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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第十章 地の底に眠る廃棄物
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4.のんびりと、湯に浸かりつつ

「はぁ……あふ」


 湯船に肩まで浸かって、小さく息を漏らす。

 竜車に長く揺られていたのもあるけれど、やはりこの寒さは体に堪える。

 暖かなお湯はひどく心地よくて、俺は体をぐぐっと湯船の中で伸ばせば、口元まで湯に浸った。


「失礼しますね、エルトリス様」

「ああ、リリエルも疲れたろ。ゆっくり入っとけ」

「有難うございます」


 リリエルが隣に腰掛けるように浸かってくれば、軽く体を横にずらす。

 多分今回一番疲れているのは竜車を動かして、外で冷たい空気を浴びていたリリエルだろうからしっかり労ってやるべきだろう。

 リリエルは少し嬉しそうに頬を綻ばせながら肩口まで浸かると、小さく息を漏らして……そして、視線を少しやかましい二人の方へと向けた。


『私が洗ってあげるって言ってるの。何で拒否するのか理解不能』

『自分でできるから良いって言ってるのよ――ってこら、やめ、きゃふっ、きゃははっ』


 髪の色と瞳の色以外は瓜二つな二人。

 着ている服が若干違ったからそこまででも無いかと思っていたけれど、こうして一糸まとわぬ姿になってしまえば、色以外ではもう殆ど判別ができない。


 両手を泡だらけにしたサクラは、ワタツミの体をごしごしと洗いつつ。

 ワタツミはそんなサクラの手に笑い転げながら……そんな光景を、俺とリリエルは少し微笑ましげに眺めていた。


 そこそこ長い間、こうして会う事もなかったからサクラもアレで喜んでいるのかも知れない。

 ワタツミも本気で嫌がっている様子じゃないし、止める必要もないだろう。


「……っと、ちゃんとやっとかないとな」


 そう言えば、と湯船に軽く浸っていた髪の毛を掬うと、そのまま頭の後ろで纏めていく。

 普段はルシエラやリリエルにやってもらってるんだけども、まあいつまでも二人任せという訳にも行かないだろう。

 俺も随分手慣れたもので、少しすれば髪の毛をちゃんとまとめる事が出来ていた。

 なんでも、こうしないと湯船に髪が浸って汚いのだとか、なんとか?

 いや、抜けた髪の毛が湯船を泳ぐからだったっけ……?


 まあうん、いいや。

 どうせ髪の毛を自由にさせとくと、後で体にべったり着いて気持ち悪いんだから。


『は、ぁ……もう、温泉くらいゆっくりさせてよね』

『いくらでもごゆっくり。どうせここは毎日入れる』


 ちょっと首をひねっている間に、サクラとワタツミが並んで湯船に浸かった。

 温泉――少し濁っているこのお湯の事だけれど、どうやらこのお湯は色々な効用があるらしい。

 アマツの名物らしいが、俺は単純に気持ちいい湯浴みくらいにしか覚えていなかったりする。


「リリエル、ここの効用って何だっけか」

「効用ですか?ええと、確か――疲労回復、神経痛、筋肉痛、肩こり、腰痛、ストレス解消――」


 ……なんとも胡散臭い文字が立ち並んでいるけれど、まあこれが商売として許されてるんだからきっと効果が有るんだろう、多分。

 実際浸かってると体の内側からポカポカして心地が良いし――


「――冷え性、不眠症、それに豊胸に効果があるそうです」

「……早めに上がるか」


 ――前言撤回。

 これ以上この胸元の駄肉を大きくされて溜まるものか。

 今でさえ結構邪魔――いや、最近はもう慣れてそれ前提の立ち回りも出来るようにはなってきたけれど。

 それでもやっぱり足元が見えないのは不便だし、寝るときだって仰向けだと寝苦しいし、うつ伏せも苦しいし、良い事なんて何一つ無いんだからな――!!


『もったいない。ゆっくり入る』

「ちょ――おい、こらっ」

『まあまあ、こういうのの効用は大抵眉唾なんだから』

「ぐ……」


 サクラに肩を抑えられ、ワタツミにからかうようにそんな事を言われてしまうと、俺は返す言葉もなく再び湯船に浸かる。

 ……まあ、それは確かにワタツミの言う通りではあるんだけれども。


「ご安心を、エルトリス様。効果がないのは私で実証済みですので」

「私で……って」


 そう言いながら、リリエルは俺に笑みを向けると……そっと自分の胸元を撫でて、小さく息を吐き出した。

 ……もしかして前回ここに来たときにじっくり浸かったりとかしていたんだろうか。

 なだらかな胸元をなぞるリリエルの指はすこしだけ悔しそうに胸元に沈み込んでいて――兎に角、この話題はもうやめておこう。


『……それにしても』

「ん?」


 ワタツミもサクラも空気を察したのか、話題を変えようと少し悩んだ後に、今度は俺の方に視線を向けてきた。

 まあ、別にガキ二人から何をされようが構いはしないが。


『エルトリス、何というか』

「何だよ」

『……ちょっと見ない間、に。女らしく、なった』

「――ん?」


 ……構いはしない、と思っていたが。

 サクラのその言葉に、思わず俺は硬直してしまった。


 女らしく?誰が?

 ……俺が?


「……いや、いやいやいや、何いってんだお前」

『体つきとか、そういうのじゃなくて。こう、仕草とか』

『あー、それはちょっと判るかも。やっと女の子らしさを覚えたのかしらって』

「ちょ……っ、お、俺のどこが女の子らしいってんだ――!?」


 畳み掛けるように頷き合う仲良し姉妹に、俺はつい声を荒げてしまう、けれど。

 そんな俺の言葉に、二人は迷うこと無く俺に向けて指を指してみせた。


 一つは、俺の髪の毛。

 そしてもう一つは、湯船に浸かってる俺の体。


『前は、髪の毛とか気にしてなかったし』

『少し前までは、湯浴みのときも胡座をかいてたでしょ。でも』

「え……あ、ぅ」


 髪の毛は、まあルシエラやリリエルにやってもらうのも悪いし、後で張り付くと気持ち悪いから覚えただけ、だけども。

 体の方……座り方を指摘されれば、俺は今自分がどんな座り方をしているのか、今になって気付いてしまった。


 ぺたん、とした女の子座り。

 丁度俺の胸に遮られて見えなかった下半身は、まるで年相応の女の子のように力を抜いて、脱力していて――それを理解した途端、一気に顔に熱が回ってきてしまう。


「こ、これは、その……っ!」

『でも、良い事。可愛いは、大事』

『そうね、別にそんなに恥ずかしがる事――』

「……ワタツミ、サクラ」


 何とか、何とか取り繕おうとはするものの、良い理由を思いつくわけもなく。

 しどろもどろになれば、からかっているのか、それともフォローしているのか良く判らない言葉をサクラ達が口にしてきて。

 そんな様子を見るに見かねてか、リリエルが言葉を口にすれば、俺は少し安堵して――


「エルトリス様は元より女性らしい方です。勇猛果敢な所もありますが、勘違いなさらないで下さい」

「リリエル……」


 ――リリエルのその言葉に、がっくりと項垂れてしまった。

 そんなに、そんなに女の子らしいんだろうか、俺。


 俺の反応に不思議がるリリエル達に小さく溜息を吐き出しつつ、ぷかぷかと浮かぶ胸元を軽く睨む。

 ……どうか、これ以上大きくとかなりませんように。

 あと、女の子らしくとかなりませんように。


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― 新着の感想 ―
[一言] どんなだっていいじゃない、エルちゃんはエルちゃんなんだから( ˘ω˘ )
[一言] ルシエラは寝てるのかな。 やはりエルちゃんを愛でる回は至高。 永遠のお茶会とか幸せの国で見た目相応にされていたのが、エルちゃんの所作に少し影響してたりして。
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