表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第七章 少女たちの安息日
193/365

24.浴室談義

「――は、ふぅ」

『そう言えば、夜にのんびりと湯に浸かるのは久方ぶりかの』


 肩まで湯船に浸かりながら、小さく息を漏らす。

 しっかり腰を付けてしまうと顔まで沈んでしまうから、お尻の下に桶を入れて腰掛けつつ。

 ここ最近はずっと、夜になればアリスやアルケミラとの特訓で死ぬような思いをしていたから、こんな時間に暖かな湯に浸かってしまうのは意外なほどに心地よかった。


 エルドラドの方に視線を向けてみれば、心地よさげにしている俺たちを見て満足そうに頷いており。

 俺たちを害する算段など、最初から無かったのだろう。

 湯船の中で軽く伸びをして、その豊満な肢体をたゆん、と弾ませながら、甘く吐息を漏らし。


 ちゃぷん、と湯船に波を作りながら、ゆっくりと俺たちの方へと近づけば――ルシエラが一瞬だけ身体を強張らせたのを見て、エルドラドはくす、と笑った。


「何もしませんわよ。あの有利な状況ですら力で潰されたというのに、この状況で私になにか出来るとでも思いまして?」

『……ぬ』

「あの時、既に格付けは終わっているのです。貴女達を奴隷にするつもりであれば、もっと場を整えて必勝を期してからにしますわ」

『随分と殊勝な考え方じゃな』


 エルドラドからの思わぬ言葉に、警戒を続けていたルシエラも納得してしまったのか。

 少なくともこの場に罠が無い事を理解すれば、漸く警戒を解いたのだろう、ルシエラは湯船に軽く口をつけた。


 ……さて。

 となれば、やはりここに呼ばれた理由は今の自分の環境を自慢したかった、のだろうか。


 だとすればまあ、何とも子供じみた――もとい、可愛らしいものだ。

 外見こそ成熟した女性だけれど、よくよく考えれば長い時間を洞窟の中だけで過ごしてきた魔剣なのだし、そういう部分は有って当然なのかも知れない。

 ワタツミだって、大分子供だし。


「――さて。それでは此方に呼んだ理由を――入ってらっしゃい、ノエル」


 そんな事を考えていると、エルドラドが少し真面目な表情を浮かべながら、パンパン、と軽く手を叩いてみせた。

 ノエル、というとあの少年従者だろうか。


「え――で、ですが、エルトリス様達も居るのに」

「気にしないで大丈夫ですわ。私といつも一緒に入っているでしょうに」

「そ、そういう問題ではありません――っ」


『……何じゃ、もしや伴侶自慢か何かか?』

「いや、いくら何でも……いやでも……」


 エルドラドとノエルが何やら問答をしているのを聞き流しつつ、ルシエラの言葉にあらぬものを想像してしまった。

 ……そう言えば確かに、エルドラドのノエルに対する態度は奴隷に対するものとは明確に違っていたように思える。

 自由意志を奪うような真似はしていなかったし、他の奴隷と比べて趣味が良いとは言えないけれど、ちゃんとした身なりをさせているし。


 ……これはもしや、本当にルシエラの言葉が正解だったりするんじゃあなかろうか?

 俺もさっき、エルドラドは外見よりも内面が幼いと思ったばっかりだし、そう考えれば存外釣り合いが――


「い・い・か・らっ。さっさとなさいっ」

「……わ、わかりました」


 ――そんな馬鹿なことを考えている内に、エルドラドとノエルの問答はエルドラドが押し切ったらしく。

 弱々しく、消え入るような声で外から返事がしたかと思えば、少ししてからゆっくりと、静かに浴室の扉が開いた。


「――……」


 そこに立っていたノエルの姿を見て、思わず息を飲む。

 細身の、色白の身体。

 俺よりは背丈が有るとは言えど、それでも小柄なノエルの身体を見れば、何故か俺は顔を軽く熱くしてしまい。


 でも、それ以上に――仮面で隠されていた顔を見てしまうと、その熱も瞬く間に失せてしまった。

 深く、深く刻まれた火傷の痕。

 傍から見ただけでも、もう何も見えていないのであろう事は判ってしまう程のそれに、ルシエラはふむ、と小さく声を漏らし。


「……し……失礼、します……」

「……?何を縮こまっているのかしら、ノエル。私で見慣れているでしょう?」

「え、エルドラド様はそうですが、エルトリス様達に見られるのは……っ」

『……見慣れている?』


 しかし、エルドラドの口にした言葉と――そして何より、耳まで赤く染めながら浴室を歩くノエルの姿を見れば、俺もルシエラも軽く首を捻った。


 目を凝らしてノエルの顔を見る……が、やはり眼球らしいものは既に亡いのだろう。

 目を開いて居ない、開く目すら亡い。

 何も見えている筈がないノエルは、しかし何故か、まるで俺達のことが――エルドラドの事が見えている、ようで。


 ノエルは顔を真っ赤に染めたまま、ゆっくりと湯船に浸かれば、そのまますすす、とエルドラドの隣にくっついた。

 ……よく考えればここまで来る時も迷わず真っ直ぐに部屋まで来ていたし、もしかしなくても、そうなのか。


「――もしかして、見えてるのか?」

「そ、の……は、い。ごめんなさい……」


 俺の問いにノエルは耳まで赤く染めながら、小さく頷きつつ謝って――いや、何を謝っているのか、良く判らないんだけども。

 それを聞いたルシエラは、ほうほう、と小さく頷きながら、にんまりと笑みを浮かべれば――


『ふむ、中々不思議な奴だの。ほれ』

「~~~~~~っ!?!?!?」

「ちょ――人の従者をからかうのは止めて頂きませんこと!?」


 ――ばるんっ、ぶるんっ。


 ルシエラが湯船から立ち上がって、その豊満すぎる程に大きな乳房をわざとらしく、ノエルに見せつけるように弾ませて見せれば、ノエルの顔は見る見る内に赤く、赤く染まって。

 エルドラドはノエルを軽く抱き寄せながらそんな言葉を口にすれば、ルシエラからノエルを庇うかのようにその身をもって隠してみせた。


 ……ルシエラの奇行はまあ、おいておいて。

 なるほどやはり、どうやらエルドラドにとってノエルという少年は何かしら、特別な存在らしい。

 奴隷たちに向ける物とは明確に違う態度。

 独占欲にも似たその行動は、とても解りやすく。


「もしかして、俺達を呼んだのはそいつが理由か?」

「……ん。まあ、それもありますわね」


 俺がそう口にすれば、エルドラドはハッとした様子で軽く咳払いすれば、ノエルを軽く抱き寄せたまま、小さく頷いてみせた。

 ノエルはと言えば、顔を真赤にしたまま今にも鼻血を出してしまいそうな状態で。


 ……ノエル自身の話とは言え、こいつは外で待機させといたほうが良いんじゃないかとか、思いつつ。

 エルドラドが顔を赤くしたままのノエルを膝の上に載せたのを見れば、ルシエラも一旦ノエル達をからかうのを止めて、湯船に腰を落ち着けた。


「――私を連れていきたいなら条件が一つ。ノエルも連れていきなさい」


 エルドラドの口にした条件は、大方予想通り。

 余程特別か、或いは好いているのか。

 エルドラドは言外に、ノエルを同行させないのであれば私も行かない、と宣言しているようで――


『ふむ、どうしたものかのう』

「……貴女には聞いていませんわ。私は、貴女の所有者に聞いていますの」

「ん……まあ、ダメとは言わねぇが」


 ――しかし、困った。

 エルドラドが同行するのは良い。エルドラドの実力があの時から変わっていなかったのだとしても、それでも戦力として数えるには十分だろう。


 だが、ノエルは違う。

 体つきはただの――いや、普通よりも貧相な、小柄な少年だ。

 どういう訳か、目が潰れているであろう今でも物を見ることは出来るらしいが、それだけではとてもじゃないが戦力として計上出来ない。


 正直、足手まといを増やすのは避けたいのだが。


 俺の表情に、そういうものがあるのを感じたのだろう。

 エルドラドは少しだけ難しそうな顔をしつつ――しかし、大きくため息を吐き出せば。


「……ノエル。貴方の力を見せて差し上げなさい」

「……ふ、ぇ?え、えっ?」

「あの小さい方の――を、――と――て……」

「え、えっ、え……っ、そ、そんな事したら……!!」

「大丈夫ですわ、貴方が必要という事を納得させるための儀式のようなものですもの」


「ん……?」

『ふ、む?』


 そんな、良く判らない言葉を、ノエルの耳元で口にして。

 するとノエルは、顔を真っ赤に染めたまま俺の方に視線を向ければ――


「……そ、の。103、です」

「ふむ、やはりノエルより大分小さいですわね」

「――……」


 ――何か。何処かで聞いた覚えの有る数字を、ノエルは口にした。

 いや待て、待て。

 きっと偶然だろう、そもそもノエルがそれを知っている筈が……


「続けなさい、ノエル。ふふ、当然他のも見えているのでしょう?」

「で、でも……やっぱり、失礼じゃ……あぅっ」

「いいからっ。貴方を連れていけるかの瀬戸際ですのよっ!?」

「う、うぅ……その……124、と。58、と。83、ですぅ……」


『……ほう。ほうほうほう、これは面白いのう』

「ちょ――ちょっと待て、待って――っ!?」


 ……偶然、では済まされない。

 済まされる訳がない。

 最近、俺自身が測ってガッツリ凹んでしまったこの数値を、ノエルが知っているなんて、そんな事がある理由ないのに――!?


 そんな、一気に顔を熱くしてしまった俺を見ながら。

 エルドラドは自分のことのように自慢気に笑みを浮かべつつ、ノエルの頭を軽く撫でて。


「ふふ、これでもノエルが足手まといかしら?124の立派なお胸のエルトリスさ・ま♥」

「~~~~~~……っ!!うるっ、うるさっ、うるさーい……!!!」


 そして、からかうようにはっきりと、そう言葉にされてしまえば。


 ノエルの何らかの能力を以てして、俺のその情報を見たという事実に――俺はただ裸を見られる以上の羞恥にかられつつ、言葉を取り繕うのも忘れて、甲高く声を上げてしまった。


 ああ、でもこれは断れない。

 以前にもエスメラルダがそうであったように、他人の情報を盗み見れてしまうという能力は、単純な暴力より余程厄介で――同時に、役に立つのだから。


「ほ、本当にごめんなさい……っ、その、体重は絶対に言いませんから――」

「馬鹿っ、ばかばかばか……っ、そういう事は、思っても言わないでいいのっ!忘れて、忘れなきゃダメなんだから……っ!!」


 ……取り敢えず。

 ノエルには今後一切、エルドラドの命令とは言えど俺の情報を見ないように、しっかり言っておかなくちゃ。

 体重とか、胸とか……お腹とか、お尻とか。

 そんなののサイズを言われるのは、見られるのは、とんでもなく恥ずかしいんだから……っ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ、応援お願いいたします。
― 新着の感想 ―
[一言] ノエルくんはステータスが読めるのか。 ノエルくんは連れて行くということは、あの奴隷二人は解放されるのかな... 姿は分からないけれども
[良い点] ああ~いい感じに女の子してますねぇ~ [一言] 胸の分体重も重そう( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ