12.門を守るもの②
「――ふむ」
カァン、と幾度となく響いた音が、洞窟に鳴り響く。
アミラは自らの放った矢が、盾の如き胴体をした尖兵を弾き飛ばしたのを見て、小さく声を漏らした。
アミラが相対している盾の尖兵は獣の尖兵とは反対に、酷く小さかった。
大きさで言うならアミラの胸元程度だろうか。
まるで子供のような、しかしずんぐりむっくりとした身体に矢を当てれば、それだけで盾の尖兵は弾かれ、転がっていく。
「逡懃函隱ソ蟄舌↓荵励j繧?′縺」縺ヲ?√ヮ繝ェ繧?′縺」縺ヲ?√?繧翫d縺後▲縺ヲ??シ!!」
「すまんな、何を言っているのかさっぱりだ」
盾の尖兵はガシャンガシャンと身体を鳴らしながら起き上がれば、それでも何とか間合いを詰めようと挑みかかり――その前に進もうとした短い脚を撃ち抜かれ、また転がって。
こちらの攻防はアルカンの方とは違い、完全に一方的なものだった。
アミラの矢は鋭く相手の一挙一動を先んじて潰し、盾の尖兵は前に進む事さえままならない。
とは言えど、未だにアミラからの有効打が0なのもまた事実である。
決してアミラの放った矢が弱い訳ではない。
アミラの矢はそれこそ一矢で尖兵を粉々に砕く程度の威力は有するようになったし、先程から放っているのもすべてそれだった。
要するに、盾の尖兵が異様なまでに硬いのである。
「――だが、おおよそお前の疾さは読めた。終いにしよう」
であるならば、とアミラは一矢に強い魔力を込め始めた。
風が集い、その全てが鏃へと収束していく。
硬いというのであれば、それを砕けるだけの一撃を放てばいい。
弾き飛ばされ転がり、無防備になっている盾の尖兵を打ち砕かんと、アミラは一矢に力を込めて――
「――縺弱?縺」縲ゅ℃縺イ縺イ縺イ縺イ縺」??シ√d縺」縺ィ豐ケ譁ュ縺励◆縺ェ縺√=縺!!!」
――それを見た瞬間、盾の尖兵は起き上がりながら腕をおもむろに振りかぶった。
完全な間合いの外。
短い腕では決して届かないその距離。
「……っ、と」
だが、その距離であってもアミラは油断すること無く軽く飛んだ。
力を込めた矢を撃つ反動で後ろに飛べば、盾の尖兵の奇襲じみた攻撃も届かない。
盾の尖兵の腕は、その鎚は、先端以外が鎖になっているようだった。
じゃらりと音を立てながら伸びた腕は先程までアミラが居た場所を粉々に砕いており――しかし、その奇襲も成就はしなかった。
矢を持っていた方の手を微かに掠めただけで、アミラは負傷すらせず。
再び距離を取れば、今度こそ盾の尖兵を打ち砕かんとアミラは矢をマロウトに番えようとして――
「え」
「隗ヲ縺」縺溘?りァヲ縺」縺溘?∬ァヲ縺」縺!!!」
――ぽろり、とその指先から矢が落ちる。
手が砕けた訳ではない。
ではなぜ、とアミラがその手を見れば――彼女の思考は、一瞬だけ完全に停止した。
その手は、彼女の知っている手ではなかった。
指先がひしゃげている訳ではない。手のひらが砕けている訳でも、当然無い。
ただ、短くなってしまっていたのだ。
大人の女性である筈のアミラの、矢をつがえる手だけが……その腕だけが、短く。
子供のように短い、しかし太い指に、手の平に、そして腕に。
自らのものとは思えないソレに気を取られ、続く盾の尖兵の攻撃に、アミラは反応しきれず――
「――っ、何だ、これ、は――っ!?」
続けざまに振り下ろされた鎖鎚を額に掠めながらも辛うじて躱したアミラは、戸惑いとともに声を上げながら、ガクン、と膝をついた。
否、ついたつもりだった。
「縺イ縺イ縺」縲√?縺イ縺イ縺」縲ゅメ繝薙?√メ繝シ繝薙?ゅb縺」縺ィ繝√ン縺ォ縺励※縲∫┌讒倥↑繧ェ繝悶ず繧ァ縺ォ縺励※鬟セ縺」縺ヲ繧?k繧医♂」
――周囲のモノが、大きい。
さっきまでは小さく感じていた筈の盾の尖兵までもが大きくて、アミラは目を見開いた。
手も、腕も、脚も、胴も――その全てが、短くなっている。
エルトリスのような子供になったわけではなく、ただその長さだけを叩き潰すかのように縮められている。
「く……っ」
「鬥ャ鮖ソ縺鯉シ∫┌鬧?□縲∫┌鬧?┌鬧?┌鬧?↑繧薙□繧医♂??シ!!!」
地を蹴っても、短く太い脚では距離など出ない。ただ、その場で軽くぴょん、と跳ねるだけ。
ぽよん、と身体が跳ねれば、それだけでアミラはバランスを崩しそうになり……しかし、既の所で堪えてみせて。
その事実と、背の低さの割に身体に感じる重みにアミラは顔を羞恥に染めつつも、マロウトを構えた。
ガリ、と地面にマロウトが引っかかれば、マロウトを縮めつつ、アミラは息を吐き出す。
顔を赤くし、子どもじみた背丈だというのに太い、無様な姿に変えられて、アミラは顔を熱くしながら――
「……良くも、こんな辱めを受けさせてくれたな」
――しかし、その口から吐き出されたのは焦りでも羞恥でも、ましてや絶望でもなく、燃えるような怒りだった。