18.少女の死亡遊戯①
7日目。
何度弄ばれ、何度すり潰され、何度切り裂かれ、何度噛み砕かれたのだろう。
「ぁ――っ、か、ふっ」
「はい、起きてエルちゃん?眠くも疲れてもいないでしょ?」
「わ……かって、りゅ」
思考が鈍る。
幾度赤子にされ、幾度虫にされ、その度に死を迎え、そして何事もなく蘇らせられる。
そんな事を繰り返されても尚正気で居られたのは、アリスのお陰か、それとも俺の生来の物なのか。
……いや、どちらでも良い。
いい加減に、何かしらの糸口を掴みたい。
アリスにこの花畑に連れ込まれてからこの方、俺は一度たりとも――
「あ、ぅ……っ!?ううぅぅ……っ!!」
「ほーらー、駄目でしょエルちゃん!ちゃんと避けないと、いつまで経っても先に進まないよ?」
「あ、ぶ……っ!!」
――一度たりとも、前に進めていなかった。
俺が動くよりも早く、アリスの能力が、権能が俺を捉えて動かさない。
また、小さく、小さく――本当に小さく、ルシエラを握ることさえ出来ない程にされてしまえば、俺は声すら上げられなくなって。
「もう、あんまりダメダメだと本当に赤ちゃんにしちゃうよ?」
「あぅ、ううぅぅ……っ」
「……冗談、冗談♪でもそろそろエルちゃんの格好良い所もみたいなーって」
アリスは何時も通りの声色でそう口にすれば、目にも留まらぬ疾さでその爪を振るい……俺はそれを視認すら出来ないままに、肉片に変えられた。
48日目。
俺はようやく、少しの間だけれどアリスと戦えるようになっていた。
……まあ、戦えるようになったとは言っても、1分も保たないのだけれど。
「――……っ」
「ほーら、エルちゃん♪そっちばっかり見てると躱せないよ?」
「ち……ッ!?」
『ぐ、あ――ッ!こ、の……馬鹿力め……ッ!!』
視えるようになった、感じられるようになったそれから逃れようとすれば、即座にその崩れをアリスは狙ってくる。
振るわれた尻尾は、爪はその全てが必殺だ。
まともに受ければ即座に肉片に変えられてしまうそれを、俺はルシエラで辛うじて捌きつつ、前に進もうと、して――
「……あ、ぅっ!?」
「見えるようになっても、さそいこまれてたら駄目だよー?ふふ、可愛い♥」
――かくん、と膝から崩れ落ちる。
気づけば、俺は、普段のアリスとおんなじ格好に……ううん、それより幼稚な格好の、子供にかえられて、いて。
あ、れ……俺、じゃない……ぼく……じゃない、わたし……?
あたし、どうやって、たたかってたっけ……??
「あ、ぅ……あぅ……??」
「……くすっ♥本当に不思議、エルちゃんは私の大事なお友達なのに……意地悪もしたくなっちゃうなんて」
『な……っ、エルトリスに何をするつもりじゃ、貴様――』
「まだまだ時間がかかりそうだから、ちょっと変わったこともしようかな、って♪いーい、エルちゃん。これからルールを一つ、追加するね?」
……ありすちゃんのこえに、あたしは、こくんって、する。
なにいってるのか、よくわかんないけど、でもありすちゃんだし、だいじょうぶ。
「これからエルちゃんが負ける度に、エルちゃんの格好いいところを一つ、奪っちゃうね?私に勝ったら……は、難しいだろうし……うん、私を一回でも叩けたら、全部返してあげるから頑張って♥」
「う、ゅ……ん、わかったぁ……」
『こ、この悪餓鬼め――!!』
「ふふっ、ちょっとした刺激だよ♪こうした方がきっと、エルちゃんも必死になるもんね?」
――それと同時に、意識が戻ってきた。
え、あれ、俺、今何を言って……何を、アリスと約束した……!?
負ける度に奪われる、一回でも殴れたら全部戻ってくる。
それは分かったけど、アリスは何を奪うって――
「さあ、それじゃあ再開♥頑張ってねエルちゃん♪」
「んな……っ、クソっ!少しは考えさせてくれ……!!」
「駄目だよー?バルバロイと比べたら、これでもすっっっっごい優しくしてるんだから」
「ぐ、うぅぅ……っ」
それを言われてしまうと、全く何も言い返せない……!!
ああくそ、良いだろうやってやろうじゃないか!
要はやられようが最後に殴り返せばそれで良いんだろ――!?
――182日目。
わたしは、アリスちゃんに未だに一回も攻撃を当てられずにいた。
随分昔にアリスちゃんに攻撃した時に、当てても当ててもちっとも堪えてなかったのは、結局わたし達は一度もアリスちゃんに触れてなかっただけなんだ、って痛感する。
わたしよりずっと大きなアリスちゃんは、なのに、わたしよりもずっとずっと早くて。
わたしがルシエラを振るよりも早く、爪は襲ってくるし、尻尾も飛んでくるし、お口だって近づいてくるの。
「――っ、ええいっ!!」
「おしいよ、エルちゃん♪もうちょっと、もうちょっと!」
「う、うんっ!」
『ええい、バカにしおって……!!』
アリスちゃんの声に答えるように、わたしはブン、ブンってルシエラを振るって、振るって。
なのにアリスちゃんは、黒い毛並みを揺らめかせながら、わたしの攻撃を全部、寸前でかわしちゃう。
それでも、わたしは――ええと、どれくらい前だったっけ――前よりも、ずっとアリスちゃんと戦えるようになった、きがする。
見えるようになったアリスちゃんの力のモヤに触らないようにしつつ、アリスちゃんの攻撃を避けて、どうしても受けなきゃ行けない時は、モヤに気をつけるの。
それだけで、やっと10分とか20分、長い時は戦えるようになって――
「――えいっ♥」
「きゃあっ!?」
――でも、それでもまだ、わたしはアリスちゃんには全然、これっぽっちもかなわなかった。
もう、どれだけ取られちゃったのか、わかんない。
髪の毛は左右で纏められちゃって、おっきなリボンを着けられて、お洋服はピンクのフリフリなドレスにされて――その他にも、いっぱい、いっぱい。
前みたいにしゃべろうとしても、そうするとはずかしくなっちゃって、エルちゃん、はずかしくてダメになっちゃうの……
「……っく、えぐ……っ」
「エルちゃん、泣いちゃったの?大丈夫?」
「……ま、まだまけてないもん!まだやるんだから――っ!!」
『バカにしていられるのも今のうちじゃ!ウチのエルちゃんが凄いという事を直ぐに思い知らせてくれる!!』
エルちゃん、どうしても泣いちゃうけど……でも、まけない、まだまけてないっ。
ちゃんと、ちゃんとアリスちゃんの期待にこたえるんだから……っ!?
バルバロイにだって、ちゃんと勝ってみせるんだから――!!
エルちゃんは、ルシエラちゃんをぎゅーって握って、また、アリスちゃんに――……