表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第一章 少女と辺境都市
7/365

2.奴隷市にて

「へぇ、結構にぎやかなもんだな」

『意外と人が多いのう。それだけ深く根付いた文化、という事か』


 辺境都市の一角にあるその場所――奴隷市は、随分と賑わっている様子だった。

 俺たち以外にも客は多く、それ以上に奴隷を売っている商人も多い。

 広場のあちらこちらに人混みがあり、成程どうやら俺が1人で散策する、なんて事は無謀なようだった。


『で、どういうのを買うつもりなんじゃ?』

「最低限料理が出来る奴だな。後は戦えりゃそれで良い」

『……まあ、足手まといは居るだけ邪魔だからのう』


 ルシエラの言葉に軽く頷きながら、奴隷市の人混みの中を歩き出す。


 檻が並んだ出店の数々は正直な所、俺の目には異様に映ったが……周囲の人間はまるで意に介する様子もなく、中には親子で訪れているような連中まで居る始末。

 檻の中に居る奴隷は老若男女様々だったが、何れも瞳が淀んでいて、格好もボロ布を着せられていれば良い扱いと言っても良い。

 中には全身生傷だらけで、真っ当な扱いはされてないのが一目瞭然な奴隷まで居て、こんなのを買う奴が居るのだろうか?と疑問に思えてしまうほどだった。








「――そこのお二方。奴隷を買うのは初めてですかな?」


 そうして二人で宛もなく歩き、半分ほど見て回った頃。

 不意に、ひときわ大きな出店――というよりはテント、だろうか。それを構えた、恰幅のいい男が俺たちに声をかけてきた。

 やや低めの背丈に、身なりの良さそうな格好。好々爺、というには少し若いがどうやらこちらに興味を持ったらしい男は、ルシエラが興味なさげな視線を向けているにも関わらず、こちらに近づくや否や、人のいい笑顔を向けてくる。


「何か用か、ジジイ」

「はっはっは、気の強いお嬢さんですな。何、迷っている様子なのでもし希望があれば、私の持っている奴隷から見繕って差し上げようかと」

『……ふむ。良いのではないか、エル?』


 半ば奴隷市に飽きていたのだろう、ルシエラは軽く欠伸をしながら俺に判断を振ってきた。


 ……実のところを言えば、俺もいい加減飽きてきたし、辟易していた所だった。

 こちらを見て要望も聞かずに、高額な奴隷を勧めてくる輩が2割。

 戦える奴、と言ってるのにあまり強くない奴隷――まあ、俺から見てではあるが――を勧めてくる奴が5割。

 あとの3割は、今にも死にそうな奴隷を並べてるような連中ばかり。

 あと少し歩いたら今回はもう良いか、と諦めて帰る所だったのだから、この爺は渡りに船ではある。


「――じゃあ。家事・料理が出来てある程度戦える奴隷は居るか?」

「ふむ、闘奴がお望みと。お二方は女性ですし、武具の扱いに長けた者は如何ですかな」

「いや……そう、だな」


 爺は人のいい笑顔のまま、テントへと歩き出した。

 その後を付いて歩きながら、少しだけ考える。

 武具の扱いに長けた――という事は、恐らくは剣や斧、或いは槍か、もしくは弓と言った所だろうか?


「そういう者であれば、剣から槍、弓――変わり種では鞭を扱える者もおりますが」


 こちらの考えを見透かしたように、爺はそう言いながら手帳らしきものを懐から取り出し、捲っていく。

 成程、どうやら先程まで相手にしていた商人達とは少し違うらしい。

 まるで強くはない。腕っぷしで言うのなら並の人間より弱いだろうが、その分商人として強かだ。


 ――この爺なら、まともな奴隷を紹介してくれるかもしれないな。


『武器よりは魔法を使える者が欲しいのう。あと、あまりいかついのは好きではない』

「……見た目は兎も角、そうだな。ある程度魔法で戦闘出来る奴が良い」

「成程、成程」


 爺は俺たちの言葉に頷けば、テントの一角――奥まった場所に向けて歩き出す。

 薄暗いテントの中は独特の臭気があり、視線を向ければ檻の中に閉じ込められた奴隷達が沢山並んでいた。

 ただ、外の商人たちが扱っている奴隷たちと違う所はその奴隷たちが居る檻の一つ一つがかなり大きめだと言う所だ。

 檻の中で生活できるようにしているのだろう、中には簡素ではあるが寝具もあり、外の奴隷たちとは違って瞳が濁りきっても居ない。


「奴隷とは言え商品は商品、お客様に恥ずかしいモノは売れませんからな」


 俺の視線に気付いたように、こちらを見ること無く爺は何処か楽しげに笑った。

 成程、この爺は決して奴隷に同情や愛情をもってこんな待遇をしている訳ではないらしい。

 ただ、商品の出来が悪い事が許せない――そんなものを自分が売る事自体が許せないのだ。


 そういうタイプの手合は以前にも会った事がある。

 俺を前に臆する事無く商談を切り出し、物を売り込んできた商人たちはどいつも良い物を持ってきていた。

 この爺もきっとそういうタイプなのだ。なら、信用出来る。


 ――まあ、そういう輩も俺の取り巻きが気に入らなかった、なんて理由で殺されたりしてたが。それは、置いておくとして。


「魔法戦闘が出来て、家事も出来る奴隷となると――この女はどうですかな?」

「ん……」


 少し昔の事を思い返しつつ、爺の声に視線を向ける。


 テントの壁際、入り口から一番離れた場所にあるその檻の中で、一人の女が椅子に腰掛けながらこちらを見つめていた。

 軽く纏められている薄い青色の髪、青い瞳。

 商品として見栄えを良くするためだろう、女は良くある使用人らしき服を着せられていて。

 背丈はルシエラよりは低い、と言った程度だったが――中でも特徴的だったのは、その長い耳だった。


「……妖精種(エルフ)か」

「ええ、偶々山賊共から仕入れまして。中々悪くない品だと思いますが、どうですかな?」


 エルフ。

 人間の亜種、というべきだろうか?

 森林の中で過ごすことを是とし、生活環境の違いか魔法を扱うことに長けた人種。

 かつて俺の取り巻きの中にも何人かエルフが居たが、確かに魔法の腕は中々の物だった。

 まあ俺には遠く及ばなかったが、それでも取り巻きの中じゃ魔法での戦闘は上位の腕前だったと言っても過言じゃない。


『ほー、エルフが奴隷にのう。まあ良いのではないか、エル?今日では一番真っ当じゃろ、これ』

「まあな。爺、コイツと会話しても大丈夫か?」

「構いませんよ。そら、挨拶せんか」


 爺の言葉に、白いエルフは椅子から立ち上がると一歩、二歩と俺の方に向かい、改めて視線を向けてくる。

 表情らしきものは、ない。

 人形のように整った顔は無表情で、その瞳は濁りはしていなかったが、何を考えているかも読み取れなかった。


 ……もしかしてコイツ、()()()ないか?色んな意味で。


「……私は、リリエル=アルトリカと言います」

「お、おう……おい、爺」

「この品は引き取った時からこうでしてな。ですが、魔法の腕等には問題有りません」


 ああ、そう言えば山賊から、とか言ってたか。

 という事は家族を目の前で殺されて発狂でもしたのか、コイツは。


「まあ……良いか。おい、リリエル」

「……」


 俺の言葉に、白いエルフ……リリエルは言葉一つ返さない。

 ただ、その青い瞳でこちらを見て、何を言われるのかをただ待っているだけ。

 まるで人形みたいだ。確かにそんなものであっても、俺の要望通りに事はこなせるのかもしれないが――


 ――少し、試してみるか。


「おい爺、ちょっと離れてろ」

「む?何をなさるおつもりで?」


「――リリエル。これから俺はお前を殺す」

『は……いや待てエルトリス、何をするつもりじゃ?いやまあ、私としてもエルフは悪くない食事ではあるが』


 リリエルの瞳は、相変わらず揺れることも無く俺を見ている。

 少し戸惑った様子のルシエラの腕を軽く握れば、ルシエラはむう、と少し眉を潜めつつも――人の姿から、魔剣の姿へと形を変えた。


「な……お、お客様、一体何をするつもりですかな?!」

「心配すんな、どうなっても金は払うさ」


 突然目の前でルシエラが形を変えたというのに、取引のことを心配する辺りこの爺も筋金入りか。

 少しだけ爺の事を気に入りつつ、俺はルシエラの歯車を威嚇するようにギュルン、と鳴らしてリリエルを見る。


 ――相変わらず表情の見えないその瞳に、僅かだが揺らめく物が見えた。

 何だ、何の意思もない人形かと思ったらちゃんと有るじゃないか。


「死にたくなけりゃ抵抗しろ。全力で、死物狂いでな」

「……もし」


 殺意を込めた言葉に、リリエルは臆することもなく、表情も変えずに口を開く。


「もし、私が貴女を殺したら、私は自由ですか?」

「な――バカなことを言うんじゃない!そんな事をしては私に金が……!!」

「良いぜ、その時は俺の持ってる金で自分を買え。残った分はお前が持っていけば良い」

「……まあ、それなら良いんですがな」


 良いのかよ、と内心苦笑しつつ。

 爺のその商魂逞しい言葉を聞いた途端に、リリエルの纏う雰囲気が一変した。

 表情は変わらず、人形のような無表情。ただ――こちらに翳している指先には、可視化出来る程の魔力が迸っている。


 悪くない。案外、いい買い物になるかもしれないな、コイツ。


「――死んで下さい」


 それは、あまり戦闘の経験がないであろう爺にさえも分かる程の殺意。

 ひぇ、と爺が短く声を漏らしながら下がるのと同時に、その魔力が俺に向けて、一切の容赦なく放たれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ、応援お願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ