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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十三章 勇者と魔王
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16.幕間/妖花、返り咲く

 ――ああ、死ぬのだな。と、どこか冷静に、私は思考していた。

 落ちていく、堕ちていく、墜ちていく。

 今更それを止める手段はない。

 魔王の一撃でその殆どを失った私では、最早何を行う事もできない。


 ……ただ、無念だった。

 出来得る限りの足止めをした後は、どんな形であれど戻るつもりだったから。


 クラリッサ。

 アシュタール。

 イルミナス。

 ……それに、エルトリス、リリエル、アミラ、エルドラド――ああ、それにアリスとバルバロイも。


 もう少し。

 後少しで、私は私の理想を、その目にできそうだった気がしたのだ。


 ――まあ、だからといって今更時は戻らない。

 魔王から受けた傷は致命的だ。

 創世の水はその機能の尽くを喪失し、霧散した。

 辛うじて頭部だけは残ったけれど――それも、この高所からの落下で叩きつけられれば、その機能を喪うだろう。


 そうすれば、残るのはただの水。粘液。

 そこに、私の知性はきっと残らない。


 だから、残念だ。

 私は――ああ、そうだ私は、もっと、生きたかったのに――……


「――私以外に殺されるつもり?」


 ……そんな私の脳裏に、懐かしい声が聞こえてきた。

 ああ、そうだった。

 あの子はまだ、私の内に居たのか。

 私が弱っているから――だから、表に出てこれたのか。


「なんて無様。私に大見栄切って、私を打倒した貴女がそんな有様だなんて、笑えてくるわ」


 ――私の内側から、ずるりと――サイズを無視して這い出してくる、彼女。

 相変わらず無力な身体のままだけれど。でも、その表情は彼女らしさそのままだった。


 確かに、アルルーナには悪い事をしたかもしれない。

 私の理想のため、それを果たすために彼女を討ち滅ぼしたというのに――だというのに、その結末がこれでは、彼女も報われない。

 ……無論、彼女に報うつもりも無いが。


「……認めない。私以外の何かに殺されるアンタなんて、私は認めない」


 ただ。

 後は地の底に落ち、死にゆくのを待つばかりとなった私を、アルルーナは唇を噛みながら睨みつけた。


「私に死を許可しなさい、アルケミラ。貴女はこんなところでは死なせない――貴女はもっと栄え、もっと伸び、繁栄して、その上で私に殺されなければならないのよ――!!」


 ……なんて、自分勝手。

 ああ、でもそうだった。

 いつも自由だった――アルルーナは自分勝手で、自己中心的で、他人のことは踏み台としてしか、糧としてしか見ていない。


「――アルケミラ!!私も貴女も、こんな所で死ぬ訳がないでしょう――!?」


 ただ。

 ――ああ、ただ。

 ずっと、ずっと……気が遠くなるくらい、昔。

 まだ私もアルルーナも幼かった頃、彼女は、こんな顔を私に、向けていた気がする。


 ……だから、私は彼女に強いていた楔を、外した。

 何が有っても死ねないという楔を外せば、彼女に残るのはただの脆い身体。

 これで、彼女は何時でも死ぬ事ができる。


 ……それで良い。

 ただの粘液に成り果てる前に、せめて、嘗ての友人を救えたなら。

 きっと意味はあるのだろうから――


「――くふっ。くふっ、ふふふふ――っ」


 ――アルルーナは、そんな私を見て嘲笑った。

 いつもの、他人を見下した、小馬鹿にしたような笑い方。


「バァカ。本当に馬鹿ね、アルケミラ(バカ女)


 躊躇いなく、アルルーナは自らの舌を噛み切れば、ごぼ、と音を鳴らしながら――苦痛を感じているのだろう、表情を顰めつつも、私を見た。








 瞬間。

 地の底から、それは現れた。

 うぞるうぞると繁茂する蔦。

 それと繋がる、新緑の女体。


 ――ああ、そうか。

 私はアルルーナのおおよそを滅ぼしたと思って、居たけれど。


 彼女は、私さえ探れない地の底深く。

 誰もたどり着けはしないその場所にも、自らを分けていたのか――


「――くふっ、くふふふふっ!!あはっ、きゃははははは――っ!!!!」


 狂喜するアルルーナを見ながら、私は徐々に胡乱になっていく意識の中で、良かった、だなんて考えてしまう。

 アルルーナは、きっとエルトリス達にとって害を為すだろう。

 私の理想にも、害をなすだろう。

 だというのに――胸に去来したのは、心からの安堵だった。


 私が消えても、アルルーナが存在しているのであれば、まあ、仕方ない。

 そんな奇妙な納得を得ながら、私は目を閉じて――


「……っと、いけないいけない。ほら、食べなさいアルケミラ」


 ――そんな私に、アルルーナは果実を無理やり、ねじ込んできた。


「――っ、~~~~……っ!?」

「アンタは私が殺すけど、でもそれは今じゃないわ。さっさと食べて増えなさい、アレを排除するんだから」


 体内に強引にねじ込まれた果実を分解し、吸収する。

 ……それだけで、幾分か私は、私を取り戻す事が出来た。


「ほら、さっさと次も食べる。万全までは戻せないでしょうけど、安定するまでは喰わせるわよ」

「……っ、ま、待ちなさい、んぐっ!?な、何の――んむ、ぅ――っ!?」

「――くふっ」


 やっと言葉を口にできる程度に回復した私を見れば、アルルーナは次々に、矢継ぎ早に果実を私の口にねじ込んでいく。

 人の形を――とは言っても、まだ小さいけれど――取り戻した私の身体は、果実をすぐさま消化することは叶わず、段々と、重みを、増して――


「くふっ。くふふふっ、きゃははははっ!!なぁにその身体、不格好ねぇ♪」

「ん、ぶ……っ、あ、あなた、が……っ」


 ――ずっしりと膨らんだ、まるで肥えたようになった身体を、アルルーナの葉の上に載せながら。

 私は、心底楽しそうに嘲り笑う彼女を睨み――そんな私を見て、旧友はパン、と手を合わせた。


「あー、笑った笑った♪さあ、愉快なことをしましょうアルケミラ」

「ゆ、かいな……こと……?」

「ええ。貴女を殺したと思ってる奴に、吠え面をかかせるの。あの澄ました顔を横合いから殴りつけて、余裕を台無しにするの――楽しいと思わない?」


 アルルーナは、以前と何一つ変わらない。

 ……いや、或いは変わったのかも知れない、けれど。

 魔王という新しい標的を見つけた彼女は、酷く楽しげに――どうやって彼を貶めようか、苦しめようかと、頭を働かせていた。


「……ほぉら、まだまだ食べ物はあるわよ、アルケミラ?くすっ、いっそアルケミラちゃんとでも呼んであげましょうか?」

「……結構、です……んぐっ!?や、やめ――んぶっ、ん――っ!!」

「あらあら、お腹どころか顔も脚も、腕も膨らんじゃったわねぇ♪くふっ、くふふふ――っ♪」


 ――無論。

 その間、私を弄ぶ事を、全く忘れる様子もなく。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] アルルーナはやはり良いキャラ… あの時命をつなぎとめて、決闘の時にやっと回復したのかな。 アルケミラは自分の分身を貯蓄していたけれど、アルルーナもまた、分身を残していたのですね。 2人とも…
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