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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第一章 少女と辺境都市
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6.少女たち、襲撃する

「――ああ?」


 洞穴の前でぼんやりしていた見張りが最期に口にしたのは、そんな言葉だった。

 ギュルン、と回転した刃が身体をくぐれば、見張りの身体は途端に裂け、砕け、バラバラになり散らばっていく。

 ルシエラの回転する刃に一度巻き込まれれば、どんな生き物であれど原型を留める事はない。


 血を撒き散らしながら散らばった見張りだったモノに、小さく息を漏らしつつ。


「な――何だこのガキ――ッ!!」


 悲鳴は無くとも、ルシエラが貪った音は異音として洞穴に響いたのだろう。

 洞穴の奥から思い思いの武器を片手にやってきた連中を見れば、俺は少しだけ口角を吊り上げた。


「……おら、さっさと来いよ。テメェらは原型残さないでも良さそうだし、遠慮なくバラしてやるからさ」

「ふざけんな、テメェよくも、よくもやりやがったな!?」

「人数はこっちが上だ、ふんづかまえて手足を切り落としてやれ!」


 おーおー、威勢の良いことで。

 どうせなら狭い洞穴よりは外で戦った方がコイツらも戦いやすいだろうと、見張りだったモノを踏み躙りながら軽く下がれば、連中は気炎を上げながら洞穴から飛び出してきた。


 とはいっても、すぐに飛びかかってこない辺りはちゃんと警戒はしているのだろう。

 ぞろぞろと出てきた奴らは俺を取り囲めば、間合いを測るようにジリジリと、少しずつその輪を狭めてくる。

 どうやらその辺り、それなりに場馴れしてる連中らしい。


 ――まあ、狭める以前に既にその位置が間合いだってのが、実にマヌケだが。


「え」


 トン、と一足飛びで囲みの一角に近づけば、それが余りにも予想外だったのか。

 信じられない、といった表情を浮かべながら、そいつは手にした獲物で防御する事さえ忘れ、ただルシエラの餌になった。

 真横で飛び散っていく仲間の姿を見て、連中は一瞬だけ呆然としていたが――死体には慣れているからか、直ぐに俺に向けて獲物を振り下ろしてくる。


 が、余りにも遅い。

 リリエルの氷結晶の槍と比べれば欠伸が出るような鈍さに嗤いつつ、そのまま俺は囲みを抜けて、ルシエラを肩に担いだ。


「はは、おっせぇ」

『しっかし不味いのう。後で口直しが欲しいぞエル』

「……っ、ち、畜生!こいつ、前に女をさらいに行った奴らを殺したやつだ!!」

「くそっ、熊かなにかにやられたのかと思ってたが……この死体、間違いねぇ!!」


 ……?

 どうやら良く判らないが、連中は俺たちの事を知っているらしい。

 無闇に突っ込むのをやめれば、1人が洞穴の奥へと勢いよく駆けていく。

 殺すことも出来たが、まあ止めておこう。大方、例の賞金首を呼びに行ったんだろうし……であるなら、いっそ好都合だ。


「へ、へへ、もうお終いだクソガキ!ランダルフの兄貴ならテメェなんざ一瞬で挽き肉なんだよ!!」

「挽き肉なんざ勿体ねぇ、俺たちの仲間を殺しただけじゃなく邪魔までしやがったんだ。手足を落として愛玩用(ペット)にして飼ってやろうぜ」

「ひひ、ひ!そいつぁ良い!」


 しかし、どうしてコイツらはこうも楽観的というか、危機感がないんだろうか。

 きっと俺の射程外に居る――と思い込んでいる――から、安心してるんだろうが。


氷結晶の槍(クリスタルランス)

「へへ、ひゅ?」


 ズン、と地面から突き出した純白の槍が、連中の1人を貫き、持ち上げた。

 何が起きたのか理解が出来なかったのだろう、男はマヌケな声をあげながら、自分の胸から生えたソレを見て、呆然とし――


「ご、ぽっ」


 ――口から赤黒い塊を吐き出したかと思えば、そのまま早贄(はやにえ)のようにぐったりと身体を弛緩させた。

 相手が俺とルシエラ……もとい、俺1人だと思っていたんだろう。

 突然仲間が不可解な死に方をしたのを見れば、連中は慌てたように周囲に視線を向けた。


 そこでようやく、茂みから半身を出すようにして先程からずっとこちらを観察していたリリエルに気付いたのだろう。

 俺から距離を取っていた事もあってか、連中は俺に背を向けて一斉にリリエルの方へと駆け出した。


「今のは、少し勿体なかったでしょうか。三重奏(トリオ)――」

「な……まだ仲間がいやがったのか!?」

「ちっ、コイツも女だ!さっさととっ捕まえちまえ!!」

「魔法使いだ、距離を詰めちまえば――」


 成程、確かに連中の言ってる事は理に叶っている。

 魔法使いは基本的に魔力を集中し、魔法を発現するまでのラグが長い。

 接近戦に持ち込めたのであれば、連中の数なら或いはリリエル相手でも有利に立ち回れる可能性はある。








 まあ、無論。

 それも、魔法使いが既に準備を終えているのでなければ、の話なのだが。


「――氷針の風(アイスニードル)


 リリエルの言葉と同時に、連中に向けて勢いよく無数の氷の針……というには少々太いそれが放たれる。

 事前に三重奏(さんばい)と宣告していた通り、その数は連中全てを相手取るには十分な数で。

 せめて立ち止まっていたのであれば、回避や防御の余地もあったのだろうが――


「あ、ぎっ」

「ふぎっ、え」


 ――リリエルに向けて駆け出していたのだから、どうしようもない。

 連中は腹に、顔に、脚に。

 全身に氷の針をまともに受けながら、その場でもんどり打った。

 地面を赤く染めつつも、まだ絶命出来ていない奴も多いのだろう。苦悶の声を上げながらのたうち回ってるのも居たが……まあ、時間の問題か。


 その様子を見ながら、あいも変わらず無表情なままでリリエルは茂みから姿を表して、服に付いた木の葉などを軽く払いつつ、俺の元に向かってくる。


「……差し出がましい真似でしたか?」

「あー、別に構わねぇよ。どうせこいつらは木っ端だしな」

『メインディッシュは別にあるからの――そら、聞こえてきたぞ』

 

 まさか、今のだけでほぼ壊滅するとは思っていなかったのか。

 少しだけ申し訳無さそうにそう言ったリリエルに、俺もルシエラも少し可笑しくなりながら、洞穴から聞こえてきた音に視線を向ける。


 ズン、ズン、と響いてくるような足音。

 そして、何やら悲鳴のような物が聞こえてくれば――勢いよく、何やら人のような物が文字通り飛んできて。


「っと、ご挨拶だな」

「……あ゛ー。クソの役にもたたねェ連中だなァ、オイ」


 それをルシエラで斬り飛ばせば、洞穴の奥からのそり、と大きな人影が姿を現した。

 身の丈はルシエラよりも遥か高く、筋骨隆々という言葉がぴったりなその巨漢は仲間であろう連中に一瞥する事さえなく、ため息を吐き出して。


「なァんでこんなガキどもを仕留められねェんだ、クソどもがァ」


 ぐちゃり、と。

 元仲間だったものを、まるでゴミでも扱うように踏みにじれば……そこでようやく、俺たちの方へと視線を向けた。

 身の丈にあった肉厚で巨大な斧を持っているその姿は成程、赤色熊程度なら一捻りできそうな程度の実力を感じさせる。


「おい、コイツが熊狩りランダルフで間違いねぇのか?」

「……人相書き通りですし、間違いないかと」

『あー、確かに似ておるのう。手書きじゃろうに、中々やるもんじゃなぁ』


 妙な所で感心しているルシエラとは対照的に、リリエルの声には僅かに緊張が混じっていた。

 恐らく、リリエル単独ではコイツとやり合うには厳しいという事が肌で感じ取れたんだろう。


「はァ……仕方ねェなァ。オイ、お前ら……今すぐ全裸になって土下座しなァ。俺を愉しませたら、生かしてやってもいいぜェ?」

「――っ」


 巨漢の……ランダルフの言葉に、リリエルは少しだけ身体を震わせた。

 とは言え、戦意が消えたような顔はしていない。負け犬の目では、断じて無い。


 ああ、それでこそだ。

 強者相手でも折れず、殺そうとするその気概。ちゃんと金貨500枚分の価値はあったってもんだ。


「はは、あっはははは」

「……何だァ?」

「ああ、いや悪い。ちょっと愉快でなぁ」


 嗤いながら、今の俺からすれば山のような巨漢であるランダルフを見上げる。

 まだ俺の力がよく解ってない下僕にはいい機会だから、ここでちゃんと見せてやるとしよう。


「命乞いする立場の奴が、命乞いしろって言ってんだぜ?笑わない方がおかしいだろ」

「――いい度胸してんじャあねェかァ、ガキィ」


 俺の言葉に、ランダルフは無精髭まみれの口元をニタリと歪めれば身構えた。

 成程、少しだけだが格らしい物を感じる。

 二つ名もち、というだけ有って今までの賞金首よりは愉しめそうだ。


「エルトリス様、私も――」

「良いから見てな。下僕として、俺の力がどんなもんか知っておくといい」

『巻き込まれんようにな。私は兎も角エルはその辺は疎いからの』


 隣に立とうとするリリエルを片手で制すれば、ルシエラを両手で握る。

 さぁて、それじゃあ……


「来いよデカブツ。見せかけだけのハリボテじゃないって所を見せてみな」


 ……ルシエラを怒らせないよう、上手いこと頭を潰さないように相手してやるとするか。


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