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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十二章 龍王の死亡遊戯
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6.強者たる自負/届かぬ指先

 ――バルバロイが俺達を見下ろしながら酒を口にし、小さく息を吐き出す。

 それだけで軽く空気は揺れ、肌がピリピリと震えて。


「……しかし、面白い取り合わせだ。人間と魔族の混成……いや、もう一つか」

『私達の事かのう』

「ああ。魔性の武器という物は知っているが、ここまでのものは初めて見る」

『……え、えっと、褒められてるんでしょうかぁ……?』

『しゃんとしなさいよ、マロウト……主人の背後に隠れてどうすんの、全く』


 バルバロイはルシエラとマロウト、それにワタツミを見れば興味深そうに言葉を口にした。

 その巨きな手をルシエラの方に翳せば、しかしルシエラは動じることすら無く――その様子を見て、バルバロイはクク、と喉を鳴らす。


「良い胆力だ。久方ぶりに心が躍る」

「……ここで始めるわけでも無いでしょう、バルバロイ」

「無論だ。既に人間側も来ている、直ぐにでも始めるとしよう」


 アルケミラの呆れるような声に、バルバロイは小さく頷くと身体を軽く動かして――その巨体に隠れて見えなかった椅子の背もたれに、身体を寄りかからせた。

 ズズ、と軽く揺れる部屋――建造物に、マロウトはビクッと震えながらアミラにしがみつく。

 アミラは苦笑しながらマロウトを体の前で抱くようにすると、優しく頭を撫でていて。


『何じゃ、マロウトが羨ましいか?よしよし』

「ばっ、違う……も、もう、やめてってば!!」


 それを見ていたのを何と勘違いしたのか。

 ルシエラは俺を抱き寄せると、ポンポンと頭を撫で始めた――いや、確かに心地いいけど――違う、そうじゃないっ。

 俺は顔を熱くしながらも声を荒らげれば、クク、とルシエラは可笑しそうに笑っていた。


「既に人間側には説明したが、今回は我と貴様たち5人ずつとの戦いになる……とはいっても、我は基本最後まで手を出すつもりはないが、な」

「……ん?どういう事だ、そりゃあ」


 バルバロイの言葉に、ルシエラに抱かれながらも俺は頸を捻った。

 どうにも解せない。

 その説明だと、実際に戦うとは俺達と人間側の連中、というように聞こえる。


「何、纏めて相手にしても良かったのだがな。人間側の様子を見るに、アレらはお前達と協調など出来はすまいよ」

「……一応私達も人間なのだが?」

「アレは、狂信者だ。魔族に与する者を人間として見るなどとは期待しないほうが良い」


 ……ああ、うん、成程、判った。

 バルバロイは要するに、自分と戦ってる最中に仲間割れして勝手に死ぬ、なんて興ざめな事を避けたいのだ。

 だから先ず、俺達と人間側で争わせて選り分けて、それから自分が相手をする――そういう算段なのだろう。


「勝敗に関してはお前達で勝手に決めるが良い。我は、お前達の戦いが終わった後に休息を挟んでから相手をする」

『……それはまた、随分な自信だのう。向こうは知らんが、こちらはエルトリスにアルケミラまで居るのじゃが?』

「それを踏まえての判断だ、心配するな」


 ルシエラの言葉に、事も無げにバルバロイはそう返した。

 “そんな事は判った上で、問題ない”と六魔将であるアルケミラとその一角を落とした俺達に向けて言い放つバルバロイに、慢心といったものは見えない。


 有るのは、ただそうであるという事実のみ。

 自身が圧倒的な強者であるが故に、そうでもしないと勝負にならないと自負しているのだろう。


「――解りました。つまり、そちらは一人という事ですね」

「ああ。無論最初から我に挑むのも構わん、そうしたならば我も相手をしよう」


 ――そして、アルケミラもそうであると認識しているのか。

 下手をすれば侮蔑とすら取られかねないその対応に、特に異を唱えることもなく受け入れた。


 つまり、先ずは俺達と人間側で勝負をどういう形であれ付けた後で、残った連中でバルバロイに挑む……という事になるのか。


「敗北した人間が参加する事は可能なのでしょうか?」

「その辺りはお前達の間で好きにして構わん。敗北するような弱者が役に立つのかは判らんが、使い道があるならそうするべきだろう」

「相手を殺さずとも良い、という事か。まあ有り難くはあるな」

「殺さぬのであれば、相手に敗北を認めさせると良い。それであれば、観に来た連中も納得するだろうからな」


 バルバロイは殊の外気さくに、リリエルやアミラの言葉にも答えていく。

 戦い以外には興味がない――というのは、つまりはこういう事か。

 バルバロイは自らの地位に固執もしていないし、ましてや人間を極度に見下しても居ないのだろう。


 有るのはただ、自分と戦えるか否か。

 怯えず竦まず、自分がどういう者なのか理解した上で挑んでくる相手に対してはきっと、良い感情さえ抱いているのだ。


『何じゃ、どうした?』

「ああ、いや」


 ――ちょっとだけ、昔の俺に似ているのかも知れない。

 そんな事をふと思いながら、俺は口元を軽く緩ませていた。


 心ゆくまで戦いたい。

 殺し合いたい。

 権謀術数だとか、立場だとか、そういうのを気にすること無くやり合いたい。

 ……そういうのを引っ括めて戦い、というのは確かにあるんだけど、そういうのはおいておいて。


 もしかしたら、コイツとなら以前――この体になる直前に味わったあの高揚感を味わえるんじゃないだろうか、って。


「……まあ、ただなぁ」

『さっきからどうした、ブツブツと』

「んや、ちょっと、な」


 ……ただ、それには一つ大きな問題が有った。

 きっと、コイツと戦うのはこれ以上無く楽しい。

 楽しいのは判っているんだが、同時にもう一つ判ってしまっていた。


 ――俺は、バルバロイには勝てない。

 今の俺の全力をぶつけたのだとしても、最大火力を奇跡的に叩き込めたのだとしても、先ず勝てない。

 すべてが上手く噛み合えば、重傷は負わせられるだろうがそこまでだ。

 どう思考を巡らせても、どんな都合のいい未来を想起しても、今の俺が届くのはそこまで。


 それじゃあ駄目だ。

 あの時の高揚を覚える為には、バルバロイと同じ舞台に立たなきゃいけない。


「……まあ、まだ時間は有るか」

『むう。おいリリエル、さっきからエルちゃんが一人でぶつぶつ言ってて寂しいんじゃが』

「考え事をしているのですから我慢して下さい、ルシエラ様」


 ルシエラとリリエルのそんな会話を頭の片隅で聞きつつ、俺は小さく息を漏らした。


 ……先ずはバルバロイよりも先に、無謀にもバルバロイに挑んだらしい人間側を黙らせるとしよう。

 何か、放っておくとどんどん馬鹿な事をしでかしそうだからな、こういうのは。


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― 新着の感想 ―
[一言] エルちゃん人をよく分かってらっしゃる
[一言] マロウトくんかわいい。 最近、特殊能力でいぢめられてばかりだったエルちゃんだけど、今回は真っ向勝負が出来そうですね。 (本人の中でもう決着がついてしまっているが) 思ったより平和的に決闘…
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