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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第二章 大森林に巣食う魔卵
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5.少女、力を示す

 アミラに協力を求められてから、少し後。


「――私は反対です、アミラ様!」

「そうです、今更このような連中の助力など!」


 ……解りきったことでは有ったのだが。

 小屋の外に居た――先程俺たちを囲んでいた面々は、アミラの言葉に猛反発していた。

 元々エルフはわざわざ森の中に住処を作って暮らしている変わり者達で、基本的には排他的だ。

 反応としては寧ろ連中の方がエルフとして真っ当であって、アミラの方が異端とも言える。


 まあ、無論。

 それも、魔族に集落を奪われてしまったという状況でなければ、の話なのだが。


「こんな女子供に何が出来るというのです!精々、囮になる程度しか役に立たないでしょう!」

「……ふむ、お前達にはエルトリス達がそう映るのか?」

「当然です、文字通りの女子供では有りませんか。しかも一人は年端も行かない子供ときた」


 その子供相手に、ついさっき威圧されてたのをもう忘れたんだろうか。

 随分と都合の良い頭だな、なんて思いつつも口には出さず、小さく溜息を漏らす。


 ただ、確かに――連中は俺たちが戦ってる場面を見ては居ない、のか。

 それを見てたワルトゥは、実力差がよく解ってるんだろう。

隅で顔を青ざめさせながらこっちを見ているが……もしかして、俺たちがこのエルフ達を皆殺しにするとでも思ってるんだろうか、あの子供は。


 ……実に心外だ。

 俺だって、殺す相手くらい選ぶ分別はある。

 そうじゃない相手にはちゃんと事前に警告するし、従えば逃してやるってのに。


 そんな事を考えながらアミラとエルフ達の会話をしばし眺めていたが、どうにも平行線のままだった。

 アミラは恐らく、あの時に多少なりと俺たちの実力を察知したのだろう、どうにかして俺たちを引き入れる事で、集落を取り戻したいと思っていて。

 一方でエルフ達は外見な女子供な俺たちの力を借りても無駄だと、端っから決めつけている訳だ。


 ……こりゃあ、こんな連中の頭になってしまったアミラには同情せざるをえないな。


「……はぁ。あー、ちょっと良いかアミラ」

「貴様、子供だからといってアミラ様に気安く――!」

「構わない。何だ、エルトリス?」

「つまりだ、俺が引き入れるだけの価値がある戦力だ、と示せりゃあ良いんだよな?」

「まあ、そうだな。私は問題ないと思うのだが……」


 アミラは渡りに舟と言った様子で、少し安堵した表情を見せながら小さく頷いて。

 ……しかし周囲のエルフ達は、あいも変わらずと言った具合だった。


「ぷっ。あっははははっ、あははははは!!!」

「子供だからといって夢見がちな事を言うんじゃあないぞ、全く」


 失笑を零すもの、溜息を漏らすもの。

 自分たちがアミラに今現在負担を掛けているって事が理解できてるんだろうか、コイツらは。

 これだから、下僕にするやつはちゃんと選ばないと駄目なんだ。

 勝手に集まってきた連中は好きにさせておいても良いだろうが、傍に置くやつはちゃんとした奴じゃないとこうなっちまう。


 ……うん、本当に不憫だ。

 以前の身体だった頃の俺も苦労した覚えがあるし、助けてやりたい。


「ルシエラ、柄だけで頼む」

『ぬ……あの娘も中々美味そうだし、つまみ食いは……』

「駄目に決まってるだろ馬鹿剣。さっさとしろ」


 ちょっとだけ残念そうなルシエラの言葉に、ため息を漏らしながらそう返せば。

 ひょい、とルシエラの腕から地面に降り立ちつつ、柄だけになったルシエラを軽く握る。


「あー、アミラ。口で言っても無駄だろうし、見せたほうが早いだろ」

「む……それは、そうだが」


 俺の言葉にアミラは手に握っているルシエラに視線を向けると、僅かに眉を顰めた。

 助け舟、という事は理解できていても、我慢ならないことの一つくらいは有るらしい。


「――それは、どういうつもりだ」

「何、手っ取り早く見せた方がいいだろ?得物の差だ、なんて後から言われても面倒だからな」

「つまり……エルトリス、お前はそれで私と渡り合えると」


 ――ギシリ、と空気が軋む。

 成程そうだった、アミラはこの場のエルフの中じゃ多分だが誰よりも――リリエルを含めたとしても――強い。

 ということは、少なからずその強さに対しての誇り、というのも有るわけで。


「……ああ、問題なくな」

「そうか」


 それを理解した上でそう返すと、アミラは背にしていた大きな弓を手にとった。

 その細腕で扱えるとは思えないような剛弓だが、それを容易く引いていたのはつい先程見たばかり。


『――何じゃ、やはり喰ろうても構わんか?』

「駄目に決まってんだろ。ただ、まあ」


 少しだけ残念だな、と呟きながら。

 リリエルに視線を向ければ、意図を察したのだろう、リリエルは小屋の中へと戻っていって。


「お前達、中に入っていろ」

「え……あ、アミラ様?流石に子供にそれは、大人気ない――」


 相変わらず状況が理解できていないエルフに苛立ったのか。

 苦笑していたエルフにアミラが一瞥すれば、流石にそれで察したのだろう、エルフ達も近場の小屋の中へと入っていった。

 ワルトゥはといえば、リリエルよりも先に逃げていった辺り、そういうのを察する事に関しちゃ聡いのかもしれないな、なんて変な所で感心させられてしまった。








 そうして、その場にいるのが俺とアミラだけになれば――


「加減はしない」

「構わねぇって。ほら、さっさと来いよ」


 ――俺が言葉を返した瞬間。

 アミラは、その剛弓からは信じられない程の速度で矢をつがえ、放った。


 ゴゥ、という風を切る……というよりは、最早暴風を纏っているかのような音とともに、矢が飛来する。

 だが、飽くまでも矢の軌道は直線的だ。

 俺は射線上から身を屈めて矢を躱せば、そのまま勢いよくアミラの方へと駆けていく。


「シ、ィ――ッ」


 だが、流石は自らの強さを誇るだけの事はある。

 アミラも間合いを詰める事を容易く許すつもりは無いらしい。


 一体どういう絡繰りなのか。

アミラの剛弓からは一つ、二つ三つと、信じられないような速度で次々と矢が放たれていく。

 駆けるままに真っすぐ行けば、その矢で足止めをされて――そのまま、その場に射止められてしまうだろう。


「っ、おらァッ!!」


 だから、俺は思い切りその矢を柄で弾き飛ばしながら、今度は軽く回り込むようにしてアミラへの間合いを詰めていった。

 一歩、二歩、三歩。

 弾かれた事が少なからず予想外だったのか、アミラが微かに硬直した隙に間合いは詰まっていき。


「は……っ、言うだけの事はあるな、エルトリス!」


 だが、と。

 間合いを詰めた俺に対して、アミラは剛弓を再び引き絞る。


 そこでようやく、アミラが扱っているその剛弓がどういうものなのかを、俺は理解した。

 弓を持つ手に、絡みつくような蔦。

 その手を通じて魔力を吸い上げるように蠢くその弓は、正しく生きているようで。


 ルシエラを魔剣とするのであれば、それは魔弓と呼ぶものなのだろう。

 魔弓は、アミラがつがえた十数本の矢を放つに適した形に瞬時に変貌し――そして、俺がアミラへの間合いを0にするよりも疾く、暴風を纏った矢を無数に解き放った。

 至近距離から放たれた矢は土煙を巻き上げ、凄まじい轟音を放ち――……







「――驚きだ」


 果たして、それはどちらの言葉だったか。

 思った以上にやる相手だったアミラに対しての俺の言葉か。


 ……それとも、地面を穿ち砕く暴風の矢雨を、武器とも呼べない柄だけで凌ぎ切った俺への、アミラの言葉か。


「私の矢がここまで凌がれたのは、生まれて初めてだ。悔しいが、完敗だな」

「いや、大したもんだ。俺も少し危なかった」


 最後の矢雨を凌いだとは言えど、今もなおビリビリと痺れる腕に、小さく息を漏らす。

 ちょっとだけだが、余裕を見せすぎたかもしれない。

 魔弓である事に気づくのが遅れていたら、凌ぎきれずにルシエラを弾かれた可能性もあった。


 そうなれば、ボロボロに破れてしまった俺の服の裾のように――俺の身体も無事じゃあ済まなかっただろう。

 少なくともルシエラを弾き飛ばされてしまったのならば、もっと苦戦を強いられていた筈だ。


「ふ……手加減した状態で少しだけ、か」


 俺の言葉にアミラは小さく笑みを零せば、小屋の中で戦いの様子を見守っていた連中に視線を向ける。


「――まだ、エルトリスの力に異を唱える者は居るか!」


 森林に響き渡るようなアミラの声に異を唱える者は、もう誰も居ないようだった。

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