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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第一章 少女と辺境都市
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14.少女、魔鳥と相見える

 北門での戦闘は、既に一時間を過ぎようとしていた。

 長時間に渡る戦闘で犠牲者が未だに出ていないのは、ひとえにギリアムの功績という他ない。

 指先一つで破壊を巻き起こす怪物を前にして、ギリアムは一歩も引くこと無く相手の注意を引き続け――結果として、黒鉄の一党は魔物に専念する事が出来ていたのだから。


「――ギリアムさんっ!!」

「おう、終わったか」


 時間を掛けたものの、ようやく魔物の一団を処理したのか。

 黒鉄の一党がギリアムの元へと駆けつければ、彼は少し安堵したように小さく息を漏らし、改めて目の前の魔族へと視線を向けた。


 配下の魔物が全て倒されたにも関わらず、魔族に焦りや焦燥、或いは怒りと言ったものはまるでない。

 寧ろ、この苦境をギリギリとは言え凌いだギリアム達に対して――些か分かりづらいが――笑みすら見せていた。


「素晴らしい、実に素晴らしい!我が楽団の()()()()とは言えど、それをこの少数でしのぎ切るとは!」

「……1割?」


 パチパチパチ、とその細く長い手で器用に拍手する魔族のその言葉に、ギリアムは眉を潜め。


 ――そして、何かに気付いたように顔を青褪めさせた。


「マクベインッ!!ここは良いから他の門に救援に行け!!」

「え、で、でも――」

「こっちは陽動だッ!本隊は別の場所から侵攻してくる!!」

「クカッ、クカカカカカッ!!正解、大正解!!嗚呼、しかし余りにも遅すぎる!!!」


 初めて絶望に近い表情を見せたギリアムに、魔族は心底愉しそうに笑いながら手にしたハープを奏で始める。

 その音色は、今までのように破壊を巻き起こす為の物ではなく、いわば号令。

 元より魔物達には、各門の防衛を終えたらその場で待機するように命じていたのだろう。


 ――全ては、この時の為に。


「さあ、街の中から奏でられる狂想曲(ラプソディ)を、思う存分楽しみなさい――!!」

「やめ、ろ……やめろぉぉぉっ!!!」


 魔族の奏でた音色が何なのかを察したギリアムは、必死の形相で駆け出した。

 まだ間に合う、まだこの魔族を殺しさえすれば――そう、それが無理であると悟りながらも突撃するしかなかった。


 ギィン、と鈍い金属音が鳴り響く。

 ギリアムの渾身の一撃は悲しいかな、魔族の持つ障壁の前では何一つ意味は無く。


「どうしました?ほら、もっと頑張りなさい」

「く、そ……くそおおぉぉぉっ!!!」


 ガキン、ギン、と大きな音を鳴らす事は出来ても、その刃は決して魔族に届くことはない。

 先程までの戦闘で既に、魔族はそれを確信していた。

 たとえ万全な状態であったとしても、この男程度の攻撃ならば――この程度の武器ならば、数時間受け続けたところで破られる事はないと。


 音色は鳴り止まず、必死になって駆け出した黒鉄の一党も街の防衛には到底間に合わない。

 防衛に行ったところで、先程の戦闘で疲弊した彼らでは楽団を止める事は叶わない。

 ああ、何と容易く楽しい任務かと、魔族は愉しげに笑い。


「……?」


 ギリアムの攻撃を軽く受け続けながら演奏をする最中、ふとした違和感に気がついた。

 街の方から、いつまで経っても悲鳴が聞こえてこない。

 それどころか、破壊の音さえも聞こえてこない。

 魔物達に号令が届いていないのか、と一瞬だけ考えるもそれを直ぐに魔族は否定した。

 音にこそ秀でている自負があるからこそ、それだけは絶対に有り得ないと。








「――……ッ!!!」


 だからだろう。

 彼方より飛来したそれに、辛うじて反応できたのは。

 ギリアムの攻撃を無視して、演奏を止めてまで背後に飛び退けば、そこに見るも悍ましい形の刃が振り下ろされる。

 大地を噛み砕きながら轟音を上げるソレは、魔族にも見覚えが有った。


 以前、戯れに人間に音色を聞かせて強化していた時。

 その中でも特に秀でていた個体を、容赦なく屠ったあの光景。


「へぇ……いい反応してるじゃあないか」

「お褒めに預かり恐悦至極……ワタシの楽団を潰してくれたのは、貴方ですか」


 だからこそ、魔族は即座に理解した。

 何故いつまで経っても街から悲鳴が聞こえないのか。

 どうして、破壊の音さえしないのか。


 答えは考えるまでもない。

 既に、号令を聞くモノが()()()()()からだ。


「ああ、アイツらか。結構悪くなかったぜ、もう居ないのか?」

『噛みごたえもあって、最近では一番のごちそうだったからの。もう少し欲しいんじゃが』

「……ク、カ」


 目の前の幼子と、その手にしている禍々しい武器。

 それを前にして、魔族は笑いながら――初めて、戦意らしきものを見せた。








「エル、トリス……か?」

「……ったく」


 さっきまで鳥頭の奴とやりあっていたギリアムを見ながら、ルシエラを担ぎ上げる。

 魔物達との戦いも結構楽しかったが、数をこなすとやっぱり慣れてきてしまうもので、東から南、西と回っていく内に大分楽に――楽しめなくなってきてしまった。

 強いことは強いのだが、なんと言えば良いのだろうか……こう、引き出しが少ないというか。

 基本的にワンパターンだから、慣れてしまうと簡単に倒せるようになってしまうのだ。なりたくもないのに。


「こんな愉しそうな奴とやりあってるとか、ズルいぜオッサン」

「――はは、は。すまんな、俺の采配ミスだ」


 そんな魔物達とは明らかに格が違うコイツとやり合ってたギリアムにそう言うと、ギリアムは軽く笑いながらその場にへたり込んだ。

 見れば、全身傷だらけ。

 骨も折れてるだろうし、下手すれば内蔵もやられてそうだ。


 ……そんな苦戦を出来る相手と戦ってたなんて、本当に羨ましい。いや、ズルい。


「雑魚散らしはやってやったんだ、コイツは貰うぜ」

「ああ……そりゃあ、仕方ないな」


 まあ、ここからは選手交代。

 あの中じゃ一番強かっただろうギリアムがこのザマなんだし、俺が取ってもケチつける奴なんざいないだろう。


「――ク、カカ。ワタシの楽団を雑魚扱い、ですか」

「悪くはなかったがな。もうちょい攻めに幅を持たせようぜ?」

「ワタシの指揮下ならそれも出来たでしょうが……いえ、言い訳にしかなりませんね」


 ギリアムから意識を外し、鳥頭を見る。

 恐らくはコイツが魔族だろう。知性といい雰囲気といい、そして何よりギリアムがここまでやられている事といい、間違いない。


 鳥頭の魔族はどこか愉しげに笑いながら、ポロン、と手に持ったハープを奏でた。


「……全く。全く、全く。ワタシの楽団をこんな子供(ガキ)に潰されるとは、判らないものです」


 ――背筋に冷たいものを感じ、跳ぶ。

 それと同時に俺の居た場所が、地面が砕けて――ああ、なるほど。


()か。変わった攻撃しやがるなテメェ」

「クカカッ!!解ったところで対応など出来ませんよ!?」


 続けてハープを激しく奏でながら、鳥頭の魔族は俺から距離を取り始めた。

 不可視の音撃による遠距離攻撃。

 ギリアムが一方的にやられてる訳だ、こりゃあ確かに判らなかったら対処のしようがない。


 ――まあ、飽くまでも判らなかったら、の話だが。


「ルシエラ」

『ふむ、音か。喰ろうた事はないが――』


 剣らしき形をとっていたルシエラが、パキン、と音を鳴らしながら姿を変える。

 牙の付いた円盤は繋がりながらも離れ、まるで鞭のように伸びていって――そのまま、ギュルンと周囲を軽く薙ぎ払い――それと同時に、音撃が俺に到達する前に爆ぜていった。


「な……っ!?」

『うぇ、齧った瞬間炸裂しよった』

「味は?」

『水みたいな感じだのう、味もなにも無いわ』


 空中なら避けられないとでも思っていたのだろう、当たる前に炸裂してしまった音に鳥頭の魔族はあんぐりと口を開けて。

 少し文句を口にしていたルシエラに苦笑しつつも、鞭状になっていたルシエラを俺はそのまま思い切り、呆然としていた魔族に向けて振り下ろした。


「グ、ガ――ッ」

『ぬ……これ、はっ!?』


 振り下ろした鞭が、それに伴った円盤が直撃し、魔族の身体を食いちぎる――筈だった。

 だが、火花は散れど相手の体にルシエラが到達しない。

 丁度手前に見えない何かが有るように遮られ、触れる寸前で円盤が、牙が空転している――これが障壁か!


「――カアアァァァァッ!!!」

「ち、ぃ……っ!!」


 鞭状にしたのが仇になったか……障壁に止められたルシエラを戻す暇が無い。

 再び放たれた音撃は、今度こそ何にも遮られる事なく直撃し――俺の体で、爆ぜた。

 空中で弾き飛ばされるようにされつつも、ぐるんと身体を捻れば地面に叩きつけられる前に体勢を整え、ルシエラを元の形に戻す。


「ご、ぽっ」


 ――それと同時に、口から赤黒い液体が零れ落ちた。


 元が脆弱な身体とは言え、ルシエラの力で補強されている状態でダメージを通された。

 楽しい。嬉しい誤算だ。


「……はは、良いねぇ。魔族ってのはみんなこうなのか?」

「そこらの魔族と一緒にしてもらっては困りますねぇ……ワタシは六魔将直属の配下が一人、語り部(テラー)のファルパス。人如きでは決して届き得ぬ存在と知りなさい……!」


 魔将。また判らない単語が出てきたが――つまりは、こいつよりもっと上が居るって事か。

 しかもその上には恐らく、今魔王を名乗っているであろう奴も居るわけで――……


「はっ、ははっ。きゃはっ、きゃははははははっ」

「――絶望のあまり、気でも狂いましたか?」


 ……笑いが止まらない。

 最高じゃないか、こんなにも沢山の楽しみがあるなんて!!

 ファルパスの言葉も気にならないくらい、気分が高揚する。喜びを抑えられない!


「ああ……たのしい、たのしいっ!もっと、もっとたのしみましょう……ね?」


 口から出る言葉も変わっていくのを感じつつも、もう抑えるのも面倒だ。

 今は、この喜びに浸っていなくちゃ勿体ない。


 さあ、もっともっと楽しもう、ファルパス――ッ!!


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