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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第六章 妖花に沈む大国
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20.かくして、女帝は君臨する③

 戦闘が加速する。

 アルーナとエルトリスが戦闘を始めて、まだ1分も経たないというのに、既に玉座の間は面影も無いほどに荒れ果てていた。

 一度は檻の形を形作ったユグドラも、即座に形を元の七つ首の大蛇へと戻れば、前後左右上下、汎ゆる方向からエルトリスへと喰らいついていく。


 その隙間を縫うかのように、エルトリスは舞い、跳び――そして笑いながら、思考を巡らせていた。

 一体どうすれば目の前の相手に勝てるのか。

 一体どうすれば、もっとルシエラをより強く扱う事ができるのか。


 エルトリスは未だ、窮地の中だという事には変わりなく。


 腕に巻いた、篭手としての役割も持つ鎖を伸ばせば、七つ首の大蛇のうちの一本に鎖を巻きつけて、飛びついた。

 無論、依然としてユグドラにまで発生している障壁は破れていない。

 巻きつけた鎖さえも攻撃として認識されているのか、鎖はユグドラ本体ではなく、その中空に巻き付くような形になっていて。


「――あはっ」


 ――しかし、それで良いと言うかのように、エルトリスは笑った。

 瞬間、巻き付いていた鎖から勢いよく火花が散り始め、黒色の鎖はあっという間に赤く、赤く赤熱し始める。


 先程、種子をルシエラがかじり取った時のように。

 今度は巻き付いた部分を喰らい続けるように、鎖が障壁を侵食し始めたのだ。


 如何に強固な障壁であれど、無限ではない。

 強烈な勢いで鎖が障壁を削り始めれば、見る見る内に中空で止まっていた筈の鎖はユグドラ本体へと近づいていき――


「無駄な、事を」


 それでも、アルーナの表情は変わることはなかった。

 鎖を巻きつけて、ユグドラの七つ首の一つに取りついたエルトリスに向けて、残りの六つ首が殺到する。


 無論、同士討ちなどという無様は晒さない。

 取り付かれている首も、身体をうねらせるようにすればエルトリスをその身体から引き剥がして――その勢いのままに、エルトリスは宙を舞った。


「あはっ、あはは……っ!!あははははは!!!」

「――これ、は」


 ――それは、先程までのエルトリスならば有り得ない筈だった。

 取り込んだ幼体達の力を得て、ここに来るまでに視た筈のエルトリスの実力を学習したアルーナにとって、目の前の相手は取るに足らない相手の筈だったのだ。


 エルトリスは、殺到する大蛇の顎を躱しながら、鎖を巻きつけるようにして、時折縮めるように引き寄せて、まるで飛行でもしているかのように空を舞う。

 そうしている間にも、大蛇の首に巻きつけた鎖はそのままに、障壁を侵食し続けて。


 ――それは、アルーナが学習してきた取るに足らない相手に出来る事では、無い。


「GoAaaaaaaaaa――!!!!!」

「先ずは、一本――ッ!!」

『クカ……ッ、良い、悪くない――もっとじゃエルトリス!!』


 そして、とうとう。

 アルーナの、アルルーナの業を模倣したそれが、欠けた。


 七つ首の大蛇の一角が、鎖に巻きつけられたまま首を削り落とされて、絶叫する。

 まるで生き物のように悲鳴をあげながら――その傷口から、毒を、溶解液を撒き散らしながら、その首が落ちれば。

 それを浴びないように跳びながら、エルトリスはもう一本の首へと鎖を巻きつけた。


 ――攻略されている。

 事ここに至り、アルーナは目の前の相手がどういう存在なのかを学習した。


 人間と考えてはいけない。

 外見は子供でありながら、その実力は既に英傑に比肩している。


 人間と考えるべきではない。

 扱う武器は凶悪で――硬度だけならば、六魔将に多少劣る程度にまでなった障壁を食い破る程になっている。


 ――人間ではない。

 この子供は、戦いの中で自分のように学習している――!!


 その考えに至ったアルーナの表情に、初めて冷たさ以外の物が混じった。

 焦りではない。

 当然、驕りでもない。


 この目の前の少女は、今ここで殺さなければ――否、即座に全力を持って殺さなければならない。

 相手に合わせた力で殺す等愚の骨頂。

 成長する機会さえ与えずに、この場で鏖殺しなければ、取り返しが付かないことになる……そう、アルーナは判断したのだ。


「――エルトリス、だったかしら」


 エクス以外に、初めて真っ当に人の名を口にしながら、アルーナは自らの内にある力を確認する。

 ランパードの人間達(ようぶん)から吸い上げて得た力、そして幼体(アルルーナ)を喰らって得た力。


 その内の5割。

 これから先、行う事をするにはギリギリのラインまでの力を使う事を即座に決断すれば――ユグドラの残りの六つ首が、一斉に凄まじい咆哮をあげた。


 突然の轟音に玉座の間は揺れて、天井からは石片が崩れ落ち――そして、エルトリスの動きが一瞬だが止まる。


「その名前は、覚えておくわ。油断ならない人間が居る事を教えてくれた事を、讃えましょう」


 その刹那のような時間を突いて、エルトリスは攻撃が来るのだろうと身構えるが……ユグドラは、エルトリスに襲いかかる事も無く……拘束されていた部分だけを斬り落とし、アルーナの元へと戻ると、その形を変えていった。


 七つ首から五つ首へとダメージを負っていたその姿が、アルーナの手元でまるで卵のように小さく、小さく、球状の何かに姿を変えて。


 それを見た瞬間、エルトリスの背筋にぞくり、と悪寒が走った。

 エルトリスは腕の鎖の形を変えて、まるで何かから身を守るかのように、前方で鎖を編んで――


「さようなら、エルトリス。ごきげんよう」


 ――刹那。

 アルーナの掌に収まっていた、ユグドラの卵が孵った。


 内側から溢れ出したものが、瞬く間に玉座の間を埋めるようにその姿を形作り――同時に、その巨体を猛烈な勢いで、エルトリスへと叩きつける。

 巨体はエルトリスに触れる寸前、展開していた鎖の壁によって遮られた――が、その勢いは止まらない。


「――っ、ぐ……っ!!」

『ぬ、ぐ――お、のれ……!!』


 鎖の壁は赤熱しながら、その巨体を削り取らんとするが、間に合わない。

 攻防一体とも言える鎖の壁ごと、エルトリスは勢いのままに、玉座の間の壁へと押し込まれて。


 それは、巨大な竜の頭だった。

 その巨大な顎は、エルトリスの鎖の壁に僅かな間遮られていたものの――一瞬の後、バクンッ、と。

 エルトリスを飲み込むようにしながら、その広間の壁ごと消し飛ばすかのように、巨体を叩きつけて――








「……は、ぁ……ぁ……っ。流石に……生きては居ないでしょう、ね」


 ――後に残ったのは、崩落し、最早広間とさえ言えなくなった瓦礫の山。

 その中央で、アルーナは力を大幅に使った反動からか、荒く、荒く息を吐き出しつつも、目の前の驚異を排除できたことに安堵しつつ、その場で膝を付く。


「う……そ……エルトリス、ちゃん……っ」

「……さあ、今度こそ始めましょう。エクス様と、私だけの世界を」


 直撃を免れたからだろう。

 軽くはないダメージを負いながらも、まだ生きているエスメラルダなど眼中にさえ無いと言うかのように、アルーナはその場で軽く蹲り――








 ――その背中から、大輪の華が咲いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 丸呑みしたら内側から……
[一言] アルーナもエルちゃんも底が見えない…
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