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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第七章 少女たちの安息日
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6.公国での日々①

「――それは、何というか。大変だったな」


 色々と済ませた後。

 宿の前で集合した俺達は、のんびりと公国の中を歩いて回る事にした。

 元より、アルケミラとの待ち合わせ以後の予定は決まっていなかったのと、アリスからの強い要望があったのもあって――ついでに言うのであれば、俺達も久方ぶりにのんびりしたかったのもあって、満場一致でのんびりと過ごす事に決まった、のだが。


「あー……お前らの方はどうだったんだ?」

「……私達の方は、まあ」

「余り聞かないで欲しいわ……」


 ……俺がそうであったように、どうやらリリエル達も相当大変だったらしく。

 その表情にはありありと疲労の色が表れていて――そんな俺達を尻目に、アルケミラとアリスは平然と、特に疲れた様子もなく涼しい表情を見せていた。


「初日からそれでは先が思いやられますね、エルトリス。肉体的な疲労は無いはずですが」

『あんな体験させられて、疲れるなと言う方が酷じゃろうが――何より、朝からアレだったからのう』

「……アレについては、反省しています」

「う、うるさいなぁっ!もうそれは話題にするの禁止――ッ!!」


 再び話題に上げられそうになった……この身体になってからも、早々した事はない粗相の事を口にされてしまえば、俺は顔を熱くしながら声を荒げる。

 リリエル達は何処か不思議そうな顔をしていたけれど、空気で察してくれたのか。

 アレ、という言葉については特に問いただしたりするような事はなく。


「アルケミラちゃんは、結構ギリギリな事するものねー。エルちゃん、無理だと思ったらすぐに言ってね?」

「ん……いや、まあ。アルケミラとの……何というか、アレはそんなに悪くは無かったよ」

「……ひょっとして、エルトリスってマゾヒストか何かだったりする?」

「馬鹿にしてんのかお前、んな訳あるか」


 アリスからの言葉に軽く返しながら。

 ちょっと引いたような顔をするクラリッサに眉を潜めつつ、小さく息を吐き出した。


 ……そうか、よく考えたらクラリッサはアルケミラの配下な訳だし。

 昨晩俺がやらされた……もとい、やったような事も多分経験がある、のか。


『まあキツい方が燃える、という意味ではエルちゃんはマゾヒストかもしれんのう』

「ば……っ、変なこと言うな、もうっ」

「ふふ、反骨心が有るのは良い事ですよ」


 ルシエラに軽くからかわれれば、俺は顔を熱くしつつも。

 そんな俺達を見ながら、アルケミラはどこか微笑ましげに口元を緩めつつ――ふと、何かに気付いたように立ち止まって。


「どうかなさいましたか、アルケミラ様?」

「ああ、いえ。クラリッサ」


 自分の配下からの言葉にくるりと振り返れば、軽く小首を傾げながら――


「……ところで私達は何処へ向かっているのでしょうか?」


 ――青い髪を揺らしつつ。

 何とも、ちょっと間の抜けた用な言葉を口にした。








「――若干気が緩んでいたようです」

「もー、アルケミラちゃんったらはしゃいじゃって可愛いんだから♥」

『……お前もアルケミラの事は言えんからな、アリス』


 特に目的地も無くしばらく歩いた後。

 丁度腰を落ち着けるには丁度いい場所を見つけた俺達は、ベンチに軽く腰掛けながら、出店で買った飲み物に口を付けて、休憩する事にした。

 リリエルとアミラ――それにクラリッサは、この後どこを巡るのかを相談するかのように頭を突き合わせながら。

 俺もルシエラも、アリスも、そしてアルケミラも、それを三人に任せるようにしながら甘い飲み物を口にして、小さく息を漏らし。


「に、しても」

「ん……どうかしましたか、エルトリス?」

「あー、いや、何だ」


 アルケミラの方に視線を向ければ、ふと湧いた疑問につい言葉を漏らしてしまった。


 以前、クラリッサの口から聞いた言葉を思い返す。

 有能な存在に対して友好的だという、アルケミラとその配下達。


 成程確かに、アルケミラは俺達に対して実に友好的と言えるだろう。

 その友好的な態度に裏がないとは思えないが、それでも――少なくとも、俺達に対して害を為すといった様子はまるで無く。


 そして、その実力は言わずもがな。

 本体と比較して、一割にすら届かないほどに抑え込まれた力であっても、条件さえ整ったのならば俺を文字通り掌の上で転がし、圧倒してみせた。

 本体であったのならば、アレ以上の力の差があるのだと思うと、恐ろしくも有り、出会ってみたくもある。


 ……ただ、だとすると。

 今日、そして昨日のアルケミラを見た限り、アルケミラはどうにもこの国に対して悪感情を抱いているようには見えず――


「……お前の言う、有能な存在ってのはどういう奴なんだ?」

「――ふむ。それは、私の配下になるという意思表示でしょうか?」

『戯け。ただの疑問じゃろうが』

「ふふ、冗談です」


 ――俺の問いに、アルケミラは冗談交じりに返しつつ、笑えば。

 そうですね、と小さくつぶやいてから、少し考え込むようにして。


「そうですね、端的に言うのであれば優れた技能、そして精神性や将来性を持つ存在、でしょうか」

「精神性、将来性?」

「むー、アルケミラちゃんって直ぐ小難しい事言うんだから……」

『ええい、端的というのであればもっと解りやすく言わんか』

「……解りやすく、ですか」


 アリス達の反応に少し困ったようにしつつも、再び考え込むようにすれば。

 ふと、目の前を通り過ぎていった――この国に住んでいるのだろう、何でもない子供に視線を向けた。


「例え今優れていないのだとしても、将来その可能性がある者。そして苦難に立ち向かい、克服する精神を持つ者……ですかね」


 ……アルケミラが口にした言葉に、ああ、と、思わず納得してしまった。

 クラリッサが言っていた有能な存在、というのはアルケミラが好んでいる相手の極一部に過ぎなかったのだろう。


 つまるところ、まだ未成熟で伸びしろの有る存在もまた、アルケミラは好んでいるのだ。

 今は弱くとも、何れは強くなるかもしれない――そんな、不確定な何か。

 だとするのなら、アルケミラの配下であるクラリッサが、アルルーナと戦闘した――つまりは対立していたという理由もよく分かる。

 アルルーナはアルケミラとは対極。

 未成熟で伸びしろの有る存在など、アルルーナにとってはきっと玩具か養分でしか無いのだから、反りが合う筈もない。


 それは、多分――文明を滅ぼすというアバドンに対しても、きっと同じ事なのだろう。

 もしそうなったのならば、真っ先に死滅するのはそういった未成熟な存在なのだから、アルケミラからしてみればたまった物ではないだろうから。


『――つまりはロリコン、ショタコン、ペドフィリアという訳じゃな』

「ぶふ――っ!?」


 ――そんな風に納得した俺の隣で、ルシエラがからかうようにそんな言葉を口にして、俺は思わず飲んでいた飲み物を噴き出してしまった。


「あらら、エルちゃん大丈夫?ほら、ふきふきしてあげるね♥」

「ん、む……っ、ルシエラ、急に変な事言うなっ、もう」

『ふふん、でも事実じゃろうが。否定はできまい?』


 くっくっく、と意地の悪い笑みを浮かべながらアルケミラの表情を見るルシエラ。

 恐らく、昨晩のことをまだ若干恨んでいるんだろう。

 訓練、特訓のようなものとは言えど、最後は俺と一緒に潰されたわけだし――結構プライドの高いルシエラからしてみれば、結構ショックだったのかもしれない。


「――そうですね、否定はしませんよ」


 ――だが、アルケミラはそんなルシエラのからかうような言葉を、挑発を、サラッと笑顔で受け流してみせた。

 大人の余裕、というのだろうか。

 まるでルシエラの言葉など、悪ガキの戯言だとでも言わんばかりの涼しい顔で――いや、寧ろ何だろう、微笑ましいとでも言うかのような表情すら浮かべていて。


『ぬ……っ、な、何じゃその顔は!良いのか、ロリコン六魔将とか呼んでしまうぞ!?』

「子供のような未来に溢れた存在が好きな事は否定出来ませんし――ああ、ですがロリコンだと偏りがありますね、それは否定します」

『ぬ、が――っ!?』


「あはは、ルシエラちゃんじゃアルケミラちゃんを怒らせるのは無理だよ」

「……?」


 からかっていた筈のルシエラが狼狽する、そんな光景を横目に見ながら、アリスは飲み物を口にしつつ可笑しそうに笑う。

 そんなアリスに、俺が首をひねれば――


「――だって。私やアルケミラちゃんからしたら、エルちゃんもルシエラちゃんも、皆子供みたいなものだもの♥」


 ――それで潰しちゃう事も有るけどね、なんて、いつものように幼い声色で。

 しかし、まるで母親が子供にでも話しかけるかのような雰囲気で、そんな言葉を口にした。


 結局、ルシエラはアルケミラの平然とした態度を最後まで崩すことは出来ないまま。

 憮然とした様子で、じゅるるるる、と音を鳴らしながら飲み物を子供のように吸っていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こうあしらわれるルシエラも珍しい
[一言] やっと安息日らしい一日。 アリスちゃんがお出かけしてるあいだ、あのお花畑世界はどうなっているのだろう... あれはアリスちゃんの内側なのだっけ...?
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