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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第六章 妖花に沈む大国
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27.散華、そして――

「一つだけ、お願いがあるの」


「どうか、彼だけは綺麗に、埋葬してあげて」


「私は、このまま朽ちて、良いから」








 朽ちていく。

 半ば人の形を失う程に抉れ、削れ、潰れたアルーナの身体が、まるで枯れるように褐色に染まっていく。


 それは、俺がたった今砕いたアルーナの身体だけではなかった。

 足場にしていた巨大な白い華も見る見る内に色褪せて、萎れて――同時に、ぐらり、と大きく地面が揺らいだ。


「――っと、と」

『む、これは――乗れ、エルトリス。崩れるぞ』


 ルシエラの言葉に小さく頷きつつ、足元に転がっているそれを見る。

 ……既に、アルーナに息はなく。

 その身体は、食い千切られた所から枯れ落ちて……医術とかの心得がない俺でも、既に死んでいるという事が理解できた。


『ぬ……どうした?』

「ん、いや……まあ、な」


 そんな、アルーナの死体は胸元のエクスを守るように抱いており。

 無論、エクスはエクスでとっくの昔に死んでいる訳だが――最後の、あの一瞬。

 俺の拳を受け止めようと突き出したその腕は、アルーナの物にはどうしても見えなかった。

 ルシエラの援護が後一瞬遅れていたのならば、今頃俺の頭は形を留めては居なかっただろう。


 アルーナもエクスも、この国を滅ぼした張本人には違いない。

 違いない、が――その在り方自体は、俺にとっては好ましいものだった、ような気がする。

 少なくとも、コイツらが悪いことをしたからコイツらが嫌いだ、なんてバカバカしい事を言う気にはなれず。


『……ふむ。私のおやつかの?』

「バーカ。一応、墓くらいは作ってもいいだろってな」


 ルシエラの冗談交じり――だと思いたいその言葉に苦笑しながら、アルーナ達の遺骸を抱えれば。

 俺はひょい、と崩れていく花びらの上からルシエラの円盤の上に飛び移って、小さく息を吐いた。


 ――ああ、崩れていく。

 一応は街の体裁を保っていたはずの廃墟も、アルーナの巨体に破壊された城も。

 そして、それを為したアルーナ自身も。


 かつてはランパードと呼ばれる大国であった、その名残が消えていく。

 その光景は有る種壮観で、俺はただその光景を見下ろしながら――ふと、そう言えばあいつらは大丈夫だろうか、なんて心配になってしまった。


 いや、大丈夫なはずだ。

 幾らなんだって、崩落に巻き込まれて……だとか、そんな間の抜けた事はしないはずだ……多分、きっと、恐らくは。


「――エルトリスちゃーん!」


 そんな不安をかき消すように、空の上。

 ルシエラに乗ったまま、ゆっくりと降りていく俺の方へと声をかける、大きな声が聞こえてきた。

 視線を向ければ、そこに居たのは翼を羽撃かせながらこちらに向かってくる、大きな影。


 エスメラルダを両足で抱えるようにしながら、クラリッサはどこか安堵したような顔を見せつつ。

 エスメラルダもエスメラルダで、泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔をしながら、俺の方へと飛んできて――


「――わ、ぶっ!?」

「良かった、良かったよう……っ!エルトリスちゃんが無事で、本当に良かった……!!」

「んむ……っ!?ふ、ううぅぅ……っ!!」

『この大女……っ!これ、エルトリスから離れんか!苦しそうにしておるじゃろうが!?』


 ――そのまま、俺に思い切り抱きついてきた。

 頭を、身体を柔らかいもので包まれるような感触を覚えつつ、その暖かさにどこか懐かしさを覚えながら。


 エスメラルダの声と、ルシエラの声を聞いて少し安心しつつも、俺は何とかその柔らかな塊から顔を出せば、軽く息を吐いて。


「ぷ……はぁ、ぁ……おい、リリエル達は?」

「あの子達なら無事よ、ほら」


 俺の言葉に、クラリッサはそう言いながら、視線を眼下の方へと向けていく。

 抱きすくめられて動けない俺に気付いたのか、エスメラルダはちょっぴり恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、軽く抱くように体勢を直し。

 そうして、ようやっと地上の方へと視線が向けられるようになれば――アルーナが崩れ落ちたことで、土煙が立ち込める中。

 既に原型など留めていない街並みの中に、小さな影がぽつりぽつりとあるのが見えて。


 その中の3つ程が、俺達に向けて手を振っているのを見れば。

 俺は、心の底から安堵するように、大きく息を吐き出した。


「――流石ね、本当に。分体とは言えど、アルルーナと戦って……色々なイレギュラーが有ったのに、この程度で済んだのは奇跡としか言いようが無いわ」

「この程度って……こんな有様なんですけど……」

「国一つで済んだのなら良い方よ。最悪、人の住める場所なんて無くなっても可笑しくなかったのだから」


 エスメラルダの言葉に、クラリッサはそんな事を当然のように口にしながら、ゆっくり、ゆっくり地上へと滑空していく。

 ……まあ、実際そうなのだろう。

 アルーナが仮に俺を倒したのだとすれば、次にすることは世界中に自分を拡散することで。

 もしそうなっていたのなら――多くの人間は為す術さえなく、アルーナの養分にされていたに違いない。


「……でもそれなら、これでエルトリスちゃんは立派な英傑だね」

「んぁ?」

「だってほら。クロスロウドもだけど、それ以外の国も守ったって事だもの」

「あー……」

『そう言えば、そうなるのかのう……ええい、いい加減離れんかっ。私のエルトリスじゃぞ!』

「ちょ――ちょっと暴れないで!でっかいの抱えてるだけでもバランスが――こ、こら、人型になるんじゃ――!?」


 ――立派な英傑。

 考えたことも無かったけれど、エスメラルダやアルカンがそうであるように、これで俺もそう数えられるようになってしまった、のだろうか。

 三英傑というのだから、あと一人、そんな可哀想で面倒な地位についてしまった奴が居るんだろうけれど、それは置いといて。


 正直言って、俺はただ面倒だ、としか思えなかった。

 今回だって、俺はただ気に入った連中と一緒に戦ってただけだってのに、それを変に祀り上げられたって嬉しくも何とも無い。


「……まあ、面倒な事は後で良いか……ん、むっ!?」

『私のだと言っておろうが!ええい、私によこさんか!』

「幾らルシエラさんでも駄目ですっ。私は久しぶりなんですから――!!」


 ちょっぴり面倒くさい事になりそうだな、なんて考えつつも。

 そんな思考も、柔らかな感触に全身を覆われるようにされてしまえば、途切れてしまって。


 エスメラルダと、勝手に人型に戻ったルシエラに挟まれるように抱き潰されながら――俺は、早く地上に着いて欲しい、なんて。

 甘い香りと暖かな感触に、顔を熱く、熱く――それこそ、アルーナの花粉にやられた時よりも熱くしながら……


「――ああもう、大人しくしてないと地面に叩き落とすわよ――!?」


 ……三人のやかましい声を聞いて、ちょっとだけ口元を緩めつつ、考えてしまうのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっと一息つけそうですね。 勇ましいエルちゃんもいいけど、ゆるふわなエルちゃんも見たい
[一言] 埋めたところから二人の子供が生えてきたりしないよね(゜ω゜)?
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