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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十二章 龍王の死亡遊戯
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24.竜虎相搏つ②

 ――それは、久方ぶりの愉悦だった。

 自らに挑みかかる者を見るのは、確かに楽しかった。

 強き者の闘いを見るのも、確かに楽しかった。


 だが、それらは真の意味での愉悦には程遠い。

 我と互角に戦える者。

 命の危険を感じさせる者こそ、愉悦には必要だったのだ。


 そして、今目の前にいる相手は紛れもないソレだった。

 我とは比較するべくもない矮小な身体。

 爪が届けばそれだけで肉片になりそうな、そんな儚い存在はしかし、我の命に届き得る存在に他ならない。


 油断すればその鎖が我の首を狙う。

 気を抜けばその拳が我の双眸を穿つ。

 甘く攻めれば、その部分からソレは我を喰い破るだろう。


 何と愉しく、何と心地よく、何と素晴らしい時間か。

 アリスに敗北し、アリスをあのような姿に貶して以来の高揚が、全身に満ちる。


「感謝するぞ、小さき者よ――!!」

「――……ッ!!!」


 振るう爪の尽くが空を切る中、我は更に体の熱を上げていく。

 これこそが我の能力であり権能、紅焔(プロミネンス)

 我の生命そのものを燃やしながら猛るこの熱は、汎ゆるモノを焼却する。

 触れたものを白い灰へと変える程の熱量を、口から吐き出すこと無く身体に纏わせれば、小さき者は――否、エルトリスはその表情を微かに歪めた。


 触れては居ない。

 変わらず我の爪は、予期されるが如く空を斬っている。


 だが、それでも近くを通過しただけで紅焔はエルトリスの身を焦がした。

 服が焼け焦げ、エルトリスは僅かに負った火傷に唇を噛み――


「――さい……っこう」


 ――そして、微笑う。

 自らの命を削がれたというのに、その表情には恐怖など微塵もない。

 有るのはただ、目の前の驚異を楽しもうという感情だけ。


 正しく、戦闘狂。

 我と同類であろう少女は、接死どころか近寄る事さえ困難になった我に、悠然と立ち向かってみせた。


 嗚呼、何と素晴らしき事か。

 満たされていく。

 後はあの者と――魔王と戦って終わりだと、そう思っていた我の心が、高揚に満たされる。

 まるで、そう。


 ――アリスと、戦った時のようだ。








 ――思った通り、否、思った以上にバルバロイは凄まじい相手だった。

 予想の遥か上を行くコイツに、俺は未だに決定打を入れられていない。

 それどころか先に有効打を引き出したのはバルバロイの方だ。


 身体に出来た火傷から来る痛みに、口角が釣り上がる。

 ただでさえ強かったってのに、こんな隠し玉を持ってるっていうんだから堪らない。

 バルバロイの立っている部分の舞台が溶けているのを見るだけで、今バルバロイがどれだけの熱量を発しているのか理解できる。


 それでもアルケミラ達まで熱が届かないのは、恐らく奴がその熱量を完全に制御しているからなのだろう。

 発散し続けている訳ではなく、攻撃と防御、その一瞬のみに凄まじい熱量を凝縮して発しているのだ。


『ち……っ!こんな事をされては、長くは保たんぞ!!』

「うん、最高――ッ!楽しいね、ルシエラ!!」

『大馬鹿者!!さっさと勝機を見出さんか!!』


 ルシエラの怒声に、苦笑する。

 まあ、言う通りではあるのだが――少なくともこのままではジリ貧だ。

 アリスとの長い永い闘いで得た物を出す、そのタイミングを見計らわなければ。


 あれは正しく必殺ではあるが、外せば大きな隙を晒す諸刃の剣。

 叩き込めさえしたならば、バルバロイに間違いなく決定打を与える事ができるのは、判っているんだが……バルバロイにそんな隙は、早々――


「――……?」


 ――その機会は、唐突過ぎるほど突然に訪れた。

 一瞬だけ、バルバロイの動きが止まる。

 その表情から喜悦が消えたかと思えば、らしくもない隙を晒し――


『今じゃ、叩き込め――!!』


 ルシエラの声に、俺は思わず飛び込んだ。

 当たる。

 当てられる。

 生まれた隙は本当に瞬きほどの刹那だが、それでも致命的すぎた。

 俺は、疾駆しながら背後に展開していたルシエラを束ね――……







「……ぐっ!?」

「――っざけないで」


 ……そして、バルバロイの眼前でソレを解けば、大きな拳に変えてその寝ぼけた顔面を殴りつけた。

 巨体がよろけ、バルバロイは目を覚ましたかのように爪を振るう。


 俺はソレを躱しながら、バルバロイを睨みつけた。

 ふざけてる、全くもって冗談じゃない。


「今、(おれ)以外のことを考えてたでしょ」

「……何?」

「今戦ってるのは私。私だけを見て、私を殺すことだけを考えて」


 ――そう、バルバロイは事もあろうか、戦いの最中にそれ以外のことを考えた。

 雑魚がそうするなら別にいいけど、ここまで戦える凄い奴がそんな事をするなんて、ふざけているにも程がある。


「次やったら、私は帰る。人間がどうなろうとしった事じゃない」

「な――」


 俺の言葉に、アルケミラまでもが絶句した。

 ……いやまあ、ほら、だって、アルケミラは俺がそういう奴だって判ってるだろう?

 せっかくの戦いに水を差されたら、へそを曲げる人間だって。


「――私を、失望させないでよね」

「……は」


 そして、俺が告げた言葉に――バルバロイは、呆気に取られたように固まりながら、息を漏らす。

 心底意外そうな、しかしどこか、そう――嬉しそうな、そんな声をあげて。


「……ハハ、ハハハハハハ!!そうか、こんな事をしていては失望するか!!」


 バルバロイがあげた笑い声に、舞台が揺れた。

 大きく口を開きながら発したそれは、大きく、しかし心底愉快そうな声色で――


「ああ、ああ。忘れていた――我ともあろう者が、そんな単純な理屈さえも」

「……っ、あは」

「失礼した。もう惑わぬ」


 ――そして、その口が閉じる頃には。

 先程までの――否、先程以上の強者が、そこに立っていた。

 迷いなど微塵もない。ただ、目の前の戦いを愉しむだけの、俺と同じ獣が。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 女の子みたいな口調で、バルバロイを叱り飛ばすエルちゃん、なんかツボる。萌え……。 前回の話からしてバルバロイはアリスのことを… ある意味エルちゃんはアリスちゃんの弟子とも言えますし、なん…
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