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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第六章 妖花に沈む大国
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21.咲き誇る大輪①

 ――突然、激しい振動とともに通路が崩落する。

 一瞬見えたのは、何か木の幹のようなものが壁を……城そのものを蹂躙するかのような光景。

 私達は崩落に巻き込まれないように立ち止まり、そして崩落した天井から見えたモノに、言葉を失った。


 階上、恐らくはアルルーナが居るであろうその部分が、まるで大きな爆発でも有ったかのように消し飛んでいる。

 玉座の間から大広間まで、巨大ななにかに削り飛ばされたかのように崩れ去っているのを見れば、私達は息を呑みながらも走った。


 恐らく、これはアルルーナとエルトリス様達の闘いの余波。

 城全体が揺れて、崩れていく中、私達は崩れた瓦礫を駆け上がり。


「……これ、は」


 そして、視界に映った物を見れば。

 それが一体何なのか判らず、固まってしまった。


 そこに居たのは、決して軽くない怪我を負いながら、壁に寄りかかっているエスメラルダ様と……そして、かつては玉座の間であったであろうその場所の、中央で蹲っている何か。

 蹲っているソレは、背中から人以上の大きさの白い、白い華を咲かせており。


 それが、一体何を示しているのか。

 私はおろか、アルルーナを知っているであろうクラリッサさんでさえ、判らないようだった。


「リリエル……さ、ん……っ」

「エスメラルダ様!エルトリス様は……っ」


 エスメラルダ様の言葉に止まっていた思考が戻る。

 私の言葉に、エスメラルダ様は僅かに視線を伏せながらも、血に塗れた身体を動かして。


「……はや、く……早く、アルーナに、攻撃を――」


 そう、言葉にした途端。

 アルーナ、という名前に疑問を挟む間もなく、城が大きく揺れた。


「……何だ、これは……っ!?」

「解らない、でも……掴まりなさい、不味いわ!!」

「だ……ダメ、早く、アルーナを――!」


 辛うじて形を保っていた城が、端から崩落していく。

 まるで、何かが下からせり上がっているかのように、足場が盛り上がって崩れていく。


 エスメラルダ様の言葉通りに攻撃を仕掛けようとはしたものの、崩れていく足場の中ではそれも叶わず、私達はクラリッサさんに掴まるように――まだ動けないエスメラルダさんは、その鉤爪に鷲掴みにされて――空へと、舞い上がった。


 眼下に広がるのは、次々に崩れ去っていく城の姿。

 ……そして、崩れたその隙間から見える、緑色の巨大な蔓、或いは蔦。

 階下で待機していた兵士達は、それから逃れるように城から散り散りに逃げていくけれど、その巨大な植物は街の各所にも現れて、いて――


「――これ、は」


 ――城の、先程アルルーナ……否、アルーナが蹲っていたであろう場所を中心に、崩落は続いていく。

 張り出した緑色の蔦は、まるで幹のようになっていきながら城を飲み込み、町に根を張り出して。

 そして、先程は人よりも大きい程度だった大きな白い華は、その姿を大きく、巨きく変えていった。


 最早、人なんて比較にさえならない程の大きさ。

 城の大きさにまで成長した植物の、その大きさに見合うほどの大輪の華へと変容すれば、そこでようやく地鳴りのような振動は収まって。


「……っ、不味いわ、これは……っ!」


 一旦は静けさを取り戻した、かつてはランパードであった国を見下ろしつつ。

 この現象が一体何なのかを知っているのか、クラリッサさんは顔を青褪めさせながら、ゆっくりと地上へと降りていった。


 地面に降りれば、一応は街の形を保っていた市街地が、見るも無惨な瓦礫の山に変わっている事に眉を顰めつつも。

 地上から見れば、最早見上げた所で全容さえ見えないような、巨大な植物に視線を向けつつ、クラリッサさんは軽く唇を噛んで。


「一体何が起きているんだ、クラリッサ?」

「……何が起きてる、っていうなら最悪よ。このままだと、取り返しがつかなくなる」


 アミラ様の言葉に、クラリッサさんは苛立たしそうにそう言葉にすれば、どうすれば良いのかを考えるかのように、指先を軽く噛み締めた。


 最悪。

 その言葉が意味する事が何なのか、考えるまでもない。

 敗北……全滅は当然として、今までのアルルーナの所業を考えるのであれば、きっとそれだけでは済まないのだろう。


「何が、起こるんですか?」

「……あの姿は、アルルーナが繁殖する時の姿に酷似してるの。手駒が、手勢が減った時にあの姿になって、数を増やす形ね」

「――待て、待て。数を増やす、だと」


 数を、増やす。

 つまりは増殖する、という事。


 ……一度数を減らしておいて、また増やすというのは少々不可解では有ったけれど、でもそれが非常に不味いという事は私にも理解できた。


 既に幼体は私達が苦戦する程度の学習を終えているというのに、それが群になってしまったなら、少なくとも私達ではもう打つ手がなくなってしまう。

 数が増えたなら、それだけ学習の機会も増えるだろうから――


 ――でも、それはおかしい。


「――増やす、と言ったのう。であれば、何故最初からそうしなかった」

「無事だったのね。何よりだわ」

「……これを見て無事と言うのは、少しご無体ではないかのう……?」


 崩れていく城の中を無事脱出したのか。

 明らかに重傷を負ってはいるものの、動けなくなるほどではないのだろう、着物を赤黒く染めながら、アルカン様はふらりふらりとこちらに来れば、瓦礫に軽く腰掛けた。


 そう、アルカン様の言う通り。

 それならば、始めからこの形態になっておけば、良かったのではないだろうか?

 そうだったならば、今頃私達はもっと苦戦を強いられていただろうし、下手をすれば既に敗北していたはずなのに。


「……アルルーナの性格を考えてみれば判るでしょう?」

「成程、それも道理です」


 ……でも、それもクラリッサさんの言葉一つで霧散した。

 相手を弄び、蹂躙し、尊厳を踏み躙る事を好むアルルーナにとって、圧倒的過ぎる暴力は返って面白くないのだろう。


「それに、あの姿になるとアイツは動けない……筈よ。そんなリスクを背負うのは、あのクソ女としては許せないんでしょうね」

「……頭の痛くなるような理由だが、今までのを見ていると納得できてしまうな」


 アミラ様は軽く頭を抑え込みつつ、静けさを保っている――巨大な植物と化した彼女を見上げた。


 アルルーナではなく、エスメラルダ様曰く、アルーナ。

 成程、もしアルルーナではなくなったのだとするのなら、この状況にも色々と納得が出来る。

 先程、交戦していた幼体が突然、喚き散らしながら飲み込まれた事も。

 追い詰められなければならないであろう姿になった事も。

 アルルーナのような悪辣で非道な存在ではない、別個の存在が今回の大本に居たとするのなら、きっと有り得るのだろう。


 ……だからこそ、先手必勝で最大火力を叩き込む、という当初の計画も失敗に終わったのだろう。


「……エスメラルダ様、エルトリス様は」

「エルトリス、ちゃんは……アルーナと、善戦していた、けれど……」


 そこまで言葉を口にして、エスメラルダ様は目を伏せた。

 ……その反応を見れば、どうなったのかは言われずとも判る。


 恐らくは、アルーナがああなる一瞬前。

 巨大な植物らしい何かが城を崩落させた、あれこそがアルーナの攻撃だったのだろう。

 それにエルトリス様は巻き込まれたに違いない。


「……一つ、試したい事があります。アミラ様、ご協力願えますか?」

「ん……あ、ああ。無論大丈夫だが」

「待って、何をするつもり?言っておくけれど、あの状態になったら障壁の強度も段違いよ。並の攻撃はもう通りすら――」


 クラリッサさんの言葉に軽く笑みを浮かべながら、私は頭を軽く振る。


「――多分、大丈夫です。既に確認済みですから」


 そう言葉にしながら、私はアミラさんと共に、一際小高く積もった瓦礫の上へと登りながら、小さく息を吐き出した。


 ……そう、問題はない。

 既に一度、それが通用するのは判っている。

 或いはそれにさえ適応されてしまう可能性はあるけれど、それでもそれには時間を要する筈だ。


 まるで呼吸でもするかのように、遥か頭上、かつて城の頂点が有ったであろう場所で、大輪の白い華が揺れる。


 以前は、ヘカトンバイオンを相手にした時は、私は全くと言っていいほどに力にはなれなかった。

 ……今度こそは、そうはならない。


 そう、揺れる白い華を見て決心しながら――私は、アミラ様と合わせるように、腰に下げていたワタツミを引き抜いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] さてどうなるか
[一言] 何が起きているんだ... 建物を飲み込むような植物ってどこか神秘的で怖いですよね。
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