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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第一章 少女と辺境都市
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12.冒険者、楽団と遭遇する

「……流石におかしいな。何かあったか」


 定時報告の時間でも決めていたんだろう、ギリアムがいつまで経っても連絡が来ない事に眉を潜めれば、椅子から立ち上がった。

 まあ、何が有ったのかなんて考えるまでもないだろう。

 ヘマを打って殺されたか、或いは寝返ったか――いや、聞いた感じだと寝返りを受け入れるような手合でも無いだろうし、前者か。


 他の連中もそれを口には出さずとも悟ったんだろう、武具や荷物を手にすればギリアムに向き直る。


「俺と黒鉄の一党は北門に行く。エルトリス達は東を頼むぞ」

「ああ、終わったら適当に手伝ってやるよ」

「頼む。ああ、俺たちの所は後回しで良いからな。他は――」


 俺たちだけ一グループで一箇所を任された事に少しだけ驚きつつも、軽く返してから俺たちは部屋を後にした。

 既に行く場所が決まったのだし、これ以上ここに居ても仕方がないだろう。

 ギルドの二階から降りればまた奇異の視線が向けられたけれど、もう気にならない。


『――逸るな逸るな、どうどう、どうどう』

「俺は馬か。いいからさっさと東門に行くぞ」

「こちらから行きましょう、近道です」


 魔物、魔族。

 今までに相対したこともない強者。

 それとこれからやり合えるっていうんだから、そんな瑣末事なんてどうでもよかった。

 図星を突かれてちょっと顔を熱くしつつも、リリエルの案内に従って東門へと走る。

 腕を軽く握れば、ルシエラは仕方ないのう、と苦笑しながらも魔剣へと姿を変えて。

リリエルが少し遅いのをちょっとだけもどかしく思いつつも、俺は口元のにやけを抑える事も出来ずに街中を駆け抜けた。








「な、何だ君たちは!?」

「うるせぇ、死にたく無かったら門の内側にでも下がってろ」

「何だと、この――」

「――ギルド長、ギリアム様からの依頼です。危険ですので、門を閉じて内側で待機していて下さい」

「ギリアムさんの?わ、解った」


 俺の言葉に眉をひそめながら掴みかかろうとした門番をリリエルが軽く制すれば、ギリアムの名を聞いた門番は慌てた様子で中に戻り、門を閉める。

 ……なんか釈然としない。

 ギリアムは確かに強いが、強さで言うなら多分だけど今の俺の方が上の筈だ。


「そういうものですよ、エルトリス様」

「……そんなもんか」


 俺の表情から何を考えてるのか察したのか、リリエルは無表情ながらも少しだけおかしそうにそう言って。

 まあ、コイツがそういうならそういうものなんだろう、と思いつつ視線を街道の方へと向けた。


 まだ、魔物らしいものも魔族らしいものも姿は見えない。

 よく考えたら直ぐに来るとも限らないし、幾ら楽しみだからってちょっと焦りすぎてたのかもしれないな、うん。


『まるで新しい玩具を手に入れた子供のようで可愛かったぞ、エルちゃん♪』

「~~~~……っ、う、うるさいなぁっ」


 ……もしかして、ギルドからずっと俺はそんな顔をしてたんだろうか。

 そう思うと、ちょっと……というか大分恥ずかしい。


「大丈夫です、可愛らしくはあれど変ではありませんでした」

「うぅ……き、気をつけないと……」


 リリエルにそんな事無いよな?と救いを求めたものの、返ってきたのはトドメの言葉。

 ここ最近はそういうのを上手いこと抑えられてたのに、久々に楽しそうな事になってきたからつい緩んでしまった。

 自分でも解ってしまうくらいに顔を赤く染めながら、俺は軽く深呼吸をするとまだ姿の見えない魔物達を――……








 ……ずしん、と。

 取り敢えず少し気持ちを落ち着けようとした瞬間、僅かに足元が揺れるのを感じて、視線を街道の先に向ける。

 見れば、街道の奥。森の中に明らかな異変が有った。


「これは……」

『ほー、これは中々大物そうじゃのう』


 奥の木々が、メキメキと音を立てながらなぎ倒されていく。

 土煙が上がり、ずしん、ずしん、と徐々に地響きのような音と振動が大きくなっていく。


 そして、手前の木々がなぎ倒されれば――それは、姿を表した。


 あえて形容するのであれば、牛だろうか?

 黒く光る鎧を纏った四足の巨躯は、背中に人型の何かを載せながら街道を、森を蹂躙するようにこちらに向かってくる。

 その動きは鈍重ではあるが、実に力強い。


「……いいじゃあねぇか、実にいい」


 ルシエラを握る手に力が籠もる。

 リリエルも既に戦う準備は出来たのだろう、軽く身構えていて。


 それを嬉しく思いながら、俺は全力で、思い切り大地を蹴った。

 ルシエラで強化された脚力は容易く地面を踏み砕きつつ、まるで爆ぜるように前方の魔物達の元へと俺を運んでくれる。


「GuRuAaaaaa――!!!」


 良い、実に良い。

 そんな俺の挙動に全く驚くことさえ無く、魔物達は突っ込んできた俺に殺意を向けてきた。

 そして、そのまま太く鋭利な赤黒い角を俺のほうへと突き出して……同時に、騎乗していた魔物は手に持った武器を俺の方へと振りかざし。


「――きゃはっ、あははははっ!!」

「BuRooooo!!!」


 口から出た声さえも気にならない。

 ルシエラも余程機嫌が良いのか、その鋭く生え揃った牙をけたたましく鳴らしていて――俺は角をぐるんと身体を捻って避けながら、それを思い切り四足の魔物へと叩きつけた。

 激しい音とともに、火花が散る。

 それだけでも驚きだ、魔物の装甲は僅かにでもルシエラの刃に抵抗しているらしい。


 だが、それもほんの一瞬だけ。

 砕け散るような音が鳴り響けば、ルシエラは魔物の体に食い込んで――……


「BuRuOooo……ッ!?!?」

「あっはははっ!たのしい、たのしい――っ!」


 ……そして、生き物ならばまずありえないであろう、青黒い色の血を勢いよく噴き上げた。

 返り血を軽く浴びつつも、魔物がもんどり打って地面に倒れ込むのに巻き込まれないように軽く跳ぶ。

 見れば、森の奥からは続々と魔物達がやってきていて。


「氷結晶の槍!」

「GuAOoooooッ!!!」


 ――倒れ込み、傷ついた魔物にリリエルがトドメを刺しているのを尻目に、俺は魔物達の群れの方へと飛び込んだ。

 さあ、もっと、もっと――もっともっともっともっともっと、楽しもう。

 願わくば、どうか魔族とやらもこちらに来ていますように――……








「――北門に俺が来ておいて正解だったな」


エルトリス達が魔物に狂喜している頃。

他の門に向かっていた冒険者たちも魔物に遭遇し交戦を始めていたのだが、北門は若干様相が違っていた。


 武装した魔物が居るのは同じ。

 西門と南門では苦戦しつつも連携を取り、ギリギリの所で対抗していたが、北門は既に魔物の死体が何体か転がっていて。

 それは黒鉄の一党のマクベイン達の力も勿論あったが、ギリアムの力が特に大きかった。

 

 ギルド長を任されているだけのことは有り、ギリアムは現役を退いているとは言えどその実力は非常に高い。

 現役で活動しているマクベイン達のような徒党を相手にしても真っ向勝負で打ち勝つ程の実力を有しており、冒険者として活動していた頃はその名を知らない者は居ない程だった。


 俗称、紅い旋風。

 ギリアムは両手に持った斧を風の如く振るうことで、多くの賞金首から魔物までを屠り、その徒党よりもギリアム個人のほうが有名となってしまった程の実力者で――そのギリアムが今、目の前に居る存在に対して全力で警戒を向けていた。


「おお、聴衆がこれだけとは嘆かわしい。ですが……ええ、貴方は中々悪くないですね」

「そいつはどうも。でも俺は楽団を呼んだ覚えなんざないんでな、さっさと帰ってくれると助かるんだが」

「それはいけませんね。折角ワタシがこんな田舎まで来たのですから、是非聞いて頂かなくては――」


 ――鳥のような頭部をした吟遊詩人風の男。

 今までギリアムが相対した中でも、最も危険だと肌で感じさせる存在、魔族。

 ギリアムとて、魔族と相対したのはこれが始めてという訳ではない。

 だが、そのギリアムをしても尚、目の前の魔族はそれらとは明らかに格が違っていた。


「……ギリアムさん、俺たちが時間を稼ぎます。その間に増援を呼んで下さい」

「ホウ!増援、増援ですか!良いですね、聴衆が増えるのは実に喜ばしい!!」


 だが、マクベインはそれを理解できていなかった。

 無理もない話だ、冒険者としてそれなりに経験を積んでるとは言えど、マクベインが対峙した魔族はこれまでに一人だけ。

 その相手でさえ、マクベイン達はもっと大人数で、かつ凄まじい時間をかけてようやく撃退しただけだというのに。


 ……それが、魔族の中でも落ちこぼれ。

 功を焦っただけの落伍者だなんて、誰が想像できるだろうか?


「マクベイン、お前達は絶対に手を出すな。俺が殺されかけてても、絶対にだ」

「で、でも」

「残った魔物の相手を頼む」


 いつもとはまるで違う、真剣で――しかし余裕を感じさせないギリアムの言葉に、マクベインは頷きながら残り半数程度に減った魔物達へと向き直った。

 吟遊詩人風の魔族はそれを見ながら、とても、とても愉しそうに笑う。


「いや、良い判断ですね。実に良い、人にしておくのが惜しいくらいだ」

「嬉しくもねぇ褒め言葉をありがとうよ」

「……ですが。ワタシをたった一人で相手にする、なんて無茶は少々宜しくない。美しくない」


 そう言うと、魔族はその細長い指を一本、ギリアムに見せつけるように立てて。


「ですので、ワタシはこの指一つで貴方のお相手を致しましょう。何、指一本で奏でる曲も中々にオツなものですよ――」




 ――北門に、空気を震わせるような音色が響き渡った。

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