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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十一章 魔なる世界が割れる日
282/365

8.少女、力を示す①

『……ふむ、どうしてこうなったのかのう』


 周囲から向けられる敵意、或いは殺気に視線を向けつつ、小さく息を漏らす。

 アルケミラの居城、その中にある闘技場のごとく広い中庭。

 そこに所狭しと並び、武器や爪、或いは牙――はたまた異能を手に俺に飛びかかろうとする魔族達を見れば、少しだけため息を漏らしてしまった。


 ……全くもって、どうしてこうなってしまったのか。








「――見えたぞ、あれがアルケミラ様の居城だ」

「あれが……」

「街、というわけではないのだな」


 アシュタールに案内されるままに進み、しばらく。

 植物のあまり生えていない丘を超えた辺りで見えたそれに、リリエルたちは声を漏らした。


 そこにあったのは、一つの巨大な城。

 周囲に街らしいものはなく、高い城壁に囲まれたその巨大な城は今まで見たどんな城よりも大きく――いや、まあ、巨大さだけで言うのなら廃棄地のミカエラが住んでいたあの構造物のが大きい、だろうか?


 まあ兎も角そんな、今までに見たことも無いような立派な城に、俺達はつい目を奪われてしまった。

 ……偏見かもしれないけれど、もっとこう、無骨だったり、おどろおどろしいものだったり、そういうものだとばかり思っていたのも有ると思う。


「素晴らしいですわ……!アシュタール、彫像は?絵画は?美術品は有りますの!?」

「む……じ、自分はそういうのには詳しくないが……まあ、多少は」

「行きましょう、さあ行きましょうエルトリス!一分一秒一刹那さえも惜しいですわ!!」

「うん、いこぉ、えるどらどちゃん」


 いやに元気になったエルドラドに、俺もリリエルもアミラも、それにルシエラやワタツミまで苦笑しつつ、歩き出す。

 まあ、早くアルケミラと合流するのには賛成だ。

 口から出てしまった言葉に顔を熱くしつつも、俺はアシュタールに案内されるままに歩き、ひときわ巨大な城門の前に向かって。


「――アシュタール様!ご無事でしたか」

「ああ。不在の間、代わりはなかったか」

「はい。先程クラリッサ様もお戻りに――……」


 城門の警備でもしていたのか。

 アシュタールよりも更に大きい、下手な家屋と同等かそれ以上はありそうな大きさの魔族が、アシュタールを見れば嬉しそうに声をあげた。

 そう言えば、アシュタールもクラリッサも、アルケミラの側近だったか。

 ともすれば、アルケミラの勢力の中じゃあアルケミラの次に人気があるんだろう。


 少しくらいの世間話ならまあ良いかと思いつつ、俺達はアシュタールとその魔族達の会話が終わるのを待ち――……


「……そちらの人間は?向こう側の職人か何かで?」

「いや、エルトリス達はアルケミラ様の客だ。共にアルルーナと戦ってくれる勇士でもある」

「勇士……って」


 ……不意に、魔族達の視線が一斉にこちらに向けられた。

 家屋並かそれ以上に大きな魔族達だ、必然的に俺達は見下すような視線を受けて。


「――御冗談でしょう。こんな障壁も張れない脆弱な種族が、勇士などと」


 そして、門番達は笑いながらそんな言葉を口にした。

 アシュタールの事は信頼していても、人間に対してはやはりそういう意識があるのだろう。

 肉体的に弱く、障壁も無い、脆弱な存在。

 ……戦う前からそう決めつけるのは門番としてどうなんだ?とは思いつつも、まあここで口を出すことでもないだろうと、俺は小さく欠伸をして。


「……自分の言葉が信用できないとでも?」

「え……い、いえ、そういう訳では。兎に角どうぞ、お通り下さい」


 アシュタールがじろりと視線を鋭くすれば、それだけで門番達は軽く後ずさりながら門を開いた。

 ……ああ、うん、アシュタールの冗談とでも思ってたのか。

 門番達はまさかアシュタールがこんな反応をするとは思ってなかったかのように、体を震わせていて。


「済まん、人間を職人としては認めていても戦士として認めている者はまだ少なくてな」

「ん、いいよぉ。えるちゃん、おこってないもん」

『……にしても、本当に可愛いのう、可愛いのう……♪』

「や、やめてよぉ、えるちゃん、はずかしぃ、からぁっ」


 ルシエラに頭を撫でられれば、俺は顔を赤く染めつつも小さく息を吐き出した。

 ……口から出るこの舌っ足らずで甘い声が、腹が立って仕方ない。

 ともすれば自分で喋ってしまっているようにすら錯覚してしまうのが、妙に恥ずかしくて、恥ずかしくて――


「……チッ」

「アシュタール様が連れてきたからって……」

「こんな時に人間なんて……」


 ――それと同時に、周囲からの声に少しだけうんざりした。

 まあ、ここに居る連中の殆どは光の壁の向こう側になんて行ったことが無いんだろうから、伝聞だけで判断するっていうのは判るんだけども。


「しかもガキまで……」

「あんなの足手まといでしか……」


「……エルトリス様、許可を。首を落として参ります」

「まってまってまって……っ!」


 リリエルもリリエルで、だいぶ苛立ってきてるみたいだし。

 アミラもちょっと不機嫌そうに眉を顰めてるし。

 ……エルドラドは周囲の調度品だとか、建物の造りだとかに大興奮してるみたいだけど。


 アシュタールもここまでの反発は予想していなかったのか、少し困ったような顔をしていた。

 まあ、これならさっさと奥までアルケミラに会った方が良いか。

 元より俺も興味あるのはアルケミラにクラリッサ、アシュタールくらいだしな――


「――ようこそ。久しぶりですね、エルトリス」

「ひゃ――……っ!?」


 ――そう考えていると、いつの間にか俺達の前に一人の女性が立っていた。

 湖のように青い髪。

 病的なまでに白い肌。

 そして、深い水底のような色をした瞳をした、白いドレスの――図抜けたスタイルをした、とてもとても、背の高い美女。


 以前とはまるで違う姿だったけれど、それが一目でアルケミラだと理解する。

 圧力がまるで違う。

 以前出会った時は、どれだけ力を抑えていたのかがよく分かるアルケミラに、俺は思わず声をあげてしまい――アルケミラは、少しだけ可笑しそうに笑みを零した。


「早速ですが、一つ頼んでも良いでしょうか」

「……えるちゃんに、たのみごとぉ?」

「ええ、そうです。アルルーナに何かされたようですが、それでも然程問題はないでしょう」


 ……俺の口調に笑わない辺り、もしかしたら何処かでアルルーナみたいに見ていたりしたんだろうか。

 まあ、そんな詮索をしても仕方がないし、アルケミラが言っているのかも何となく察する事が出来た。


 確かに、こう言った手合いは現実を見せるのが一番早いだろう。








 それはまあ、良かったんだが。

 アルケミラの部下……というか信奉者達がこんなにも多いのは、ちょっとだけ予想外だった。


 ――貴女一人で彼らに力を示して下さい。それで、丸く収まりますので。


 全く、簡単に言ってくれる。

 これからアルルーナとやり合うってのに殺す訳にも行かないから、適度に手を抜きつつやらなきゃいけないのが、また面倒だ。


「――ラアァアァァァァ!!!」

「んー」

「この、何で当たらない――!?」

「でも、これならだいじょぉぶ、かなぁ?」


 ……それでもまあ、案外何とかなりそうだが。

 鎖を使って転がし、脚を払って転がし、武器を掴んで放り投げる。

 次々に倒れ伏す仲間たちを見てようやく力量差を悟り始めたのか、一斉に飛びかかってくるようになったけどまだまだ足りない。


 まあ、骨の一つや二つ、三つ……五つくらいは覚悟してもらおう。

 俺もだけど、リリエル達まで甘く見た分の授業料はしっかり払ってもらわないとな。


『――む』

「う、ん。えるちゃんもね、わあったかも」


 ――そんな事を考えていると、不意に妙な違和感を覚えた。

 何かがいる。

 有象無象というには質が高い魔族達の群れの中に、一際鋭い刃のような奴が、一つ。


 丁度周りに居た魔族が飛びかかってきたのに合わせるように、俺の隙を突くようにしてきたそれは不可視だった。

 見えない、ただしかし殺気だけは確かにそこにある何か。


「――ナント、見抜クカ」

『少しは骨が有るやつが混ざっておるようだの、良かったではないかエルトリス』


 鎖をそこに伸ばせば――現れたのは、淡く発光する魔族の姿。

 剣のように変えながら伸ばしていたその腕を絡め取れば、俺はそいつを放り投げて――


「――だから一人じゃ無理だって言ったでしょ、イルミナス」

「少シ、試シタカッタガ……ナルホド、コレハ強イ」

「自分もまるで刃が立たなかったからな。だが――」


 ――それを、クラリッサが大きな翼を羽ばたかせながらキャッチすれば、倒れ伏せて居た魔族達から歓声が上がった。

 空にいるのは、クラリッサと人の形をした光体――イルミナス。

 そして、地上に立つのは六つの武具を手にしたアシュタール。


「……えへへっ、うれしいなぁ……♪」


 表情が、ほころんでしまう。

 これは、中々に楽しめそうじゃあないか――……!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 強い敵にエルちゃんご満悦
[一言] 戦ってるときは元から口調が幼女になりがちだから、あんまり違和感ないかも...? クラリッサやアシュタールとも戦うのか。 クラリッサと戦うのはなんだかんだ初めてだっけ...?
感想一覧
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