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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第五章 少女の不思議の国
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22.片翼の小鳥はかく囀り①

 翌日。

 俺達は軽く朝食をとった後、本来リリエルと合流した後に向かう筈だった場所へと、足を向けていた。

 向かう先は、クラリッサと思われる相手が居る場所。


「……は、ぁ」

『何じゃ、緊張しておるのか?』

「ん……」


 ルシエラのからかうような言葉に少し眉を顰めながら、しかし言葉を返す事が出来ない。

 正直なところを言うならば、その場所に近づくことさえ、できる事なら避けたいと思ってしまっている。

 緊張している、というよりは忌避感を覚えている、という方が近いだろう。


 いつものように町を出れば、花畑の中にある看板の前まで辿り着き。


「まあ、今回の目的はまだ、アリスと対面する事では有りませんから」

「私が出来る限り、居ないかどうか探るようにはするが――期待は、しないでくれ」

「……うん、わかってるよ。有難うね、二人共」


 リリエルとアミラの言葉に、小さく頷けば――この永遠のお茶会の中でまだ言っていない場所へと、歩き出した。

 カラクリ世界でも、キノコの森でも、妖精の住処でも……ましてや、さっきまで俺達が居た家のある方角にある町でもない。


 ――アリスが間違いなく居るであろう、その場所。

 アリスのお家、と記されている方角へと進んでいけば、周囲の景色は徐々に、徐々に変わっていく。


 花畑に咲き乱れる花々は、より鮮やかに。

 時折吹く柔らかな風は、暖かな日差しは、異様な程に心地よく。

 地平線まで、見渡す限り――何も遮るものがない一面の花畑を歩いていると、心が勝手にふわふわしてしまって――……


「ふ、ぁ……っ」

『……嫌な空気じゃな、ここは。余りにも、平和が過ぎる』

「言い得て妙ですね。何というか、こう――警戒が、出来ないというか」


 思わず欠伸を漏らしながら、ルシエラとリリエルの会話に耳を傾けつつ、ああ、と小さく頷いた。


 警戒が、出来ない。

 これから向かう先がどれだけ危険なのか、リスクがあるのか、行く前はあれだけ忌避感を抱いていた筈なのに、足を進める度に、勝手にそれが薄れていく。


 単に穏やかな風景が続いているから、という訳でもないのかもしれない。

 よくよく考えてみれば、この先は有る種、永遠のお茶会の中心部とも言える場所でもあるのだ。


「しかし、花が綺麗だな。こう、お昼寝をしたら気持ちよさそうだ」

『呑気な事言ってないで、ちゃんと周囲を見てなさい。アリスが見えたら、見つかる前に退くわよ』

「……わ、判っているとも。ただちょっと、そういうのもいいかなって」


 ――危ない。

 アミラと、その言葉に呆れているワタツミの会話を聞きながら、かすかにそんな考えが首をもたげる。

 もたげる、けれど――でも、それ以上に。


「うん、でもきっと、ここでピクニックをしたら楽しいわ――」


 ああ、そんな風に出来たなら、きっと楽しいのだろう、なんて。

 そんな穏やかで暖かな光景が、頭に浮かんで離れない。


 でも、それよりも……そう、今回はクラリッサを迎えに来たのだ。

 ピクニックだとか、そういうのは後回しでいいだろう。

 クラリッサがどんな姿になってしまって居るのかは、想像に難くはないから、探すのもそう簡単ではないだろうけれど――


「――……♪……♪」


 ――そんな事を考えていると。

 不意に、道の先……遠くに小さなお家が見える、その方角からきれいな、きれいな歌声が聞こえてきた。


 それは、決して大きな音ではなかったけれど、不思議と俺達のところまで、響き渡ってくるようで。

 俺達は軽く顔を見合わせれば、小さく頷いてからその歌声が聞こえてくる方へと足を進めていく。


「――♪」


 少し進む度に、その歌声は次第にはっきりとしてきて……やがて、赤い屋根の可愛らしいお家の傍に立つ木の周りに、小鳥たちが集まっているのが見えてきた。

 赤、青、黒、白。色とりどりの小鳥達は、歌声に聞き入っているのだろう、俺達が近寄っても逃げる様子もなく。


「……わ、ぁ」


 ――俺も、リリエルも、アミラも、そしてルシエラも、ワタツミも。

 気づけば、その小鳥たちに交じるように、歌声に耳を傾けていた。

 歌だとかそういう事に余り興味がない俺でも、その歌声が美しい事は……そして、それが凄いという事は、何となくだけど理解できる。


 聞いているだけで、まるで友と二人で語らい、演奏しているかのような――そんな情景が浮かんでくる、そんな歌声。

 それを、俺達は声をあげる事もなく、その歌声の主に声をかける事も忘れて、ただただ聞き入って――……


「――……ん。ご清聴、感謝するわ」


 ……そうして、歌が終われば。

 自然と、意識さえすること無く、俺達はパチパチと手を叩いていた。

 小鳥たちも、歌っていたその色鮮やかな翼をもった鳥を称賛するように、ピィピィと声をあげて。


 そんな俺達に、その色鮮やかな鳥は――表情はよく判らなかったけれど、笑みを零すようにすれば、小さく息を漏らした。


「さて、と……いつかは来ると思っていたわ、エルトリス」

「……クラリッサお姉ちゃん、だよね」


 当然のように。

 何の動揺もなくそう口にした色鮮やかな鳥に、俺がそう問いかければ、鳥はその小さな頭をカクン、と縦に揺らして。


「ええ。もうとっくに諦めたものだと思っていたけれど……流石、アルケミラ様が求めた人間と言った所かしら」


 色鮮やかな鳥……クラリッサは、クク、と軽く喉を鳴らすようにそう言えば、色鮮やかな翼を軽く動かしてみせた。

 その姿は、妖精という小さな存在に変えられてしまったアミラよりも、遥かに酷い。

 アミラはまだ人の形を、元の姿を保ってはいたけれど……クラリッサは最早、元の面影など殆ど残っていなかった。


 唯一残っている部分といえば、鳥という部分とその歌声くらいで、後はもうただの鳥でしか無いその姿。

 しかし、クラリッサはその姿を嘆くこともなければ、悔やんでいる様子もなく。


「……甚だ不本意だが、私達はお前に助けられたんだ。いくぞ、一緒にここから出よう」


 アミラがそう言葉にすれば、クラリッサはきょとん、としたような様子で目を丸くして――くす、と。

 鳥の姿だと言うのに、まるで人のように笑い出した。


「ふふ、ふ……そう、そうね。貴女達はまだ、よく知らないんだものね」

「クラリッサ、お姉ちゃん?」

「……私から言えるのは一つだけよ、エルトリスちゃん」


 俺のことをそう呼ぶ声には、嘲る様子はまるで無い。

 だからかもしれないけれど、ちゃん、と呼ばれても、俺は違和感さえ覚える事はなく。

 寧ろ、慈悲や慈愛といった優しさに満ちた、そんな声をクラリッサはその嘴から紡ぎ出し。


「諦めなさい。ここから出る事は、出来ないわ」


 ――そしてクラリッサは、そんな諦めを口にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] アリスを言いくるめて出るしかない( ˘ω˘ )
[一言] クラリッサはアリスちゃんのことをエルちゃんたちより知っているのか... それともただの鳥にされて戦意そのものをなくしたのか...
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