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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第二章 大森林に巣食う魔卵
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9.少女、気づいてしまう

「――うむ、やはり着いてこれるな。何よりだ」

「成程、確かにこっちは慣れてない奴には判らないわな」


 トン、トン、とアミラに着いていくように着地しつつ、再び跳ぶ。

 ルシエラを片手に着いていく俺と、少し息を切らせながらも着いていくリリエルを見ながら、アミラは安心したように笑みを零した。


『しっかし、良くこんなルートを考えるのう。というか、本当に道は解っておるのか?』

「心配ない、幼い頃から慣れ親しんだ森だからな。目を瞑っていても進める程だ」

「それは……凄い、です……ね」

「いやまあ、それは流石に冗談だが。大丈夫か、リリエル?」

「……まだ、大丈夫です」


 ルシエラの言葉に冗談交じりに答えつつ、呼吸が乱れ始めているリリエルを見れば、アミラは木々から覗く太陽の位置を見て。

 それで時間を確認でもしたのか、一際太い足場を探して着地すれば、そこで立ち止まった。


 リリエルは表情こそいつも通りではあったものの、それでも多少なりと疲弊していたのか。

 立ち止まれば、乱れた呼吸を整えるように軽く深呼吸をして――そんなリリエルを尻目に、俺は眼下に広がる光景を見た。


「……うわ」


 思わず、声が漏れる。

 まるで手すりも壁もない塔の上層から、真下を見下ろしているかのような感覚。

 くらりと足がふらつくような錯覚を覚えながら、俺はふるふると頭を左右に振った。


『お、なんじゃなんじゃ。エルちゃんは高い所が怖いのかのう?』

「バカ、バーカ。んな訳無いだろ、ただ慣れないってだけだ」

「こら、あまりふざけるなよ。ここから落ちたら大変だぞ」


 からかうようなルシエラの声と、それを嗜めるアミラの言葉に小さく息を漏らす。

 確かにこの高さから真っ逆さまに落ちたら、面倒なんてものじゃない。


「……ですが、最後はここから――()()()から、落下するのですよね?」


 ――そう。

 大森林に群生している、巨大な木々の上。

 俺達はその上を跳んで移動しつつ、奴の……卵型の魔族のいる集落へと向かっている真っ最中だった。

 リリエルの言う通り、射程まで入れば奴が気づく前に攻撃を仕掛ける――つまりは、落下する事になる。


 ……まあ、正直もっと真正面から戦いたいのはあるが。

 アミラなりに勝つ為の方策を練った結果なのだから、それに口を出すのは無粋ってものだろう。


「ああ、そうだな。奴の真上からの一撃で、面妖な術を使わせる間も無く一気に仕留める」

「ですが、障壁はどうやって突破を?」

「それならば多分問題はない。私がなんとかする」

『その弓で、か。私程では無いが、それも一廉(ひとかど)の魔よな』


 心配するような言葉に淡く笑みを零しながら答えると、アミラは背負っているその魔弓を軽く撫でた。

 ルシエラの言葉通り、アミラの使っているそれもまたルシエラと同等――とはとてもではないが言えないものの、一級品の魔法の武器だ。

 先にアミラとの戦いで見ただけでも、放つ矢に暴風を纏わせたり、形を変えて様々な射撃を可能にしたりと様々な芸当を見せてくれたし、なんとかするというその言葉も自信あっての事なのだろう。


「私の家系に伝わる魔弓、マロウトの事か。まあ、確かに貴女には及ばないな」

『ふふん、当たり前じゃろう。私は世界最強の魔剣じゃからな!』

「そういやアミラの弓はルシエラみたいに喋れないのか?」

「無茶を言うな、全く。そんな事を出来る物などそれこそ伝承に語られたりするような規格外(いっぴん)だぞ?まあそうだな、一応英傑の一人が持っているとは聞いたが……」

「はは、良かったなルシエラ。伝説クラスの年季の入りようだって――う、わぁっ!?」


 いつの間に剣から人型になっていたのか。

 俺をひょいっと小脇に抱えれば、ルシエラは眉をピクピクとさせながら太い枝の端に立って――


「お、おい、何を――」

『何度仕置しても懲りないのう、エルちゃんは……ほーれ、ほーれ』

「わっ、ば、バカやめろ、こらっ!?」


 ――あろうことか、馬鹿剣は俺の両足首をつかめばそのまま逆さ吊りにして、ぶらんぶらんと揺らし始めた。

 束ねた髪の毛をぶらんぶらんと揺らしつつ、ぐらんぐらんと揺れる視界に声を荒げる。


『くっくっく、可愛いパンツを丸出しで暴れて、恥ずかしい奴だのー♪』

「ば……っ、ば、ばかっ!!」


 ルシエラの言葉に慌てて俺はスカートを抑え込んだ。

 胸が邪魔なせいで見えないけれど、スカートは短いせいで逆さにされると全く下着を隠せず、否応無しに晒されてしまっているのが解ってしまって、恥ずかしい――


『ぷ……っ、く、ふふっ。だーいぶ染まっておらんか、エルトリス?』

「な、なにを……」

『――下着を見られて慌ててスカートを抑えるなんて、とぉっても女の子らしいぞ♪』 


 ――そう指摘されて、俺は一気に顔を熱くしてしまった。

 そうだ、そうだった、何で俺は、必死に慌ててパンツなんか、隠して――!?


『ま、心は体に引っ張られるとは良く言うからのー』

「う、うるさいっ!もお、やめてってばぁっ!!」

『くく、まあ良かろ。下手に尻を叩くより良い罰になったしのう』


 スカートから手を離そうとは思ったけれど、それでパンツが晒されてしまうと思うとどうしてもそれが出来なくて。

 顔を真っ赤にしながら、取り繕う事も出来ず叫ぶ俺を見れば、ルシエラは満足げにホクホクとした笑顔を見せつつ、ようやく俺を枝の上に下ろしてくれた。


「ふふ、まるで姉妹か親子のようだな、二人共」

「だ、誰が姉妹だ、こんな馬鹿剣と!ただの一蓮托生な腐れ縁なだけ――」

『そうじゃぞ、私とエルちゃんは一心同体のパートナー♥じゃからな?』

「まあ、とても仲が良いというのは事実かと」

「――っ、~~~~……っ!」


 もう限界と思っていた顔が更に熱くなるのを感じつつも、今言葉を出せば間違いなく、きっと今以上に恥ずかしいことになるのは解ってしまって。

 俺はぐぐぐ、と歯を噛み締めつつ言葉を飲み込むと、思い切り息を吐き出した。


 落ち着け、落ち着け……この上、癇癪起こした子供みたいな言葉を吐いたら、一生モノのトラウマになりかねない。


「……もう、休憩は十分でしょ。さっさといくよっ」

「ああ、そうだな。後は休みなしで行こう」

「了解しました」


 そうして落ち着かせた筈の口から、まだちょっとおかしな感じの言葉が出ると、大分恥ずかしかったけれど。

 ひとまず話題を打ち切らせる事に成功した事に、安堵しつつ――……


「く、ぅ……体に、引っ張られてるなんて……んな訳、ない……っ」


 ……思わずスカートを抑え込んでしまった事は、少なからずショックで。

 もっと気をつけないと、意識しないと不味い、と改めて認識させられてしまった。


 ともあれ、ここから先は休憩なしで例の卵魔族に攻め込むわけだし。

 うん、今の恥ずかしい出来事は、それで忘れてしまうとしよう。

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