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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十三章 勇者と魔王
357/365

23.来たるべき時

 ――おかしい。

 おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい。

 何故これは生きている。

 確実に息の根を止めた。その力の源さえも砕いた筈なのに、どうしてここに立っている――!?


 女神は、混乱の渦中にあった。

 無論、頭骨を砕く程の拳打によるダメージは無視できる物でない。

しかしそれ以上に今眼前に居る女性が、未だ健在であることに女神は戸惑いを隠せなかった。


 死なずとも、こんな力を発揮できる筈がないのだ。

 彼女の――エルトリスの力の源であろう武器は、確かに砕いた。

 そして、今確かに、彼女は武器を持っていない。


 だと言うのに――


『こ……の……っ、家畜(バグ)が、作物(バグ)風情が――!!』

「うるさい」


 ――だと言うのに、エルトリスの動きは常軌を逸していた。

 先ほどと同等どころの話ではない。

 女神さえも圧する程の膂力を、速度を彼女は持っていた。


 再び命を絶とうとした女神の右手を、エルトリスは無造作に弾き飛ばす。

 輝く掌ではなく、腕を砕き潰すかのように殴りつければ、エルトリスは再び女神の顔面に拳を叩き込んだ。


 一撃、二撃、三撃。

 容赦なく叩き込まれる拳は、女神の美貌を容赦なく叩き潰す。


『――……!!』


 だが、女神は止まらない。

 頭骨を砕かれ、その内側も潰され、明らかに生物であれば死んでいるであろうダメージを負っても尚、それは死ななかった。


 生物としての規格が違う。

 神は、そもそも滅ぶようには出来ていない。

 生殖を必要とせず、基本的に増えることの無い神に滅びは必要ないからだ。


 故に、女神は死なず――ただ、目の前の存在に憎悪を滾らせた。


 殺す。

 喰らう必要もない、こんな汚物(バグ)を取り込むなど耐えられない。

 生育を促す肥料としては、飼料としては優秀だったが今となってはそれもどうでも良い。


 こんな、創造主に無礼にも拳を振るうような輩など、私の世界には必要ない――!!


 パァン、と女神は自分の手を叩き合わせる。

 同時にエルトリスの身体を淡い光が包み込んだ。


『き――え、ろ……ッ!!』


 ごぽり、と赤い血を吹き出しながら、女神は呪いの言葉を口にする。

 強制消去(デリート)

 女神が、創造神が最終手段として用いる、本来なら決して使うことがない権能。

 それを作るまでに使った年月も、リソースも、何もかもを消去する――つまりは創造神は丸損してしまうその権能を、女神はためらう事無く使用した。


 これでいい。

 損失は大きいが、バグのリソース分は何度か世界を作り、捕食すれば補填できる。

 今は、一刻も早くこのバグを消去しなければ――


「――忘れたの?」

『……あ?』


 ――しかし、エルトリスを淡く包んだ光は、いつまで経っても彼女を消去する事はなかった。

 否、出来なかった。

 リソースが大きいから消去できないという訳ではない。

 エルトリスに触れている光が、その端から喰らわれているのだ。


「アンタは、前も私が死ぬまで手出し出来なかったじゃない。自分が弱者だってこと、思い出した?」

『ふ、ざ――っ、バグが、バグ風情が、この(わたし)を見下す事なんて――!!』

「……見下してなんかないよ。うるさいから、死んで」


 非常手段。最終手段さえも容易く弾かれたのを見れば、女神は取り乱し。

 そんな女神をつまらなさそうに見ながら、エルトリスは再び、その顔面に拳を叩き込んだ。


 他の部分は殴っていない。

 そうする事もできたが――ただ、顔面を殴りつけたほうが、溜飲が下がる気がしたから、そうしているだけ。


 ばちゅん、と頭を弾けさせながら、女神は大きくのけぞり――しかし、再び身体を起こす。


『……っ、く、ふ』


 そして、最初にそうしていたように。

 何かを思い出したかのように、女神は醜悪に笑みを浮かべてみせた。


「エルトリス!それに何もさせちゃ駄目だ!!」

「うん、判ってる」

『くふっ、ふふ――ぐ、ぶぁっ』


 その醜悪な笑みが再び殴り潰される。

 その身体が、黒刃に両断される。


 赤い血を撒き散らし、耐え難い屈辱を味わいながらも、しかし女神は笑うことを止めなかった。


『――ああ、そうだったわ。別に、貴方達は無視しても、いいんだった』

「……?」


 ぽつり、とつぶやいた女神の言葉に、エルトリスは眉を顰める。

 その間も攻撃の手は緩めていない。

 死なないと言うなら死ぬまで――何もできなくなるまで、殺し続けるだけだと言わんばかりに、容赦なく。


 そのたびに再生し、修復し、女神は醜悪に笑っていた。


『……良いの、かしらぁ?帰るべき場所が、なくなるわよ?』


 そして――女神は、勝利を確信したかのように、勝ち誇ったかのように二人を嘲笑う。

 幾度となく潰され、斬られ、本来なら死んでいて当然のダメージを負いながら――目の前の二人に完全に圧倒されていながら、しかし見下すように。


「……まさか」

『くふ、ふふ……っ!ええ、ええ。そうだったわ、あなた達は最後で良いんだものねぇ?先に前菜(オードブル)から済ませてくるとするわ――!!』


 その笑顔に嫌なものを感じたのか、少年がはっとすれば、女神はケラケラと笑いながら、まるで水面にでも沈むかのように風景に溶けた。

 強い存在感も消えれば、女神は二人の前から完全に消失し――


「……ミカエラ。居る?」


 ――そんな女神を見ながら、エルトリスは小さくつぶやく。

 同時に、風を裂くように現れたのはルシエラ――と瓜二つの姿をした、もう一振り。

 ルシエラに妹とされた、ミカエラだった。


「……姉様、は」

「ごめん。後で私のことを、殺しても良いよ」


 ミカエラの言葉に、エルトリスは小さく言葉を口にする。

 それだけで理解したのだろう、ミカエラは目を見開くと、ふるふると肩を震わせた。


 実際、エルトリスは今此処でミカエラに殺されたとしても、文句一つ言うつもりは無かった。

 だが、ミカエラはそんなエルトリスの表情を見れば、ふるふると頭を振る。


「姉様は、そこに居ます」

「……ここに、か。ん、ありがと」


 エルトリスはミカエラの言葉に、自分の姿を見る。

 ルシエラが入り混じった今の自分の姿こそ、まだルシエラが居る証左だと。

 その言葉に、僅かに救いを感じれば――エルトリスは、ミカエラの手をとった。


「既に、民も守りに向かわせました。来たるべき時が来たのです……行きましょう、エルトリス」

「うん。行こう……君も、一緒に」

「……うん」


 少年とエルトリス、ミカエラは手を取り合えば、小さく頷きあい。

 そして、エルトリスはルシエラにそうしていたように、ミカエラを纏えば――ひゅん、と虚空を切り裂いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 言われてみれば、前の時も死ぬまで手を出せなかったですね。 そう考えるとたしかにエルちゃんはバグこの上ない。 滅びない相手とどう戦うのかな… ミカエラ久しぶりですねぇ! 呼ばれたらいつでも…
[良い点] ルシエラなんで、、、あれかな寄生獣のミギーみたいに一時的に休眠状態に入って一体化して、たまに夢とかで現れてくれる存在になるのかな、、、急すぎてショックだよミカエル頑張れ
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