表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十一章 魔なる世界が割れる日
283/365

9.少女、力を示す②

 中庭に、歓声が響き渡る。

 アルケミラの配下達は、その三人が共に戦うのを見るのは久しぶりか、或いは初めてなのか、酷く興奮している様子だった。


 まあ、その気持ちも判らないでもない。

 アルケミラの側近である三人――本来ならば、四人だったか――は、それぞれが相応の実力者だ。

 少なくともさっきまで蹴散らしてきた魔族達とは、比較することさえ烏滸がましい。


「私達の力を見せてあげるわ、エルトリス――!!」

『おーおー鳴きおるわ。良かろう、胸を貸してやろうではないか――のう、エルトリス』

「うん!」


 やっと全力を見せられる事が嬉しいのか、はたまたアシュタール達と共に戦えるのが嬉しいのか。

 クラリッサは高らかにそう叫べば、それと同時にアシュタールとイルミナスが俺達に向けて駆け出してきた。

 上等だ、と拳を構えながらまずはアシュタールから対処しようと視線を向ければ……ぐにゃり、とその姿が歪む。


「――なぁに、これぇ……っ!?」


 そのまままるで溶けるように姿を消したのを見れば、俺は思わず声を漏らしてしまった。

 音は聞こえる。

 存在も確かにそこにあるのだろう。

 だが、アシュタールの姿だけが、どこにも無く――


「貰ッタゾ、人間――!!」

『戯け。見えぬ攻撃など、今までどれだけ見てきたと思う?』


 ――アシュタールよりも早くこちらに駆けてきた殺気を、俺は鎖で絡め取った。

 多分イルミナスか。

 鎖で拘束すれば、ぼんやりと発光したその輪郭が見えてくる。

 アシュタールの攻撃も、風を切る音を頼りに弾きながら、俺はにんまりと笑みを浮かべると、イルミナスを絡め取った鎖を振り回し――


「ヌ、ウウゥゥゥ――!?何故、何故見エル――!!!」

「きこえるし、かんじるもん!そぉーれぇっ!!」

「ぐ――っ!?」


 ――そのまま、勢いよくアシュタールに向けて叩きつけた。

 相変わらずその姿は見えないけれど、確かにそこに居たのだろう。

 アシュタールは声を上げながら、微かに輪郭の見えるイルミナスを受け止めて、動きを止める。


 よし、このまま……


「――♪~~~~……♪」

「……おう、た?え、あ、れぇ……っ!?」


 ……このまま二人共殴り飛ばしてしまおうとした瞬間、がくん、と身体から力が抜けていく。

 クラリッサの歌が中庭に響き渡った瞬間、まるで空気でも抜けるかのように身体に力が入らなく、なって――ああそうか、そういう事が出来るって言ってたよな……っ!!


 動きを止めていたアシュタールとイルミナスは、再び俺へと飛びかかる。

 アシュタールが正面を、イルミナスがアシュタールが作り出した隙を突く、つもりなんだろう。


 全くもって、それは正しい。

 一人が相手の行動を抑え、一人が隙を穿ち、一人が二人の行動をサポートする。

 一人一人じゃあ俺に敵わないのだとしても、こいつらは互いに協力し合う事で俺と対等に戦おうと――勝とうとしていた。


 それがとても愉しい。

 ほんの少しだけ、俺がこの体にされる以前の事を思い出す。

 あの時も、連中は徒党を組んで俺を殺そうとしてきたが、俺はその尽くを返り討ちにしてきた。

 大半は、数に任せた稚拙な集団。

 だが、中にはこうやって連携をとって俺を殺そうと試みる連中も、確かに居たのだ。


「取った――!!」

「コノ距離ナラバ――……!!」


「……じゃあ、えるちゃんもぉ。ほんき、だすね?」


 ……愉しくて、気持ちが高ぶってきた。

 殺さないように加減を続けてたけど、こいつらならまあ、多少本気を出しても大丈夫だろう。

 力がまるで入らなくなった身体をふらりと起こせば、俺の背後にルシエラを創り上げる。


 それを見た瞬間、体を強張らせたのは二人。

 クラリッサとアシュタールは、それが何なのかを即座に理解したのだろう。

 だが――イルミナスは、俺と出会って間もない。

 俺が戦っているところも殆ど見ていないのだから、それが何なのか理解できず。

 寧ろ俺を守る鎖が減ったことを好機とばかりに、その剣状に変化させた腕を振るって――


『――姿を消すのは見事じゃが、アシュタール程動きが良くないのう』

「ナ……ニ……ッ!?」


 ――それを、ルシエラが指先で軽く止めてみせた。

 イルミナスがどれだけ力を加えようが、ルシエラの指先が動かない。

 元より姿を消しての奇襲、それにアシュタール達へのサポートが主なのだろう。

 俺の動きに合わせて、ルシエラはイルミナスを地面に叩きつければ、中庭の地面が砕け散り――そして、アシュタール達も俺に同時に飛び込んできた。


 判断は間違っていない。

 既にこの状態になれば、俺が幾ら脱力させられても関係ない。

 この状態で本格的に動くのは、俺じゃあなくルシエラだ。

 だから、クラリッサも飛び込んでくる事自体は決して間違っていない。


 前方からアシュタール、空からクラリッサ。

 アシュタールは俺の全力と打ち合える事をどこか嬉しそうに、口元を歪めていて――ああ、ならちゃんと打ち合ってやるべきだろう。


「ぬ、ぐ……っ!?お、おおおぉぉぉ――ッ!!!」

『はは、悪くはないのう――!!』


 アシュタールの無数の武具が、瞬く間に砕け、拉げ、折れていく。

 ルシエラは嗤いながら、砕いた武器を咀嚼し、味わえば……それでも尚、拳を以て飛びかかってくるアシュタールに、拳を固めて。


「やあああぁぁぁァァァ――ッ!!!」

「えいっ!」

「え、ちょ――っ、きゃ、あ!?」

「ぐっ、しま――」


 そして、上から飛びかかってきたクラリッサの脚を掴めばアシュタールに叩きつける。

 動きが止まったアシュタールとクラリッサに、にんまりと笑みを浮かべれば、ルシエラは握り固めた拳を――割と容赦なく、二人に叩きつけた。


「――……っ、が、ふっ」

「ぐ……う、ぅ……っ」

『ほー、まだ立つか。じゃが、もう止めておけ』


 それでも、アシュタールは倒れずに戦意を見せる……が、それをルシエラは軽く制する。

 ……見れば、イルミナスもクラリッサも既に立てる状態ではなく、アシュタールも立っているのがやっとと言った状態で。


「……そう、だな。悔しいが、自分たちの負けだ」

「うん、えるちゃんたちのぉ、かちだねっ」

「ぐぅ……三人がかりなら、って思ってたのに……」

『まだまだ甘いわ、戯け。それでもまあ、それなりには楽しめたがの』

「――コレガ、アルケミラ様ガ言ッテイタ者、カ。認メザルヲ、得マイ」


 三人が少し悔しそうに、しかし仕方ないと言った様子でそう口にすれば――中庭に、再び歓声が響き渡った。

 何だ何だと周囲を見てみれば、さっきまで俺達を蔑視してた魔族達は、それとは真逆の視線を向けていて――ああ、うん、これは何とも分かりやすい。


『……全く、調子のいいもんじゃ』

「でも、えるちゃんね、こういうのすきかもぉ」

『まあ、エルトリスは判りやすいものが好きだからのう』


 力を見せつければ、それにちゃんと評価をする。

 そんな魔族連中をちょっとだけ快く思いながら、俺はそれを遠巻きに眺めていたアルケミラ達に軽く手を振った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ、応援お願いいたします。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初の10行でアルルーナの部下ってあるけど 間違ってないですか?
[一言] クラリッサの鳥足を掴んでベチン( ˘ω˘ )
[一言] 激しい戦闘シーンなのに、エルちゃんが喋るところでなんとなく脱力してしまう(良い意味で) この口調だと「強い戦士」というよりも「強いアイドル」扱いされそう。 アルケミラの元にいるような人たち…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ