン達と昼食を摂った場所まで辿り着いてしまった。


 まあ、昨日は逐一リリエルに相手をさせていたから、というのも有るのだろう。

 ルシエラで相手をしながら進んでしまえば、こんなものである。


 今日はアルカン達もここには居ないらしいし――或いはもっと奥まで進んでいるのかもしれないが――俺達も、もっと奥まで進むとしよう。


「……ん、この辺りのもエルトリスが相手するのか?」

「ああ、もうちょい潜ってから物色した方が良さそうだしな」


 昨日引き返した場所まで到達したものの、ここでも俺はおろか、リリエルに合うモノさえ見つからなかったのだから、と。

 そんな事を考えつつ、更に奥へ。

 どうやらこの洞窟は下へ下へと続いているらしく、しばらく進めばまた下り坂に出くわした。


 この辺りまで来ると、もう他の冒険者やら、傭兵やらも少なくなってきて――……


「……ぬ?き、貴様……!!」

「ん?」


 ……そんな事を考えていると、不意に前方に冒険者の一団が現れた。

 恐らくは元々は同じ一党(パーティー)、という訳でもないのだろう。

 如何にも寄せ集めなその団体は――というよりは、その団体の中央にある顔には、どこか見覚えがあった。


 何だったか。

 アマツに来たばかりの頃に見かけたような、そんな気がする……ええと。


「……ええと、アホナス?」

「アムニスだ!!クソっ、こんなガキに馬鹿にされる謂れは無いぞ!!」


 そうそう、確かそんな名前だった。

 いきなりギルドで喧嘩をふっかけてきた挙げ句、後ろに居たアルカンに全裸にひん剥かれた奴。

 ……思い出すと、俺も胸元だけ服を剥がれたのを思い出して、少し顔が熱くなる。


「ふん、しかし――ガキとは思っていたが、知恵は回るな」

「ん、ぁ?」

「僕と同じく、護衛を雇っているんだろう。腕の立つ護衛を雇って、自分好みの武器を拾いに行く……ま、そんな弱そうな女二人しか雇えてないのは哀れだけどね」

「――ほう」


 どうやらアムニスは、俺がアミラとリリエルを雇って魔剣を拾いに来た、自分の同類だと思っているらしい。

 まあ、俺としてはどう思われても――変に侮蔑されたり絡まれたりしなけりゃ、そこまでイライラしたりはしないんだが。


 ……どうやら、続いた言葉がアミラの逆鱗を軽く撫でたらしい。


「ハッハッハ、まあ君たちは精々この辺の雑魚武器でも拾って満足するといいさ。僕が用が有るのは一番奥の奴だからね」

「……その面子でか?」

「僕の領地で腕の立つ冒険者を募ったのさ。これだけの冒険者の集団だ、武器に呑まれた哀れなバケモノなんて物の数じゃないさ」


 どう贔屓目に見ても、アミラには遠く及ばない――下手をすればリリエルにすら負ける連中が二十人超。

 まあ、そりゃあ確かに物量で押せば何とかなるのかもしれないが、うん。


 自殺でもしに行くつもりなんだろうか、アムニス(この馬鹿)は。


「そうかよ、まあ精々頑張れ」

「……ふんっ。言われずとも、直ぐに僕にひれ伏させてやるからな――」


 そんな捨て台詞を吐きながら、アムニスは洞窟の奥へと消えていく。

 止めてやる義理もなければ、そもそも助けたいと思うような連中でもない。


「そのうち、アレの成れの果てが出るかもしれないな。というか間違いなく出るな」

「そうですね。そうなったなら、周りの方が何とかしてくれる事を祈りましょう」

『アホデスなんてどうでもよいからさっさと進むぞ。あ、当然奴らとは別の方にの』

「解った解った、んじゃもうちょい奥まで行ってみるとするか――」


 ――兎も角。

 あんな連中がまだ無事で進めるような所では、余り収穫もなさそうだし。


 何より、またあのアホニスと出くわしたら突っかかってこられそうで面倒だったから、もうちょっと奥まで進むことにした。








 そうして更に進み、下へと下る坂道を降りていく。

 小腹がすいてきたので昼食を軽く済ませれば、更に先へ。

 この辺りになって来るとルシエラの一振りを凌ぐような異形も出てきたから、試しにリリエルやアミラにも相手をさせてみた。


 アミラは変わらず異形達を相手取れていたが、リリエルはこの辺りになると目に見えて苦戦し始めていて。

 異形たちの攻撃を捌く事は出来てはいたものの、リリエルからの攻撃も異形に捌かれていくという千日手のような状況に陥っていた。


「――っ、氷結晶の槍!!」


 それでも、まだリリエルが負けそうになる、という事はない。

 であるなら、この辺りで戦闘の……殺し合いの経験を積ませるのも悪くないか。


「よし、んじゃこの辺から真面目にやるか。俺もまあ、こっちに来た奴は殺るから――あと、もしリリエルが危険になったらアミラがフォローしてやってくれ」

「ああ、解った。無茶はするなよ、リリエル」

「畏まりました。宜しくお願いいたします、アミラ様」


 ……そうして、異形を探しながら薄暗い洞窟の中を歩き回る事しばらく。

 多少手応えが出てきた辺り、入り口辺りのと比べたらずっと質が良いのが転がっているんだろうが、相変わらずこれというのは見つからなかった。


「そっちはどうだ、リリエル?」

「……いえ」

『選り好みが激しいのう。決して悪い子達では無いと思うんじゃが』


 それは、リリエルも同じなのか。

 何本目かの武器を床に置きながら、リリエルは小さく息を漏らしつつ頭を左右に振った。


 ただ、やはり質が良くなったからだろうか。

 昨日のように余裕がある、といった様子ではなくその無表情にも僅かに疲労が見え始めていて。

 もう少ししたら休憩するか、とアミラの方に視線を向ければ――


「……」

「どうした、アミラ?」

「あ、いや。少し空気の流れが変わったか、とな」


 ――洞窟の奥の方を見ていたアミラが、そんな言葉を口にした。

 つられて奥の方に視線を向けて、指先を濡らしてみる……が、あまり良くわからない。


「奥から風が吹いてるって事か?」

「風、という程でも無いが……奥の方から流れてきているな」

『ふむ、どこか外に繋がっている所があるのかもしれんの』

「それなら、ここまで早く来れますし有り難いですね」


 もしそうだったなら、野営の準備やらをする必要も無いし万々歳だ。

 とは言え、まあ……アマツのギルドで紹介されている入り口がここだけ、って事は多分違うんだろう。


 期待半分、諦め半分と言った様相で俺達は異形をなぎ倒した後、周囲を片付けてから野営する事にした。

 リリエルは夕食の準備まではいつもどおりだったものの、食事を終えればそのまま泥のように眠ってしまい。


 起こすのも悪いか、と俺とルシエラ、それにアミラで見張りを交代するようにしながら、ゆっくりと体を休める事にした。

 明日は、もっと奥まで潜る事にしよう。

 いい加減、何かしら良いのが見つかれば良いんだが。

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