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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十三章 勇者と魔王
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3.それは、かつての光

 テラスケイル公国、近郊の森。

 以前の一件以来、近寄る者も居なくなった森は今、多くの魔族で犇めいていた。


 ……とは言っても、その事を知るテラスケイル国民は居ない。

 何しろ立ち入り厳禁になっている上に、その近辺をメガデス直属の部下達が封鎖していたからである。

 そんな状況下で、森に近づこうなどと思う者が居るはずもなく。


「――一先ず、目処は着いたか」


 その森の最奥。

 光の壁の近辺で、巨躯はとぐろを巻きながら身体を横たえていた。

 六魔将が一人、バルバロイ。

 彼は今、エルトリスから負った傷を癒やしつつ体を休めている真っ最中で――しかしながら何もしない訳にはいかないと、こちら側に避難してきた魔族達に指示を出し、仮初の住処を創り上げていて。


 木の小屋、洞穴、その他諸々の住居が出来たのを見れば、バルバロイは小さく息を漏らしながら目を細めた。

 アルケミラやアリスとは違い、彼は統治らしい統治をあまりしてこなかった口である。

 彼の強さに見惚れ、焦がれ、従う者こそ居たが、そんな者達をバルバロイは統べるような事はせず、ただ放置し続けた。


 生まれて始めて……というわけでもないが、久方ぶりにする統治らしい行いに、バルバロイは不思議な充実感を感じていた。

 今まではただ、アリスへの贖罪にも近い感情で生き続けてきた彼は今、エルトリスとの戦いを通じてそれ以外の感情に満ちていたのだ。


「……今更、という気はするがな」


 そんな言葉をつぶやきつつ、バルバロイは地面に顎を置いて目を閉じる。

 決してだらけている、と言うわけではない。

 その巨体故に、バルバロイはすっくと立ち上がってしまえば下手をすれば森林から頭を出す羽目になってしまうのだ。


 そうしてしまえば、折角メガデスが気を利かせてくれたのが全て無駄になってしまう。

 無論向こうもただの親切心でそうしてくれている訳ではない。

 これから先にある、魔王との戦いに備えての事だというのは、バルバロイもよく判っていた。


 魔王は、強い。

 アルケミラが歯牙にもかけられず、アリスとエルトリスでさえもろくに戦いにすらならず、一方的に蹂躙された。

 結果、アルケミラは生死不明。

 アリスもその腕を失い、エルトリスも一時は昏睡状態に陥っていた。


 命をかければ届く――と言った相手でさえ無い。

 文字通りの別格、別次元の存在。

 未だにかすり傷一つさえ負わせる事さえ出来ていない相手を前に、戦力は僅かでも欲しかった。


「……ふ。諦めるという選択肢を持たぬ、か」


 そこまでの相手を前にすれば、普通ならば戦意を喪失しても可笑しくないというのに。

 バルバロイは一方的に蹂躙されながらも尚、未だに戦意を失っていない少女を思い返せば、楽しげに、おかしそうに笑った。








「――おう、戻ったぞ」

「ああ。どうだった?」

「まあ多分大丈夫だろ、あそこまでやって邪魔するようならいっそ要らねぇ、文字通り邪魔だしな」


 暫く後。

 アリスが作り出した扉を通じて戻ってきたエルトリス達は、バルバロイと軽く言葉を交わしながら地べたに座り込んだ。

 リリエルは軽く頭を下げれば茶を淹れて、エルトリスの姿を見つけたアミラやエルドラド達も集まってくれば、森は一気に賑やかになる。


「全く……何時までこんな所に居ないといけませんの?もういっその事、国の一つ、街の一つ奪ってしまったほうが良いんじゃないかしら」

「お前は何のためにエルトリス達がわざわざ交渉に行ったと思ってるんだ……」

「大丈夫だよ、お話は多分上手くいくから。そうしたらきっとみんなも街で受け入れてもらえるからね♥」


 そんな言葉を口にしながら、アリスは隻腕になったというのに、努めて明るく――否、それを特に気にした様子もなく振る舞ってみせた。

 実際、アリスはその事自体はあまり気にかけていない様子だった。

 片腕になった事よりも、エルトリス達と共にあの窮地を脱せた事が嬉しいのだろう。


 ……とは言えど、戦力としては半減とまでは行かずとも、大きく減じてしまっているのだが。

 アルスフェイバーによって受けた傷は、アリスをもってしても癒やすことは難しいのか、一向に再生する気配もなく。

 権能の行使に問題はないとしても、竜化――本来の姿に戻った際に片腕を失っていては、その実力の全てを発揮する事は難しい。


「……それで、エルトリス。考えがあるって言ってたけど、何なの?」

「うむ。自分も聞きたいな、如何なる策略があるのか」

「策略ってもんでもねぇよ。それに、まあ……ああ言っておいて何だが、それで勝てる確証が有るわけでもない」


 クラリッサとアシュタールの言葉に、エルトリスは頬を掻きながらそう返すと、リリエルが用意した椅子の上に腰掛けた。

 ちょこんと座り、足を組むこともなくぷらぷらとさせながら、お茶を口にして、小さく息を漏らす。

 ふわりと人の形になったルシエラが、そんな愛らしいエルトリスの様子に笑みを浮かべながら、彼女を背後から軽く抱くようにして――


『――奴の真似事をするつもりじゃな?』


 ――そんな言葉を、口にした。

 ルシエラの言葉にエルトリスはピクッと肩を揺らしつつ、小さく息を漏らす。


「……不本意だがな。それくらいしか出来る事が浮かばねぇ」

「奴、とは誰だ?」

「ああ、あいつ――って言っても判らねぇか。まあ、なんだ……昔、俺に土をつけた奴だよ」


 エルトリスの言葉に、リリエルは首を捻る。

 エルトリスが敗北したのは――そう言えるのは、精々アリスと最初に出会った頃くらいではないだろうか。

 それでさえ、負けたというよりは見逃されたに近い。

 アミラもクラリッサも、エルトリスが敗北したという相手には心当たりがまるで無く。


「一体何をするんだ?生半可な手段じゃ届かないと思うんだが」

「ん……何て言えば良いんだろうな」


 アミラが疑問を口にすれば、エルトリスは言葉を選ぶように、口元に指を当てた。

 少女然とした仕草を自然と取るエルトリスに、アリスとルシエラは笑みを零しつつ。

 そんな仕草をとっている自覚のないエルトリスは、暫し唸った後――


「――ん。力を束ねる、って言えば良いのかな。足りない分を他所からかき集めて、補うんだよ」


 ――そんな言葉を、口にした。

 その言葉の意味を理解できた者は、ごく僅か。

 エルトリスと長く付き合ってきた者たちと、エルトリスを深く理解しようとしている者だけだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「魔王」を倒すべく「勇者」伝説の始まりということですね。 はてさて魔王くんに届くのだろうか。 魔王くんサイドは今どうなっているのかな。 全部ほろぼした後は、光の壁が消えるまで待ちぼうけ…な…
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