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魔王少女、世にはばかる!  作者: bene
第四章 霊峰に眠る魔刀
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25.どうでも良いお風呂でのお話

「サクラ、風呂場では走っては行けませんよ」

『解ってる。私、別に子供じゃない』

「やー、道場のお風呂のが広いけどこういうのも良いよねー」

『少し手狭じゃが、まあ問題はないか。ほれ、行くぞエルちゃん』


「……わ、解ってるよ」


 ルシエラに手を引かれて、浴場に入れば……俺は、もうここに来て何度か使っている筈のその場所が、嫌に新鮮に感じてしまった。

 まあ、ルシエラと一緒に入るっていう事自体が結構久しぶりだから、っていうのも有るんだろうが――


「それにしても、ルシエラさんって綺麗だよねー。惚れ惚れしちゃう」

『ふふん。まあ私は色々と別格じゃからな』

『……偶々、見た目がいいだけ。無駄だらけ』

『ふん、ちっぽけなチビ助の僻みは気持ちいいのう』


「――何というか、色々と申し訳有りません」

「いや、何というか……こっちも、悪いな」


 ――サクラとルシエラが軽く口喧嘩をしているのを見ながら、互いに小さく息を漏らす。

 サクラもそうだが、オルカとメネスも合わせれば、少し手狭な浴場には5人という大人数で。

 今までは基本誰かと一緒に、二人でしかこういう所には来ていなかった俺には、どうにも新鮮で落ち着かなかった。


『どうせ、オババはそこかしこ垢だらけ。ばっちいから洗ってあげる』

『……小便臭いチビ助が何か言っておるのう。良かろう、お姉さんがしっかり洗ってやろうではないか』


 そんな中、ルシエラとサクラはビキビキと額に青筋を浮かべつつそんな言葉を言い合って。

 それでもまあ、暴れだしたりしない辺りじゃれ合っているだけなんだろうが……やがて、互いにぶつくさ文句を口にしながら身体を洗い始めた。


「……サクラもあれで、普段同族が周りに居ませんから。きっと、同じ目線で語れる同族と会って嬉しいのでしょう」

「ん?あれ、お前の槍は――」

「ラージャは、人の形になれるほどの物ではありませんので」


 オルカの言葉に少しだけ成程、なんて思ってしまう。

 そう言えば、こうやってルシエラ以外にちゃんと言葉を口にしたり、人の形を取ったりする魔剣……いや、魔刀に会ったのはこれが初めてだった。

 この体になる前でなら、何人かあった事はあったけれど……もしかしたら、ルシエラも孤独感を感じたりしていたんだろうか?


「ああしてみると、仲のわるーい姉妹みたいだねー」

「良いところ母娘じゃねぇかな、姉妹にはちょっと無茶があるだろ」


 無理やりサクラを押さえつけて身体を洗うルシエラは、どこか楽しそうで。

 サクラの方はまあ、結構嫌がっているようではあったけれど――それでも本気で抵抗していない辺り、何かしら思うところは有るのだろう。


 思わぬルシエラの一面を、表情を見て、俺は思わず口元を緩めながら……


「それじゃ、私達も身体洗っちゃおっか。さっさと湯船に入らないと風邪引いちゃいそうだし」

「おや、今日はちゃんと身体を洗うのですね、メネス。いつもは――」

「私だって小さい子達の前じゃちゃんとしますよーだ」


 ……二人の言葉に、ふと疑問が頭に浮かんだ。

 そう言えば、ルシエラはサクラにかかりきりだし、おれは誰に洗ってもらえば良いんだろう――?


 そんな甘えた考えがぽわんと浮かべば、俺は直様頭を振ってそれを振り払う。

 いやいやいや、何を考えてるんだ俺は。

 そうだ、落ち着いて……例え拙くとも、軽くお湯を浴びて身体を流すくらいなら問題ないだろう、俺だって。


 そんな事を考えつつ、お湯を汲めば頭から被り、小さく息を漏らす。

 そう言えば、傷が塞がるまでの間はこうして湯浴みじゃなくて濡れた布地で拭いてたからか、こういうのが妙に心地いい。

 ぷるぷると頭を軽く振って水気を払えば、そのまま俺は湯船の方へと向かって――


「――悪い子はっけーん!」

「ひゃ、わっ!?」


 ――湯船に足をつけようとした瞬間。

 ひょい、と俺の身体は唐突に宙に浮かび、背中に感じる柔らかな感触に素っ頓狂な声をあげてしまった。


 背後に視線を向ければ、そこにはにんまりと笑みを浮かべるメネスの姿があって。

 眼と眼が合えば、メネスは俺を抱きかかえたままトコトコと姿見の前まで戻っていく。


「ちょ、な、何だよ」

「私達の会話を聞いておいて、身体を洗わずに入ろうとは中々な悪ですなー……なーんて」

「メネス、余り失礼な事は」

「大丈夫大丈夫、私はこういうの慣れてるから!」


 そのまま俺を膝の上に抱えるようにしてしまえば、逃さないというかのように太腿を股がされるようにされてしまって。

 俺は、脚を無理やり開かされてしまうと顔を熱くしつつ――そんな俺を見ながら、メネスは両手を泡まみれにすると、俺の身体に滑らせはじめた。


「~~……っ、ん……」

「ほーら、しばらくお風呂入れなかったんでしょー?ダメだよー、ちゃんと洗わなきゃ」


 ふざけた様子で、しかし至極真っ当な言葉を口にされてしまえば、俺は何も言い返せずに、こくん、と頷いてしまう。

 事実、メネスの手が身体を滑り、磨くように洗っていくのは心地よく。

 口から勝手に漏れる声が少し恥ずかしかったけれど、まあこのまま洗わないで済ませるよりは良いか、なんて考えて――……


「……わ、ひゃっ!?」


 ……唐突な擽ったさに、その思考が中断された。

 見れば、メネスの指先は俺の足裏。成程そこは確かにこう、過敏だから洗おうとしてくすぐってしまった、みたいな事もあるんだろう。

 俺はそう考えて納得すれば、もう一度心地よさに身を委ねようとしていた、のだが。


「んっふっふ」


 ――やばい。

 メネスはどうやらそういうタマではないらしい。


「あ、ひゃっ!?あひゃひゃっ、きゃふっ、あははははっ!!」

「ふっふっふー。エルトリスちゃんはくすぐったがりと見たっ」

「ひゃめっ、こりゃ、あっ!あはっ、あははっ!ひーっ!!」


 足裏に、腋に、脇腹に。

 こしょこしょと這う指先に耐える事ができず、口からは勝手に声が溢れ出す。

 擽ったさから逃れようと身をよじっても、脚をを広げたまま抑えられているから逃れられずに、メネスの膝の上で踊らされるばかりで。


 やばい、これ有る意味アルカンとやりあった時よりもキツい――!!!


「――いい加減にしなさいっ」

「へぶっ!?」


 ――そんな、色んな意味でキツい地獄はその一喝と共に終わりを告げた。

 ひゅー、ひゅー、と喉を鳴らしながら視線を向ければ、そこには拳骨を振り下ろしたのであろうオルカと、それをまともに受けたであろうメネスの姿があって。


「さっさと湯船に入りなさい、もう……ごめんなさいエルトリスさん」

「は、ひゅ……っ、ら、らいじょ……ぶ……」

「う、ぐぐ……もう、ちょっとしたスキンシップなのにー」


 頭を抑えながら悶ているメネスから、俺をひょいっと抱き上げると、オルカは心底申し訳無さそうに言葉を口にして。

 そんな風に謝られてしまえば――まあ、悪意があってやってたわけじゃないのも解ってるし、俺はまだ呂律が回らない口で、軽く言葉を返した。


 メネスは少し不満げだったけれど、オルカに軽く睨まれてしまえば、そさくさと身体を流して湯船に向かい。

 そんなメネスの様子を見ながら、オルカは小さく息を漏らすと俺を膝の上に載せた。


「……本当に申し訳有りません。後は、髪の毛ですね」

「あ……う、うん」


 メネスよりも、十数――或いは数十cmは高い背丈。

 エスメラルダよりは低いとは言っても十分長身といえるオルカは、何というか色々とメネスとは対照的だった。


 メネスは女性にしてもやや低めの背丈で、そのくせ出るところがしっかりと出た妙に女性的な体型だったけれど。

 オルカは、その高い背丈とは対照的に胸元は控えめで、しかし腰回りはしっかりとしており。


「ん……っ」

「痒い所は有りませんか?」

「ん、大丈夫……」


 恐らく、器用ではないのだろう。

 オルカの指先はどこかたどたどしさを感じさせるものだったけれど、此方に気を使ってくれているその洗い方は、メネスとは違った意味で心地よく。

 俺の長い髪の毛をしっかりと、丁寧に洗ってくれれば……そのまま、頭から軽くお湯を浴びせかけて。


「これで、良し……と」

「ありがとな、オルカ。にしても……二人共、妙に慣れてるんだな」

「慣れて……ああ、それはまあ。道場では他の弟子達の体を流したりもしますから」


 軽く言葉を交わしつつも、膝の上から降ろされると軽く頭を振って、立ち上がる。

 ……まださっきの擽り地獄のせいか、ちょっと足元がふわふわしていたけれど、まあ大丈夫だろう。


『……垢まみれの、オババ。洗い終わった』

『下手くそめ、全く。随分と時間がかかったではないか』


 全身くまなく洗われたのか、少し消耗している様子のサクラに、まだまだ余裕たっぷりそうなルシエラに視線を向けつつ。

 ともあれ、一息つこうと俺はオルカと並ぶように歩きながら――既にのんびりと湯船に浸っているメネスから、少し離れた場所に腰を下ろした。


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[良い点] 惜しい!後ちょっとでメ○堕ちだったのに( ˘ω˘ )! [一言] 尊い光景
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