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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第二章 大森林に巣食う魔卵
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6.インターミッション

 アミラとの一戦の後。

 眼前で見た光景ばかりは流石に否定出来なかったのか、エルフ達の態度は先程までから一転して、柔和なモノになっていた。

 魔族と対抗するのに必要な戦力と見なされたんだろう。

 まあこういう手のひら返しには少し苛立たないでもないが、それを表に出すことはしなかった。


 ……実力を見せて尚、現実を見ないような連中よりは数倍マシだからな、うん。


「――しかし」

「ん?」


 軽くエルフ達と顔を合わせた後。

 アミラの仮住まいである小屋に通されて、少しだけ休憩する事になった俺達は長く竜車に揺られ、森林を歩いた疲れを取ろうと寛いでいた、のだが。


「済まない、服をダメにしてしまったな」


 ごろん、とベッドに寝転がっていた俺を見ながら、アミラは軽く、しかし申し訳無さそうに頭を下げてきた。

 その言葉に視線を下ろせば、成程。

 確かに俺の着ていた服――とは言っても、ルシエラの力で編まれたモノだが――はスカートの裾やら何やらがボロボロに破れてしまっていて。

 所々肌まで露出してしまっているのは、何というか確かにちょっとだけみっともない。


「あー、気にすんな。おい、ルシエラ――」


 まあ、この程度なら大した問題でもない。

 ルシエラの余ってる力で服を補修すれば、瞬く間に元通りだ。

 そう思って、椅子に腰掛けながら寛いでいたルシエラに声をかければ――何やら、ニタァ、と。

 背筋が冷たくなるような笑みを、馬鹿剣は浮かべていた。


『――ふむ、そうだのう。アミラ、換えの服はあるかの?』

「……おい、ルシエラ」

「ああ、大丈夫だ。私達が保護している子供も居るからな、その子達の服がある」

「待て、おい」


 ――やばい。

 なんだか、凄く凄く、とっても嫌な予感がする。


『うむ、ではそれを借りるとしようかの。そうじゃ、長旅で下着のストックも尽きておったのう』

「おいっ!?」

「そうか、では用意してくる。少し待っていてくれ」

「待て、アミラ――っ」


 ルシエラの言葉に笑顔で……飽くまでも善意で。

 にっこりと頷いたアミラは、小屋から出ればそのまま服を取りに行ってしまい。


 ギギギギ、とこれから起こるであろう事態に身体を硬直させながらも、ルシエラの方に視線を向ければこの馬鹿剣はしてやったり、と言った様子で楽しげな――本当に楽しげな満面の笑顔を、俺に見せた。


「こ、この……っ、お前が修復すりゃあ済む話だろうがっ!?」

『あーなんだかふくをつくるのにもつかれてのー。うっかりするとエルちゃんをまっぱだかにしてしまいそうじゃー』

「嘘つくなこの馬鹿剣ッ!」

「まあ、エルトリス様。偶には気分転換も良いものかと思います。レムレスからこの方、ずっと同じ服装ですし」


 白々しく、そして棒読みでのたまうルシエラに食ってかかれば、横からリリエルが割り込んでくる。

 ……多分、リリエルの方は単純な善意なんだろう。

 リリエルから見れば、俺はずっと服をルシエラ任せにしてるズボラな主に映っているだろうし。そういうのは良くないのでは、と暗に言ってるに違いない。

 確かに自分で服を選ぶ、っていうのは極々当たり前の事だし、何もかも他人任せってのは俺だって好きな訳じゃあない。


 でも違う、そうじゃないんだリリエル。

 ルシエラの作った――形成した服だってんなら、そりゃあ一心同体、一蓮托生なルシエラの一部なんだから俺だって諦めがつく。

 コイツの悪癖は今に始まった事じゃないし、何よりこの体になった直後のことでその辺りはもう諦めてるんだから、良くないけど耐えられる。

 でも、そうじゃない普通の女の服なんて来たら、変な一線を踏み越えちまう……!


「~~~~……っ」

「変な服はこちらで弾きますから、ね?」


 ……当然、そんな理屈を口にした所で理解される筈もない。

 寧ろ下手したら、俺がルシエラの作ったお洋服じゃないとイヤイヤしてる子供に映りかねない。

 そっちの方が数段恥ずかしくてみっともない事は理解できてしまっているから、俺は顔を熱くするだけで何も言う事ができず。


「待たせたな、持ってきたぞ。幾つか見繕ってきたから、何かエルトリスに合う物があると良いんだが……」


 そうこうしている内に、小さな服を手にアミラが戻ってきた。

 ガシッと、いつの間にか立ち上がっていたルシエラに肩を掴まれてしまえば、最早逃れる事さえも叶わず。


『ふっくっく。思わぬ所で精を貰えて有り難いのう……♥』

「ぐ、うぅぅ……っ、ルシエラぁぁ……っ!」


 小さく耳元で囁かれた言葉に、俺はぷるぷると震えながら、心底愉快そうにしている馬鹿剣を睨む事しか出来なかった。








「――ふ、む」

「これは……」

「……な、なん、だよ……っ」


 かくして、半ば処刑にも近い――善意による着せ替えが、始まったわけだが。

 俺が辛うじて許せそうだった、若草色のローブのような飾り気のないワンピースに袖を通せば、リリエルもアミラも難しそうな顔をしてこちらを睨んできた。

 睨む、というよりは何だろう、こう……


『これは無いのう』

「そうだな、ちょっと」

「はい……」


 ……ルシエラまでもが、俺に溜息を漏らせば。

 呆れたような顔をしつつ、選んだ服を無理やり引っ張るとあっという間に脱がせてしまい。


「ひゃ……っ!?な、何しやがるっ!!」

『エルちゃんはほーんと、身嗜みというかそういうののセンスが無いのう』

「何だよ、ちゃんと着れてただろ!?」

『戯け、ちゃんとこれを考慮せんか、これを』

「え――ひゃ、んっ」


 突然の事に抗議した俺を逆に非難するような視線を向けつつ、ルシエラはだぷ、だぷん、と。

 足先で、俺の胸元に付いてる重たい双球を、軽く――それでも重たげに――揺らして来た。

 思わず漏れてしまった声に顔を熱くしつつも、視線をリリエルたちの方へと向ければ何故か二人までうんうん、と小さく頷いていて。


「な、何だよ、何が悪いって――」

「……言いづらいが、肥満児に見えたぞ」

「エルトリス様の胸の分、膨らんで見えてしまって……ちょっと、見苦しいなと」

『デブのエルちゃんなんて呼ばれたく無いじゃろ?流石の私でもそんな辱めを与えようとは思わんわ』

「――ん、な」


 そして、ためらいがちに、言葉を選んで、直接的に述べられた言葉に、俺は硬直してしまう。


『エルちゃんは胸が大きいから、ああいうのは無理じゃろ。このでっかい胸に合わせて布が降りるんじゃから』

「あ、あぅ……っ」

「まあそう言うな。私は、こういうのが似合うと思うぞ」


 厭味ったらしくだぷん、だぷん、と胸を揺らしてくるルシエラに何も言い返せずに、声を漏らす。

 ……そんな風に見えるなんて、考えても見なかった。

 自分で選んだのに、みっともない格好だった――なんて、そんな子供みたいな事をしてしまった事に、顔はどうしても熱くなってしまって。


 だから、だろう。

 続けてアミラが選んだ服を、俺は否定する事が出来なくなっていた。


 アミラが選んだのは、俺が選んだようにゆったりとした衣装だったけれど、腰に黒いベルトが有るタイプで。

 半袖にスカートなそれに頭を通していけば、きゅっ、とベルトを締めて。


「――む。これだとややスカートが短い、か?」

『あー、これは胸の分だのう。立派なお胸に引っ張られてスカート分が上がっておる』

「ですが、似合わない事もないかと」

「う……う、ぅ」


 ……アミラ達の言う通り、今度はベルトで締めた分、スカートの裾が膝上辺りまで上がってしまっていて、足が随分と露出してしまっていた。

 いや、それが恥ずかしい訳がない、無いのだけれど……戦ってる最中なら絶対に気にも留めない部分なのに、なぜだか、妙に気恥ずかしくなってしまう。


「後はこの帽子を被せれば――うん、似合うな」

「確かに、耳以外はエルフの子供のようです」

『ぷ……っ、ふ、くく。確かに似合っておるのう、似合いすぎなくらい』

「~~~~……っ!」


 笑いを堪え損ねたルシエラがこちらに向けた鏡を見れば、俺はぼんっ、と一気に耳まで熱くなるのを感じた。


 ――そこに居たのは、確かに3人の言う通り、どこからどう見てもただの子供だった。

 若草色の服は胸元で大きく、思いっきり引っ張られていたものの、元々余裕がある生地だからか破られる事はなく。

 ボタン代わりなのか、縦に並んだ大きな花の飾りは程よくその格好を幼く見せて、いて。

 そして、胸で引っ張られた分短くなったスカートは、膝の上程度までしか無く。

 しかし晒されてる生足は、特にいやらしいだとかそういった印象は無く、寧ろ幼いといった印象を抱かせる。


 ……鏡の中に映っている、顔を真っ赤に染めた、幼い格好をした金髪の女児。

 それが今の俺だと理解してしまうと、とても、とても――恥ずかしくて、情けなくて。


「う、うぅぅ……っ、うー……っ!!」

『んー……♥ふふ、どうしたどうした、癇癪かのうエルちゃんは♥』

「む……こ、これは気に入らなかったか?」

「もう少し落ち着いた物がいいでしょうか――」


 唸ることしか出来なくなった俺の頭をぽふぽふと撫でながら、多分精を堪能しているルシエラは楽しげに。

 普通に似合っていると思っていたのだろう、アミラとリリエルは少し困った顔で、再び服を選び始めた。








「これならいいんじゃないか?少々大人びて居る気もするが」

「……これで、いい。これが、いいの」


 言葉を補正する余裕もなくしつつ、鏡に写った自分の姿を見れば。

 これでもまだ大分恥ずかしかったものの、数々の子供服と比べれば雲泥の差だと、自分に言い聞かせて小さく頷いた。


 若草色のそれは、スカートこそ短かくフリルもあしらわれているものの、手首までしっかりと覆われて居る服で。

 腰には革製のコルセットを、そして恐らくは矢筒を下げる用なのだろう、金具の付いたベルトが付いており。

 短いスカートから晒された脚には、足先から太ももまでを覆うフリルの付いた白い布地と革のブーツ。

 利き手には――矢を番えるためだろうか、革の篭手が付いた、子供が身につけるには些か無骨な、実戦的なモノだった。


「元々は集落の子供が狩りの練習をする為の物でな。子供たちは、着るのを嫌がったものだが」

「エルトリス様は戦闘重視ですので。これで宜しいかと」

『えー、そうかのう。もっと子供っぽいのとかフリフリしたやつのがエルちゃんには似合うじゃろ?』

「~~~~っ、これで、いいのっ!!!」


 思わず出てしまった大声に頭を熱くしつつ、微笑ましげな目で見ているアミラを見てしまえば、視線を反らしながら何とか自分を落ち着かせようと大きく深呼吸をした。


 ……ナイスフォロー、リリエル。

 馬鹿剣は絶対に許さないからな、絶対に。後で食事にやばいのを混入させてやる……っ。


 ともあれ、これで地獄のような時間は終わり。

 服装は些か納得は行かないけれど、どうせこれも時間がすぎれば着替えれば良いだけだし――……


『おっと。そう言えば下着を忘れていたのう』

「ああ、下着に関しては子供たちの予備が有ったからな。これを使ってくれ」


 ……そうして差し出されたものは、正しく子供が履くのに相応しいそれで。


「~~~~~~っ!?!?!」

『……む、やりすぎたかの』


 今度こそ、落ち着いたとか、無骨だとか、そういった逃げ道も無いのを見せられてしまえば。

 俺は声にならない声をあげながら、卒倒してしまった。


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