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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第三章 魔導国と嘲笑う人形師
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15.英傑を超えるモノ

「君たちの手で、英傑を超える物を造るつもりはないかい?」


 始まりは、そんな一言だったと思う。

 英傑であるエスメラルダが台頭して以来、我々魔導人形を――謂わば、対魔族用の兵器を造っていた者達は、すっかり日陰者になってしまっていた。

 我々が魔導人形を造るまでもなく、エスメラルダはソレ以上の戦果を容易くあげていくのだから、堪らない。

 しかも魔導人形とは違い製造コストもかからないエスメラルダは、正しく我々の仕事を根こそぎ奪い去ったのだ。


 後に残ったのは、魔導人形の技術を転用して日常生活に使える小道具を造る、そんな日々。

 日銭を稼ぐのがやっとで、物を完成させた所で誰に称賛されることも無い――我々を雇った貴族に大半を搾取されてしまう、そんな乾いた日常だけ。


 そんな最中だった。

 とある貴族が、我々に声をかけてくれたのは。


 貴族はいわゆる反英傑派の人間で、我々に幾らでも出資するから最高の魔導人形を作り上げてくれ、と軽く口にして。

 我々も最初はそんな貴族を懐疑的にしか見ていなかったものの――ぽん、と軽く出された多額の研究費用を、開発費用を見てしまえば、その考えはすぐに消えて失せた。


 これだけの金があれば、以前は費用の関係で出来なかった武装の開発や、魔導人形さえも作り出す事ができる。

 乾ききった日々を送っていた我々にとって、それはまさしく天啓のようなものだった。

 別に、英傑であるエスメラルダに恨みが有るわけではない。

 有るわけではないが――英傑よりも優れた魔導人形を作り出すことができたのなら、我々は英傑を超えたといえるのではないだろうか、という、そんな欲望が首を擡げたのだ。


 その日から、我々は雇い主だった貴族を捨てて、反英傑派の子飼いとなった。

 私達に声をかけてくれた貴族はある日を境に居なくなりはしたものの、不思議なことに出資が滞る事はなく、我々が望めば望んだだけの費用と援助してもらえて。

 それは、正しく天国のような日々だったと思う。


「――ふふ」

「どうしました、班長」

「いや何、もう直に完成すると思うと心が踊ってな」


 ――そして、その魔導人形も完成が見えていた。

 後は、この魔導人形を動かすのに必要な動力源を組み込んでテストをすれば、英傑を超える魔導人形が完成する。

 無論、その英傑というのはエスメラルダに対しての言葉では有るが――このまま援助を受けられれば、何れは三英傑全てを凌駕するモノさえ、我々は作り上げる事が出来るだろう。

 その時、我々は世界から称賛を浴びるはずだ。

 英傑のような突出した存在を必要とせず、我々の造った魔導人形たちが魔族を、六魔将を、そして魔王を打ち倒す――その現実を、見せつけることが出来たなら、必ず。


「しかし、面白いものですね。私達以外にも()()()()()を持つ方が居るとは」

「ああ、まあ反英傑派の指導者らしいからな。元々そういった物を模索していた人達だったのかもしれん」


 反英傑派の指導者――いや、指導者達というのが正しいか。

 彼らは我々の技術に喜びつつも、こちらの知り得ない埒外の知識を時々授けてくれた。

 それは魔法的なものだったり、或いは物理的なものだったりと様々だったが、この魔導人形がここまで辿り着けたのは、間違いなく彼らの助力のお陰だろう。


「感謝せねばな――」


 沢山の人間の協力を元に完成間近まで来た魔導人形を見つめながら、感慨深く呟いてしまう。

 5mを超える巨躯に、とある機構を組み込んだ故に出来た肩口から生えた一対、背中から伸びた三対の八本腕は、実に仰々しく……英傑を超えるモノとして、相応しい外見で。


 私は、そんな物を作り上げた事に誇りさえ感じながら――……




 ……不意に響いた爆発音と、それと同時に来た衝撃に、思わず床に倒れ込んだ。


「――っ、一体何事だっ!?」

「わかりません、上の階で何か――……っ」

「大変です、班長!上の階で爆発があったようで……急いで非難を!!」

「何だとッ!?」


 一体何が起きたのか。

 爆発、といっても上の階には爆発するようなモノなど置いては居なかったはずだ。


 ……いや、今はそんな事はどうでも良い。


「だ、だがこれは、魔導人形はどうするのだッ!?」

「大丈夫です、建物の崩落程度では損傷すらしませんから――……?」


 崩落に巻き込まれたら、という考えが浮かんだものの、指摘されてみればたしかにそうかと頷いて。

 不意に、私にそう答えていた同僚が、何やら魔導人形を眺めている事に気がついた。


「どうした?」

「あ、いえ、今上から何かが、落ちてきたような」

「アレほどの衝撃だ、天井が欠けでもしたんだろう。兎も角、一旦非難を――」


 事も無げにそう答え、貴重な資料だけを手にして地下研究室から出ようとした刹那……ガコン、と。

 動くはずもない、動力がまだ組み込まれても居ない魔導人形が、音を立てたような気がして振り返った。


 ――ありえない。

 動力が無いのだ、誤作動すらありえない。


 なのに……魔導人形が、独りでに動き出して――……


「……今までご苦労さま。僕の為に、立派な体を作ってくれて有難う」

「な――」


 何が起きている、と口にするまもなく、動き出した魔導人形は立ち上がり、天井を破砕した。

 天井から降り注いだ瓦礫が出口を塞ぎ……そして、我々の上にも、降り注いで――……


「……ぁ」


 ……ぐしゃり、ぐしゃりと潰される感覚の中。

 自らが作り上げた魔導人形が動き出したその姿を見て――それは、私が待ち望んでいたものだった、筈なのに。

 何故か、天井を突き破り地上に向かうソレを、酷くおぞましい、なんて思ってしまった。








「今の爆発は――向こうかッ!」


 館の主である人間――いや、あの身のこなしを見るに恐らくは魔族だったのだろう者を追いかけていったエルトリスを見失った、一瞬後。

 少し離れた所から上がった爆発と煙に、私達は直様そちらへと駆けていった。


 幸いだったのは、私達が山勘で追いかけた方角がさほど的外れではなかった事だろうか。

 爆発があった方角へと向かえば、おそらくはそれから逃れようとしているのだろう、次々と怯えた様子の人々がこちらへと駆けてきて。


「……っ、ごめんなさい、私は皆を誘導しますっ!」

「ああ判っている、そちらは頼んだ!」


 私達のペースに合わせてくれていたエスメラルダは、そう口にすれば逃げ惑う人々の目印になるように空を飛び、声を張り上げていく。

 普段話している分には頼りないが、成程三英傑というだけはあり、こういう時の対応力は大したものだった。

 エスメラルダを見た人々は安堵の声を上げながら、パニックに陥りかけていた状態から少しずつ落ち着きを取り戻し、避難を始めていって。


「――アミラ様、先に」

「ん……どうした、リリエル」

「少し、気になることが」


 そうして、再び爆発の現場へと駆けていく最中、今度はリリエルが何かを見つけたように、逃げ惑う――いや、今では整然と避難をしている人々から少し離れた所に、視線を向けていた。

 つられてそちらを見れば、そこには避難の流れから逸れるように、身なりのいい男達が別方向へと逃れようとしていて。


「何か、必要なことなんだな?」

「はい、恐らくは。終わり次第、すぐに向かいます」


 リリエルの言葉に小さく頷けば、私達はそれ以上言葉を交わすこと無く分かれた。

 私はそれに何の意味が有るのかは判らなかったが、リリエルはこんな状況で無駄な事をするとは思えない。

 きっとそれが必要だからこそ、それをするのだ。


 ならば私は、私が必要だと思う事をしよう。


「――とは、いえ」


 そうして、爆発の現場なのだろう。

 二階が吹き飛んだ大きな建物の前に立てば、私は少し頬をひくつかせた。


 ――そこに居たのは、吹き飛んだ部分から覗いている銀色の巨体。

 無論、巨体とは言ってもあのバンダースナッチよりは遥かに小さいが、それでも余りにも大きな八本腕のそれは、威容を放っており。

 僅かに、こんな相手に私が一体何を出来るというのか、という考えが浮かびそうになるが――……


 それと対峙する――顔を赤く染めている、明らかに本調子には見えないエルトリスを見れば、そんな考えはすぐに吹き飛んだ。


 私は、私が出来る事をやる。

 そう、ただそれだけだ。


 トン、トン、と崩れた瓦礫を蹴り、隣の家屋へと登れば私はマロウトを構える。

 大森林ほどの自然はなく、こんな街中では十全な力は望めないが、それでも援護には十分だろう。


「援護するぞ、エルトリス」

「ああ、頼む」


 そんな短いやり取りを交わせば、私は牽制とばかりに矢を放ち、それに合わせてエルトリスは巨体へと挑みかかって――目の前の巨体が、魔導人形が、そんな私達に何故だか酷く愉しげに嘲笑ったような、そんな気がした。


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