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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第六章 妖花に沈む大国
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12.忌むべき者

「……ふぅ。やれやれ、制圧されてしまいましたね」


 大方制圧されてしまった市街地を、華花を通して眺めながら、アルーナは小さく息を漏らした。

 とは言っても、その表情に翳りはおろか、焦りさえも無い。

 玉座の上、エクスの膝の上に腰掛けながら、エクスの口元に果実を運べば淡く笑みを零し。


「流石はアルカン、それに英傑達と言った所、なのかな」

「そうですわね。ええ、予想を超えて中々に面白い方々です」


 感嘆の息を漏らすエクスに、アルーナは少しだけ可笑しそうに笑みを零しながらそう返すと、エクスが口にしていた果実と同じ物を口に含んだ。


 アルーナもだが、同じ景色を共有しているであろうエクスにもまた、焦りと言ったものはなかった。

 もしこのまま行けば、自らの元に遠からずエルトリス達がたどり着くだろう。

 そうなったなら、ランパードという大国をこのような状況に追い込んだアルーナは元より、それを手助けしたであろうエクスまた、刃を向けられることになる。


「それじゃあ、そろそろ()が出るべきかな」


 ――それを、理解しているはずなのに。

 そうすればどうなるかを理解している筈なのに、エクスは淡く笑みを浮かべるとそう呟いて、小さく息を漏らした。


 アルーナはそんなエクスの様子を見ながら、変わらず笑みを浮かべつつ、甘く、甘く……その身体を、優しく抱いて。


「――そうですわね。大丈夫、エクス様なら問題ありませんわ」


 甘く、優しく囁き掛ければ。

 少しだけ、僅かに強張っていたエクスの身体から、力が抜けて。


 そして、二人は玉座の上で視線を合わせるようにすれば、唇を重ね合わせた。








「――二人の様子は?」


 制圧がほぼ完了した市街地の中。

 未だに植物の駆除は続いてはいるものの、それも大分進んだことも有って、俺達は市街地の一角にある広場の中に拠点を移していた。


 オルカはアルルーナから開放された後、即座に医療の心得がある者の元に運ばれて、手当を受けてはいたものの、そのダメージは凄惨たる有様で。

 身体の強度を無視して動かされた手足は、血肉は愚か骨に至るまでダメージが及んでおり――それでも、早い段階で華を取り除けたのが良かったのだろう。

 壊死にまで至る事は無いようだった。


 ……問題は、むしろそういった目に見える部分のダメージではないのだろうけれど。


 二人を見舞ったアルカンは、俺の言葉に小さく息を漏らしつつ、椅子に腰掛けると長く、長く息を吐き出した。


「命に、別状は無いようじゃ。オルカもじゃが、メネスも峠は越えたようだからの」

「それは何よりだ。二人共、助かって良かった」

「……だが、の」


 二人の生還に、命が助かったことにアミラは喜びつつ。

 しかし、その言葉を受けながらも、アルカンは険しい顔で言葉を続けていった。


「メネスはまあ、後遺症も残らんとの事じゃったが……オルカは、判らんそうじゃ」

「……解らない、というのは?」

「片側の視界の喪失は元より、そこから張った根が負わせた傷が深いようでの。今でも言葉を上手く口から出せんと言った様子じゃが……治るかは、未知数だと」

「――そう、か」


 アルカンの言葉に、目を伏せる。

 確かに、オルカはアルルーナから開放された時に声を上げていたけれど、あの時の口調は何かがおかしかった。

 まるで、言葉を話す事を覚えたばかりのような。

 その機能が無いのに、無理に言葉を口にしているような、そんな奇妙なたどたどしさがあるようで。


 ……それが、深い部分に負ったダメージによるものというのであれば、治るかどうかは誰にもわからないのは道理だろう。

 何しろ、頭の深い部分に手を入れる事なんて、誰にも出来やしないのだ。


 いや、まあ、殺す、壊すという意図であれば容易いが、その真逆。

 治す、救うという意図でその部分に手を出せる者なんて、居るわけもない。


「なぁに、何とかなるじゃろう。何せ儂のような老骨でさえこれだからの」


 ――だが、アルカンはそう口にすれば、いつものように飄々とした雰囲気で笑ってみせた。

 それなら、俺達が沈み込んだり気にかけたりするのは、逆に失礼というものだろう。


「……だな」

「そうですね。オルカさんなら、必ず再起出来ると思います」

「そう、だな。あの真面目さだ、きっと立ち上がれるさ」


 俺達がそう返せば、アルカンは笑みを零しながら、腰に下げた酒瓶に口をつけて。

 その様子を見て大丈夫だと判断したのだろう。

 エスメラルダとクラリッサは視線を軽く合わせるようにすれば、立ち上がった。


「――それじゃあ、大丈夫な用だし。これから対アルルーナ戦の対策を共有しましょう」

「相手は、分体とは言え六魔将の一角です。これまでのようには、行かないでしょうから」


 そう、まだ戦いは終わっては居ない。

 むしろようやく第一段階を終えたばかりで、まだ俺達はアルルーナの分体とは顔さえも合わせていないのだ。


 ……その実力がどの程度なのかは測りかねるが、少なくとも幼体ほど優しい相手ではないだろう。

 まあ、幼体も幼体で学習させたらどこまで強くなるか解らない、厄介な代物では有ったが。


「先ず、幼体と戦ったそのイメージは全部忘れなさい」

「……忘れる、ですか?」

「分体が同じと思わない方が良い、という事か?」


 リリエルの疑問に、アミラの問い掛けに、クラリッサは小さく頷きつつ、天幕に用意された板の上に刻むように、絵らしき物を描き始めた。

 器用なもので、中々に判りやすい――見るだけでアルルーナだと判るような絵を描けば、クラリッサはその上に更に何かを描き足していって。


「本体と同種の能力を持つと仮定すると、だけど――いえ、多分持っているんでしょうけれど。アルルーナは植物の持つ汎ゆる性質を併せ持っているの」

「植物、というと……」

「毒は当然として、自らの幼体を作り出す繁殖力。相手に寄生し、養分を奪いながら成長する能力。それだけじゃなく、食虫植物が持つ溶解液に人を惑わすフェロモンじみた花粉、後は――」

『――待て待て待て。何じゃ、その能力の数は!?』


 どんどんその絵に書き足されていく物を見れば、ルシエラが俺を抱くように人型になって、文句を口にした。

 まあ、その気持もわからないでもない。


 今まで相手にしてきた魔族達は、それこそ特異な身体能力、あるいは魔力を除いたならその能力は一つ。

 複数持っているように見せたとしても、その根幹にあるのは一つの力、だというのに。


 まるで冗談のような能力のオンパレードに、ルシエラはおろか、それ以外の――俺を含めた面々も、信じられないと言った顔をして。

 しかし、それを見ても尚、クラリッサは頭を左右に振ると言葉を続けていく。


「――異様なまでの再生能力、後は根や蔦を使った単純な物理攻撃。正直言って物理攻撃が一番厄介よ、エルトリスとアルカンは対処できる……と思いたい、所ね」

「……これはまた、随分な化け物じゃな」


 ……これで本体ではない、というのだから堪らない。

 無論、これはクラリッサの予想であって、もしかしたらこれよりも遥かに弱い可能性だってあるが――本体とやり合ったことがある六魔将の部下であるクラリッサの言葉なのだから、決して軽視して良いものではないだろう。


「その、クラリッサさん」

「ん……どうかしたの、リリエル」

「アルルーナの能力は、今言った物が全てですか?」


 アルルーナの多様さに、万能さに呆れさえ覚えている中、リリエルは唐突にそんな言葉を口にした。

 多種多様な植物の性質を併せ持つアルルーナの説明を受けて、一体どこに不足が有ったというのか。

 クラリッサもうん?と言った様子で首を捻りつつ――


「オルカさんは、あの時種を受けたようには見えませんでした」

「……ああ」


 ――リリエルの言葉に、小さく声を漏らした。

 そうだ、確かにあの時オルカは種を受けていたような様子はなかった。

 種が肉に食い込んでいたのならば、流石に誰だって気づくはずなのに。


 クラリッサはリリエルの言葉に眉を潜めつつ、軽く腕を組めば――言うつもりは無かったのか、少しだけ渋るように口を開いた。


「……植物の多様性は、勿論だけれど。これを勘定に入れてしまったら動けなくなるから、言いたくはなかったのだけれど」


 勘定に入れてしまったら、動けなくなる。

 それはつまり、対策のしようがない部分が、アルルーナには存在するという事で。


 ――そう、それはよく考えれば当たり前の事だったのだ。

 如何に能力が多様だからといって、それであのアリスに並び立てる程の物があるのかと言われれば、それはまるで違うのだから。


「アルルーナの一番厄介な部分は、今リリエルが言った能力――以前は持っていなかった筈のそれを、持っている所」


 ……つまりは、そういう事なのだろう。

 以前は持っていなかった能力を、アルルーナは今回においては獲得している事実。

 ある意味、幼体が学習してどんどん強くなっていくのも、それが影響しているのかもしれない、が。


「――()()。あのクソ女は、自己の改造と変容、それと得た情報から無限に進化し続ける、怪物なの」


 クラリッサはそう口にすれば――今まで嫌悪しか表してこなかったアルルーナに対して、初めて身震いした。


 進化。

 無限の成長。


 ――ただでさえ、今でさえ恐ろしく強いであろうその怪物が、まだ途上であるというその恐怖を、嫌悪する事で押し殺していたかのように。


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