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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第二章 大森林に巣食う魔卵
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8.抵抗勢力、動く

 おお、と小屋の外に集まっていたエルフ達がどよめく。

 ……考えたくもないが、理由は間違いなく俺だ。だって視線が俺の方に向いてるし。

 恐らくは意識を失っている間に色々と整えられた身嗜みが、エルフ達のお眼鏡に叶ったのだろう。


『ぷっくく……良かったのうエルちゃん?』

「……うるさい」


 ルシエラのからかいの言葉に顔を熱くしつつ、小さく息を漏らす。

 ……服装だけではなく、髪型まで整えられてしまった今の自分の姿は、想像するに恥ずかしい。

 革の篭手やコルセットにベルト、ブーツはまあ良いとしても――というか、それに関しては普段ルシエラに作ってもらってた物より良いのだけれど――それ以外の短いスカートや所々を飾るフリルが、どうしても慣れなくて。

 気絶している間に後ろに……確かポニーテール、というんだったか。

 纏められた髪を若草色のリボンで結われてしまっているのが、時折それが髪を、頭を撫でるせいで嫌でも解ってしまう。


「は、ぁ」

「……そんなに嫌だったのか?すまない、似合うと思ったのだが」

「ああいや、良い。嫌ってよりは受け入れたくないだけだから」


 アミラの心底申し訳無さそうな声に軽く返すと、もう一度溜息を漏らしてから顔を上げた。


 ……そう、嫌というわけではないのだ。

 というか、前までルシエラに着せられていたソレよりも、今の格好のほうが機能的だし動きやすいまである。

 髪の毛だって邪魔にならないように結われているのだから、戦う時にだって今の格好のほうが良いに決まってる。

 戦いの装いとしては以前よりも改善されているのだから、文句を言うのはお門違いなのは、よく解っているのだ。


 ただ、それが()()()()()だというのが、凄まじく恥ずかしく、情けなく、納得したくないというだけ。


「……よし、もう大丈夫。踏ん切りを付けた」

「そ、そうか。では――」


 何とか自分の中で折り合いをつければ――少なくともそうするフリをすれば、ちょっとだけ顔の熱も収まり。

 こちらを気遣っている様子だったアミラにそう告げると、アミラは少しだけホッとした表情を見せながら、集まっていたエルフ達に視線を向けた。


「――では、これより魔卵討伐作戦会議を行う!立場に囚われず、忌憚なき意見を述べよ!」


 小屋の前に集まっているだけだったエルフ達が円陣でも組むかのようにスペースを空ける。

 それと同時に、空いたスペースに――円卓、といえば良いのだろうか。

 丸太で出来たようなそれが地面から生えれば、アミラと俺達はその一角に立った。


『ほれ、見えんじゃろ』

「……ん」

「済まない、椅子を用意するべきだったか」

『いらんいらん、エルちゃんの世話を奪うでない』


 ……当然、俺は背がまるで足りず、円卓の下を除くような形になってしまっていたので、仕方なくルシエラに軽く抱いてもらう。

 椅子を、と言われたが……それはそれで、子供だけ特別に高い椅子を、といわれているような気がするので勘弁してもらいたい。


 ルシエラに抱かれて円卓の上を見れば、木で造られたその表面に何かが刻まれている真っ最中だった。

 リリエルが氷を扱う魔法を得意としているのなら、これをしているエルフは木を扱う魔法を得意としているのだろう。

 これだけの大森林の中ならきっとその方が安定して強いんだろうな、なんて考えつつ円卓に刻まれていくモノ――恐らくはこの大森林の地図であろうそれに、視線を落とす。


「私達の居る拠点から、奴が根城にしている集落まではおおよそ半日程度。以前打ち合わせたとおり、部隊を三つに分けてそこを叩く」

「三つ、ですか?」

「ああ。まず奴の手駒とされてしまった同胞達の相手をする陽動部隊。一定数集落に残っているであろう者たちを相手にする、侵攻部隊。そして――」


 リリエルの疑問に、アミラは小さく頷きながら大きな円を指でなぞり、その侵攻ルートを指し示す。

 一番大きな円は、集落の正面から。

 次に大きな円は、大きく弧を描いて集落の両側面を。


「――本来ならば私と極少数を連れて行く筈()()()、奴を叩く主力部隊だ」


 そして、一番小さな円を軽くなぞれば、アミラは俺達の方へと視線を向けて笑みを零した。


「私と同行するはずだった者には陽動部隊、それと侵攻部隊の指揮を任せたい。出来るか?」

「はい、滞りなく」

「お任せ下さい、アミラ様」


 アミラのいう極少数なのだろう、周囲のエルフ達と比べて明らかに練度が違うその二人は小さく頷くと、俺達の方へと軽く頭を下げて。


「……アミラ様をどうか、宜しくおねがいします」

「ああ」


 成程、多分さっきのアミラとの一戦で俺と自分たちの力の差を理解したのだろう。

 その言葉には悔しさこそあれど、それは自らの力不足に対するものであって、俺への嫉妬とか不満みたいなのはまるで無く。


「良い下僕だな」

「しもべ……いや、彼らは幼い頃からの友人さ。だから、安心して任せられる」

「……そんな、もんか」


 ……友人、というのは良くは判らなかったけれど。

 俺にとってのルシエラみたいなもんかね、なんて考えれば、何となくだが納得できた。


「さて、では私達主力部隊だが。出来得る限り、奴に存在を察知されないように動きたい」

「手駒になった連中を送られると、面倒なことになりますからね」

「ああ。だから、我々はこの森の住民でない奴には()()()()()()()()から攻める」

「……察知できない?」


 俺の頭に浮かんだ疑問符に、アミラはにんまりと笑みを浮かべながら小さく頷けば。


「――まあ、エルトリス達ならば着いてこれるさ」

『何じゃ、もったいぶるのう。まあ、私には関係ないっちゃないんじゃが』


 そんな、ちょっとだけもったいぶるような。

 それでいて、こちらを信頼しているような口ぶりで、俺達の疑問を軽くはぐらかした。








 そうして、軽い作戦会議が終わった後。

 出陣前の準備と休息ということで、少しだけ弛緩した空気の中。

 ふと、何かを忘れているような――そんな気がして、拠点の中を軽く歩き回る事にした。


 しかし、忘れてるような、とは言っても一体何を忘れているんだったか。

 俺自身何かが引っかかっているような気がしたけれど、それの正体が判らず首を捻り――


「あ」


 ――そして、拠点から少しだけ離れた木陰に居るそいつを見れば、その正体がようやく解った。

 木陰で座り込んでいたのは、どこかいじけた様子のワルトゥで。

 そういえばここに来てからろくに姿も見てなかったな、なんて思いつつ――絡まれると面倒そうだから、気づかれる前に立ち去る事にした。


「――あ、エルトリス……さん」


 ……したのに。

 どうしてこういう時に限って勘が良いのか、ワルトゥはどうやら俺が見ていたことに気づいてしまったらしい。

 このまま無視しても良かったが、そうすると拠点を歩いてる間延々とワルトゥに付きまとわれかねないし、そっちの方がどう考えても面倒で。


「……んだよ。何か用か?」

「あ……い、いえ、その。ちょっと……いい、ですか」


 正直言えば断りたかったが。

 仕方なく、本当に仕方なく。溜息を漏らしながら、俺はワルトゥの近くまで歩くと軽く見下した。

 ワルトゥは俺のことを見ながら、しばらくの間口ごもっていたものの。軽く深呼吸をすれば、立ち上がって。


「――どうすれば、そんなに強くなれるんですか?」


 ――俺より少しだけ上から、ワルトゥはその気弱そうな顔で、しかし真剣な声色でそう口にした。


 どうすれば、強くなれるのか。

 前の身体の頃から幾度となく聞いたような気がするその言葉には、二つの意味合いがある。

 一つは、どうすれば簡単にお前のようになれるのか、という狡い考え。

 そしてもう一つは――……


「……はぁ。どうして強くなりたいんだ、テメェは」

「僕も、アミラ様やエルトリスさんみたいに強く、なりたくて」

「そうじゃねぇ、強くなってどうしたいんだって聞いてんだよ」

「それ、は――……もう、逃げたく、なくて。だから……」


 ……もう一つは、現状よりもどうにかして強くなりたい、という必死な考え。

 前者だったのなら、俺は多分ワルトゥを蹴りつけてそのまま拠点に戻っていたと思う、けれど。

 どう考えても、邪推しようとしても、ワルトゥのその言葉は後者でしかなく。


「……考えろ」

「え?」

「どうやれば勝てるか、どうやったら強くなれるか――どうやったら殺せるか。ちゃんと考えるんだよ」


 だから、嫌々ではあったけれど、そう答えた。

 身体を鍛えろだとか、魔法を覚えろだとか、そういう事を言う奴も居るんだろうが、俺にとっては強さとはそれだったから。


「で、でも――僕なんか、じゃ……あ、うっ!?」

「思考放棄するんじゃねぇ。考えて、考えて、考えて――その全てを尽くせ。そうすりゃあお前の言う強さなんて、後から勝手についてくる」

「……かんが、える……」


 また弱音を口にしたワルトゥを今度こそ足蹴にすれば、それだけ口にして踵を返す。

 背後から呼び止める声も無かったし、後はまあアイツの問題だ。

 正直アイツが死のうが生きようが、何の興味もない。


 ……ただ、まあ。


「……ちょっと考えるようになっただけ、ゴミよりはマシにはなったか」


 ほんの僅かだけ。

 どうでも良い塵芥から路傍の雑草くらいには、ワルトゥの評価を上げてやることにした。


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