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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第一章 少女と辺境都市
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10.少女、冒険者と顔合わせをする

 ギリアムから依頼を受けた翌日。

 特に時間も指定されていなかったので、のんびり起きて宿で朝昼ご飯を食べてから、俺たちは渋々ながらにギルドに向かった。


『しかし面倒だのう。本当に行かねばならんのか?』

「まあそう言うなって。一回顔を合わせるだけだしその後は自由だろ、多分」


 まだ納得がいかないと言った様子のルシエラにそう言いつつ、腕の上で脚をぶらぶらとさせる。

 ……ルシエラは不満そうだけれど俺はあながち、満更でもなかった。

 ギリアムは今まで出会った中では――勿論、この体になってしまってからの話だが――一番の強者だ。

 そんなギリアムが、曲がりなりにも認めているであろう連中がどの程度なのか、否応なしに期待してしまう。


「……斬りかからないで下さいね、エルトリス様」

「ん、あ?そんな事する訳無いだろ」

『嘘をつけ、ニタニタと楽しそうな顔をしておったぞ、エルちゃん』

「だからその呼び方はやめろっての!!ああ、ったく。やらねぇよ、やらねぇっての」


 どうやら、それが顔に少し出てしまっていたらしい。

 ルシエラの言葉に顔を熱くし、眉を潜めつつも、それを暗に認めながら俺は小さくため息を漏らした。


 そうしてしばらく歩けば、つい先日……誰だったか、賞金首の頭を置いてきたその場所に辿り着く。

 最初に入った時とは違い、俺たちを見て近寄ろうとするような連中はいない。

 まあ、腕を砕かれかけたり生首持ってきたりしたのを見たんだし、ある意味雑魚避けみたいな事になってるんだろう。

 それを有り難く思いつつ、俺はギリアムの元へと向かおうとして――そう言えば、あのオッサンは何処に居るんだ?


『――のう、小娘』

「ひっ!?は、はひっ」


 ルシエラも判らなかったのだろう、偶々近くに居た冒険者らしい女に声をかければ、女は表情を引きつらせながら椅子ごと後ずさりして。

 それを見れば、ルシエラはうんざりしたようにため息をもらしつつ――そんな一挙一動にさえビクつきながらも、女はルシエラから視線を外そうとはしていなかった。


 ……いや、流石に俺たちだって無駄に相手を襲ったりとかはしないって。

 特に雑魚なんか無駄に襲ったって何にも面白くないし。そういう事をするのは邪魔をしてきた相手や金になる相手だけだっての。


「ギルド長に呼ばれて来たのですが、ギリアム様はどちらに?」

「あ、あっ、あ……あっち……です……っ、二階のっ、廊下の突き当り……」

「有難うございます。行きましょうルシエラ様、エルトリス様」

『……はぁ。そうじゃな、相手にするだけ無駄じゃ』


 そんな状態を見るに見かねたのか、リリエルが間に入れば女は怯えつつも言葉を発して。

 リリエルは軽く頭を下げつつ、俺たちをその場から離れるように誘導してくれた。


 こういうのは、正直結構有り難い。

 俺もルシエラも、こういった雑魚連中に対してどう接すれば良いのかとか、そういうのが良く判らないのだ。

 別段、変なことをしたつもりは無いのだけれど毎回毎回、いつの間にか今みたいに怯えられて会話にならなくなったりするし。

 そういうのが嫌いなルシエラはあっと言う間に不機嫌になるし……俺も、イライラするし。

 リリエルがその辺りを上手く回してくれたからか、ルシエラもいつもよりは幾分かマシだったのだろう、小さくため息を漏らせば女に一瞥することもなくリリエルの後に着いて歩き出した。


 ……後ろでガタン、と倒れるような音と軽い悲鳴が聞こえたのは、まあ聞かなかった事にしよう。








 そうして、多少の奇異の視線を浴びながらも廊下の奥――一際立派な扉があるその部屋に辿り着けば、リリエルは何故か軽く叩いてから扉を開けた。


 中に居たのは、数十名の老若男女。

 ギリアムより年上の奴も居れば、リリエルと同年代の奴も居て……ただ、連中はどいつも俺たちを見て怯える事は無かった。


『……ふむ、会話にはなりそうかの?』

「ああ、だと嬉しいんだが」


 先程の女とはまるで違う連中に、ルシエラも少しだけ興味を持ったのか。

 俺を腕に乗せたまま部屋に入れば、そのまま連中が屯している長机の一角に腰を下ろした。

 ……俺はまあ、椅子が高いのもあってルシエラの膝の上だ。

 少し、いやかなり、大分抵抗はあるけれど――何しろ、大人用の椅子だと足がつかないし、背もたれも少し遠いから仕方ない。


「なあ、もしかしてアンタ達が賞金首狩りのエルトリスで良いのか?」


 ルシエラの膝の上で小さくため息を漏らしていると、怯えなくとも普段見ない顔ぶれに興味をもったのだろう。

 部屋に居た連中の一人、というよりは一徒党(パーティー)か。

 後ろに何人か連れている、リリエルより少し年上の黒髪の男が俺たちに声をかけてきた。


 男の言葉には、確認の意味合いこそあれど疑念や侮りといった色は入っていない。

 この時点で、既に下の連中とは種類が違うという事が、何となくだが理解できた。


『私はルシエラじゃ。エルちゃんはこっちじゃな』

「うぇっ!?そっか、噂じゃ子連れの美女って話だったからてっきりお姉さんの方がそうかと思ってたよ」

「……何か、用か?」


 ……まあ、外見の問題だから仕方ない。

 それでも信じられないとか言わない辺り、まだマシな部類だしな、うん。

 ちょっとだけ浮かんだ黒い感情を押し留めつつ、俺は膝の上から男を見上げた。


 ギリアムと比べれば、大分劣る。

 それでもリリエルと同格か……いや、経験を考えればリリエルが勝つにはちょっと厳しい相手だろう。


「ああいや、ごめん。ちょっと興味があってさ」

『……ロリコンか?いや、ペドフィリアか?』

「違う違うっ!!そうじゃなくて、結構話題になってる奴だからって、そういう意味で!!」

『本当かのう、怖いのう』


 ルシエラも、普通に対応出来る、してくれる相手には邪険にはしない。

 軽くからかうようにそう言えば、俺をぎゅうっと抱きしめて――


「――おい、やめろ」

『おっと、すまんすまん』


 ――頭が半分ほど、何にとは言わないけれど沈み込んだ所でルシエラの腕を思い切りつねり上げた。

 全く痛がらないルシエラに釈然としない気持ちになりつつも、黒髪の男の方に視線を向ける。

 俺たちの様子がおかしかったのか、男は無邪気に笑みを零し。


「まあ、やっぱ人は噂にはよらないな」


 そんな言葉を口にすると、その様子を見ていた他の連中もどこか雰囲気を弛緩させた。

 一体どんな噂なのか、少し興味はあるけれどどうせろくでも無いことだろう。

 ギルドで揉め事を起こしたとか、死体を受付に投げつけたとか、絡んできた連中を殺したとか、そういう。


 ……まあ、その一部が噂ではない事は、わざわざ言う必要もないか。


「俺は、黒鉄の一党リーダーのマクベインだ。宜しくな、エルトリス」

「ああ。まあ、別につるむ必要も無いと思うが」

「大丈夫、俺たちだって別に無理に集まってとかは考えてないさ。普段から連携取ってないのと混ざるとかえってやり辛いしさ」

「それなら良いさ。まあ、頑張れよマクベイン」


 そして、出来れば魔族とは相対さないでくれ。

 ついでに言うなら、魔族と俺がやり合ってるときに横槍も入れないでくれると嬉しい。

 そうであるなら、俺もわざわざお前らを殺さないで済むんだから。


 口に出すことはなくそんな事を考えつつも、まあ多分こいつらならそうはならないんだろうな、と思ってしまった。

 仮に魔族と呼ばれる奴が、この間の賞金首よりも遥か上……まあ、3倍くらいだと仮定したら、こいつらに乱入する余地なんて無いからだ。


 それはつまり、こいつらがもし魔族に遭遇したら死は免れないって事でもあるが、それくらいの覚悟は多分あるんだろう。

 だって、こいつらは魔族という物を知りながら、ここに来たんだから。


 そうしてしばらくすると、何やら面倒事でも済ませてきたのか。

 疲れたように目頭を抑えつつ、こいつらを集めたであろうギリアムが部屋に入ってきた。


「――ん、全員集まってるみたいだな」

「ギリアム!久しぶりだなぁ!」

「おう、わざわざ遠方から来てもらって悪いな、皆」

「水臭いこと言うんじゃあないよ、アンタの頼みならウチらが断る訳ないだろう?」


 部屋を見渡しながら、それで呼んだ全員を確認したのか。

 何処か嬉しそうにギリアムが笑うと、同時に部屋が一気に沸き立って――








「……どうかなさいましたか、エルトリス様」

「別に。何でもねぇよ」

『何じゃ、急に妙な顔をしてからに』

「何でもねぇって」


 ――少し心配するようなリリエルと、訝しげな表情のルシエラの言葉に軽くそう返すと、俺はギリアムの回りで沸き立っている連中から目を背けた。

 何故そうしたのかは、自分でも良く判らなかった。


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