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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十二章 龍王の死亡遊戯
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4.それはとても、不本意な

「おお、いい眺めだのう」

「……変な所は触らないでくださいね。うっかりしそうですから」

「心配しないで大丈夫だよ☆その時は私がやっちゃうから☆」


 そんな言葉を交わし合いながら、アルカンとメガデスは、エスメラルダに抱えられながら空を行く。

 眼下に広がる魔族の住まう世界を見下ろしながら、三人は光の壁を越えた人間たちを捜索していた。

 捨て置いても構わないかもしれないが、それでも一応は人間なのだから、出来る限りは助けたい。

 それに加えて、オフェリアが何をするかが判らないという不安感が三人を突き動かす。


「にしても……アイツは一体何を考えてるんだろうなァ。オフェリアだっけか」

「さぁてのぅ。少なくともあんな有象無象を連れて光の壁を越えるなど、正気ではあるまいよ」

「違いねぇか」


 メガデスの言葉にアルカンはそう答えると、大きくため息を吐き出した。

 正気ではない。

 上位の魔族とそれぞれ相対した事がある三人の感想は、何れも同じモノだった。

 光の壁を超えられる魔族でさえ、彼らは決して容易く勝利を収める事はできなかった。

 それは、彼らが弱いからでは決して無い。

 寧ろ、彼らは魔族と比較しても決して引けは取らないし、それこそアルケミラが見たのであれば涎を垂らしながら小躍りして、直ぐに握手を交わす程の人材である。


 だが、その彼らをしても上位の魔族というのは、決して容易い存在ではないのだ。

 人間が持ち得ぬ力を持ち、並外れた魔力を持ち、強靭な肉体まで兼ね備えた存在である魔族達。

 彼我の種族差、とでも言うべきか。

 ほんの僅かな油断さえも命取りになり得るそれを、オフェリア達は知らなかった。


 多くの人間は魔族と接する事無く――或いは、接したら生きては居られないから――日々を過ごしているが故に、それを知らない。

 魔族の恐ろしさを真に理解しているのは、それこそ相対したことがあり、かつ生き延びた者達だけ。


「――ちっ。自業自得とは言え、気分が悪ぃ」

「団体から逸れた……のかな、多分」


 メガデスの言葉に、エスメラルダは軽く目を伏せた。

 彼女にとって、彼らは守るべき人間ではない。

 エスメラルダにとって守るべき人間とは自国民であり、同時に会話をちゃんとした形で交わせる者だ。


 だが、それでも眼下に見えた光景には、少しだけ表情を曇らせる。


 そこにあったのは、無惨に食い散らかされた死体の数々。

 魔物か、或いは魔族か。

 そのどちらにせよ、彼らでは恐らく抵抗さえまともに出来なかっただろう。

 人らしい死に方さえ出来なかったであろう彼らを見下ろしつつ、三人は人の痕跡を辿り、辿り――








「――居たぞ、あの山の麓だ!!」

「でも、何だか様子が……?」


 ――やがて、その場所に辿り着いた。

 バルバロイが住まうその巨大な山の麓。

 そこに大勢の人間たちが屯しており――その中央には、落ち着いた様子で休んでいるオフェリアの姿も有った。


 三人はどよめく人間たちを無視してオフェリアの元に降り立てば、オフェリアはにこりと笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がり。


「これはこれは、英傑の方々。どうかなされたのですか?」

「どうかなされたのですか☆じゃねぇよ、とっととこの人間たちを連れて戻れ。集団自殺なんざされても面倒なんだよ」

「集団自殺……?何の事か分かりかねますが」


 メガデスの苛立っているかのような声に、オフェリアは臆する事無く言葉を口にすると、首を傾げる。

 アルカンはそんなオフェリアの様子に眉を顰め――


「――オフェリアさん。貴女は女神様に、何か言われたと口にしてたよね」

「ええ、ええ。そうですとも、私は女神様から神託を受けているのです」

「どんな力を授かったのかは判らない。でも、私だってそうだったのに魔族に破れかけたの」


 ――その間に、エスメラルダは割って入った。

 彼女が口にしているのは、過去の経験。

 オフェリアのように誰かから言われた言葉ではなく、彼女自身の経験を元に、言葉を紡いでいく。


「どんなに強い力があっても、それじゃあダメなの。魔族はそんな容易い存在じゃないわ、だからお願い、考え直して」

「……エスメラルダさん、心配して下さるのですね」


 そんなエスメラルダの言葉に、オフェリアは柔らかく笑みを零した。

 それは、純粋な喜び。

 だれかに気を使われる、心配してもらえる、それをオフェリアは心から喜びながら――


「大丈夫ですよ。私は女神様から大丈夫だと、はっきり言われてるのですから」


 ――しかし、その言葉を真っ向から否定した。

 彼女の瞳に宿るのは、真っ直ぐな――真っ直ぐ過ぎる意思。

 女神への狂信だった。


「魔族がどんな卑劣な手を使おうと、関係はありません。ええ、ですから私達は魔族に向けて宣戦布告しました」

「――何じゃと」


 オフェリアの言葉に、アルカンがピクリと肩を揺らす。

 そんなアルカンの様子に気づく事無く、オフェリアは自らに酔うような表情で言葉を続けた。


「六魔将が何だというのでしょう。ええ、まずはこの山に住まう六魔将を討ち滅ぼします。次は残っている六魔将を滅ぼし、最後に魔王を消し去って私達は勝利するのです」

「……オフェリアさん!!」

「諦めろ、エスメラルダ。コイツはダメだ、完全に自分の意志って奴を捨てちまってる」


 明らかに正気ではないオフェリアの言葉に、エスメラルダは何とか会話を続けようとするものの、メガデスはそれを遮った。

 自分の意志を捨てている。

 自分のすべてを女神の言葉に委ねているオフェリアをそう断じると、メガデスはでもな、と唇を咬みながら髪を掻いた。


「……やってくれたな、このクソアマ。宣戦布告だと?」

「何をそんなに恐れているのです?問題有りませんよ、魔族は全て滅ぼすのですから」

「テメェらが負けたらどうなるか判ってんのか!?人間側が大々的喧嘩をふっかけたんだぞ、魔族共は大手を振って人間側を殺しに来る!!」

「今までだってそうだったでは有りませんか。魔族に殺された人間は、そう少なくはありません」

「――あれらは木っ端じゃ。こんな形になればあんな物ではない、真に恐れるべき相手が来るぞ」

「心配性なんですね、英傑の方々は」


 メガデスとアルカンの言葉も、彼女には届かない。

 知らないのだ。

 知ろうとも思っていないのだ。

 オフェリアにとって、魔族は女神が排除しろと言った敵なのだから、知っているのはそれだけで良い。


 そんなオフェリアの様子に、メガデスもアルカンも呆れを通り越して哀れみさえ覚えながら――


「……それで、その戦いはいつから始まるの?」

「数日中には。5人程代表を選んで、その中で殺し合うそうですよ」


 ――面倒がなくて助かります、と口にするオフェリアにエスメラルダは一瞬だけ思考を巡らせて。

そして、僅かな躊躇の後に、決意した。


「判ったわ。それじゃあ、私もその五人の内に入る」

「おい、エスメラルダ!?」

「少なくともこの場は勝たないと不味いんでしょう?それじゃあもう、こうする他無いよ」

「……そう、じゃな。甚だ不本意ではあるが、仕方あるまい」

「あら、あら――これは僥倖ですね。女神様のお導きでしょうか、ふふ、嬉しいです」


 エスメラルダの言葉に、オフェリアは心底嬉しそうに笑みを零す。

 アルカンとメガデスも、そうする事でしかこの状況は解決できない――そうしなければ間違いなくオフェリア達は全滅すると悟ったのだろう。

 渋々と、本当に不本意そうにオフェリア達に加われば――……








 ……その3日後。

 それぞれの陣営の代表は、バルバロイの住まう山脈の内側に招き入れられた。


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― 新着の感想 ―
[一言] オフェリアさんも戦うのかな。 戦闘力があるタイプには見えないけど。 この戦争(決闘?)はどんなルールになるのやら。 バルバロイの山に行く時点で人間側はその時点でふるいにかけられている気も…
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