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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第二章 大森林に巣食う魔卵
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4.抵抗するものたち

 ワルトゥに先導させながら進む事小一時間。

 不思議なもので、全く同じ風景が続いているような鬱蒼とした森林の中でも、ワルトゥの歩みには怯えこそあれど迷いは無かった。

 長年この大森林で暮らしているが故、だろうか。

 それとも森で暮らしているのが殆どなエルフだからこそなのだろうか。


「おい、ガキ。まだ集落までは遠いのか?」

「う、ん。あと半日くらいはかかると思う、けど――」

『何じゃ、随分と遠いのう……』

「地図で見た限りですが、大森林はレムレスがいくつも詰め込めるような広さでしたから。仕方ないのかも知れません」


 リリエルの言葉にふむ、と小さく声を漏らす。

 成程、あの辺境都市がいくつも詰め込める……と言われると、この大森林の広さを改めて理解させられてしまう。

 そんな大森林の中で後半日程度というのは、逆に短い距離なのかも知れない。


 ……だが、だとすると。


「近くに他に集落は?」

「え……?ええと、この近くには無かったと、思う」

『ふーむ。だとすると――』


 俺を腕に座らせたまま、ルシエラが周囲に視線を這わせていく。

 その途端、周囲の茂みや木陰から小さな物音が聞こえてきた。


 ……だとすれば、こうして俺たちの周囲に何かが集まってきているのは、どういう事なんだろうか。


 未だに何が起きているのか理解できていない様子のワルトゥと、今ので察知したリリエルに視線を向けつつ、小さく息を漏らす。

 さっきの反応を見る限り、今度のエルフは多分だがさっきとは違うのだろう。

 だが、だとするのなら――どうして、囲まれている上に敵意を向けられているんだろうか。


「おい、エルフ共。死にたくないならとっとと出てこい」

『ぬ、殺さんのか?真っ当なエルフも少し喰いたいんじゃが』

「……ルシエラ様、貴重な情報源ですので」


 まあ、とりあえず一度だけは警告しておこう。

 リリエルの言う通り、ここのエルフ達は大森林で起きてる出来事を知る上では貴重な情報源だから、出来るなら殺したくはない。


 ――無論。

 それも、相手が俺たちに手出しをしないのであれば、ではあるが。


 俺の言葉にしばらくの間悩んでいたのか、周囲の気配は動くことはなかったものの。

 一分もしない内に一人、二人と木陰から、茂みから、木の上から降りてくれば、俺達の前に恐らくは真っ当であろうエルフ達が姿を表した。

 俺たちに向けて矢をつがえたまま、ではあるものの。

 まあ、俺は元よりあのくらいならリリエルも大丈夫だろうから、放たれない限りは良しとしよう。


「で。俺たちに何の用だ?」

「――その子を離せ、ヒトの少女よ」

『はぁ?何を言っとるんじゃコイツらは』


 集団のリーダーであろうエルフの女の言葉に、ルシエラは眉を顰めながら首を捻る。

 だが、そんなルシエラの言葉にもエルフの女は怯む事無く睨み返し、矢を更に引き絞った。


 恐らくは中々の剛弓なのだろう、周囲のエルフ達が持っている弓と比べて大きなソレを軽々と扱うその様は中々に悪くない。


「……エルトリス様」

「あー解ってる解ってる……このガキには道案内を頼んでるだけだ、それ以外の意図はねぇよ」

「……真実か?ワルトゥ」

『む?何じゃ、この小娘と知り合いかの?』

「え……えっと、そ、の……っ」


 俺の言葉に眉を顰めながら――まるで知り合いのようにワルトゥに問いかけるエルフの女に、ルシエラが意外そうな顔をしながらワルトゥの背中を脚で小突く。

 ワルトゥはたったそれだけの事で怯えたように身体を震わせて。相変わらず、おっかなびっくりと言った様子で視線を彷徨わせていたが――


「は……は、い」

「……そうか」


 ――ようやくエルフの女への答えを口にすれば、それを聞いたエルフの女は小さく息を漏らしてから、引き絞っていた矢を下ろした。

 どの程度出来るのか見たかった気分では有るが、まあここで関係を拗らせるのも良くないだろう。

 他のエルフ達もそれに習うように矢から指を離せば……しかしこちらへの警戒を解かないままに、不審げな視線を向けたままで。


「ヒトの少女よ、済まなかった。だが今この森は危険だ、疾く去れ」

「あー、心配すんな。それを承知でここに来てるんだよ」

「……どういう事だ」


 俺の答えに納得がいかなかったのか、或いは意味が判らなかったのか。

 親切に退去するように言ってくれたエルフの女は、周囲と同じく訝しげな、不審なものを見る目をこちらに向けてきた。


「まあ、いい。ここで立ち話するのも良くないだろう、着いてこい」

『……どうするんじゃ、エル?』

「断る理由もねぇだろ。まあ、ちょっとした寄り道にはなるが」


 こちらに背を向けて歩き出したエルフの女を見つつ、呟く。

 ――まあ、少なくともこのままワルトゥに前を歩かせてるよりは有意義な事になりそうだし。

 もうちょっと卵の魔族の情報も欲しかった所だから、丁度良かったと思っておこう。








 そうして歩くこと一時間程。

 恐らくは最近出来たのだろう、蔦が絡む事も苔がむす事もなく簡単な丸太造りの建物が並んでいる、拓けた場所に出た。

 その一角に有る小屋に入れば、エルフの女は恐らくは部下であろうエルフ達を小屋の外へと追いやり、椅子に腰掛けると、俺たちにも座るように促して。


「さて、では茶を出したりは出来ないが……事情を聞かせてもらおう」


 凛々しく怜悧さすら感じられるその表情を微かに緩めれば。

 どうやらワルトゥとかとは違って真っ当な会話ができそうな事に安心しつつ、俺はここに来た理由を話し始めた。


 レムレスでこの大森林の異変を知ったこと。

 その異変の元凶を殺しに来たこと。

 その最中、奇妙な――というよりは狂ったエルフ達に襲われて、そこでワルトゥに出会ったこと。

 そして、元凶の居場所を知っているらしいワルトゥに道案内させていたということを。


「……成程、な」


 そうして俺の話を聞き終えたエルフの女は、小さく頷くと、何やら少し考えるように口元に指を当てた。

 何か、俺の言葉に疑問でも有ったんだろうか?


『あー、エルちゃんは可愛いくてチビじゃが実力は本物じゃぞ?』

「チビも可愛いも余計だ馬鹿剣……!!」


 茶化すようなルシエラの言葉に、顔を熱くしつつ馬鹿剣の腕を思い切り抓る。

 リリエルは相変わらず無表情では有ったもの――口元が少し、微かにだが笑っているような、そんな気がして。


「ふふ、済まない――エル、で良かったか?お前を疑った訳ではないのだ」

「エルトリスだ……じゃあ、何だよ」


 エルフの女はくすくすと、楽しげに。

 久しぶりにおかしな、或いは微笑ましいものでも見たかのような優しげな笑みを零せば、目を細めて――


「――私は、アミラ。この抵抗勢力(レジスタンス)のリーダーをしている者だ。エルトリス、もし言うだけの力があるのであればだが……私達に協力しては貰えないか?」


 ――アミラはこちらを値踏みするような、それで居てどうかそうであって欲しいような願望を滲ませた言葉を口にした。



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