4:異世界での最初の食事
何をご馳走すればメリッサは喜んでくれるのだろうか?
ステーキ・寿司・ラーメン・ピザ・・・etc。
いろいろ考えられるが、これといったものが思い浮かばないでいたので、本人に直接聞いてみる。
「メリッサ、何か食べたい物はある?」
未だに壁のほうを向いて、しどろもどろしているメリッサだったが、俺にそう聞かれてしばらく逡巡した後、メリッサは遠慮がちに口を開いた。
「食べられるのなら何でもいいですけど・・・。強いて言うならパンが食べたいです。」
パンか・・・。
それならアレしかないよな。
またもやスキルを使用して、俺は頭の中に例の食べ物を想像する。
「───!?」
何もない空間から食べ物が急に湧いて出てきたことにメリッサはひどく驚いて目を丸くしていた。
スキルを使って俺が生み出したのは、日本の・・・いや世界で人気のジャンクフードの一つである───ハンバーガーだった。
ついでにフライドポテトも用意する。飲み物はやはりコーラだろう。
こうして今日の昼食であるハンバーガーセットが出来上がった。
早速俺たちはいただきますをするが、メリッサはなかなかハンバーガーを口にしようとはしなかった。
─────それもそうか。
あれだけの戦闘の直後なのだ。
いくらお腹は正直だと言っても、理性がそれを拒否しているのだろう。
ましてや女の子だ。無理もない。
そう思い、俺は無理して食べなくてもいいと言ったのだが、メリッサは首を横に振った。
どうやらメリッサはハンバーガーに抵抗があるらしいのだ。
まぁ、見たこともない食べ物だからメリッサの気持ちも理解できる・・・って、そんなことかい。
てっきり、ゴブリンとの戦いが原因で食事が喉を通らないのかと思ったが、全然そんな事はなかったようだ。
見本に俺がハンバーガーにかぶりつく。俺にとっても久しぶりの食事だったので、ハンバーガーがめちゃくちゃ美味しく感じてしまった。
ハンバーガーってこんなに美味しかったっけ?
パンの中に挟んであるお肉とソースが絶妙にマッチしている。そこにレタスのシャキシャキ感が加わり、マヨネーズがより一層ハンバーガーの美味しさを引き立てていた。
俺が美味しいそうにハンバーガーを食べているのを見て、メリッサはゴクリと唾を飲み込んだ。そして恐る恐るだが、ハンバーガーに口をつけた。
───ガブリッ
その瞬間、メリッサの表現がパァッと明るくなった。
「美味しい!」
そう言って、メリッサはあっという間にハンバーガーをペロリと平らげてしまった。
続いてフライドポテトも進めてみる。
───パクっ
「これも美味しい!」
幸せそうな表情を浮かべて、メリッサはポテトを次から次へと口に運んでいく。
どうやらフライドポテトもメリッサのお口に合ったみたいだな。
その光景を、俺はコーラを飲みながら眺めていると、メリッサがコーラに手を伸ばした。
最初はシュワシュワと泡立つ炭酸に不信感を抱いていたものの、俺が普通に飲んでいるのを見て自分も大丈夫だと思ったのだろう。
メリッサはコーラを一気に口にしようとして・・・盛大に咳き込んでしまった。
「ゴホゴホゴホッ・・・。こ・・・これは一体何ですか?喉がツーンとしました」
コーラを指差しながらメリッサは涙ながらに必死に訴えかけてくる。
「それはコーラという飲み物だよ。初めての人には少しキツイかもしれないけど、慣れたらすごく美味しいよ!」
メリッサが噎せている横で、俺はコーラの残りを一気に飲み干してみせた。
そしてしばらくしてメリッサもようやく慣れたのか、コーラを片手にポテトを口に運んでいる。
その後、昼食を食べ終えた俺たちは食後のティータイムを楽しみながら、これからの事について話し合った。
この後、メリッサはすぐに街へと戻るらしい。
メリッサの話によれば、今俺たちがいる場所からメリッサの住む街までは徒歩で約五時間近くかかるのだとか。
───五時間!?
これが俺の素直な感想だった。
五時間も歩くなんて何かの拷問かなにかでしょうか?
それと同時に、俺たちが今どれ程辺鄙な場所にいるのかを思い知ることになったのだ。
───マリーの奴め!とんだ場所に俺を転生させてくれたな
やはりアイツを信用すべきじゃなかったようだ。
マリーへの怒りをぶつけるようにコーラの入っていた紙コップをくしゃくしゃにする。
「もうそろそろ帰らないと、家に着く頃には日が暮れてしまいますから」
ハンバーガーの包み紙を名残惜しそうに見つめながらメリッサはその様なことを口にした。
現在の時刻はすでに昼を回っているものと思われる。
時間はやはり大切だ。
だが、このファルサリアという世界に時間という概念が存在するのかは甚だ疑問だった。
試しにスキルを使用して腕時計を生み出してみる。
しかし案の定、時計の指針は動いていなかった。つまり、正確な時間を計る術は無いということである。
これも経験を積み重ねていくしか手はないな。
そう割り切った俺にある一つの案が思い浮かんだ。
そうだ、スキルでバイクを生産すればいいんじゃないか。
ここは森の中だ。
車だと木や枝などが邪魔してちゃんと前に進むことは困難を極めるが、バイクだとそんな心配も無用であった。
バイクなら小回りも効いて、少し注意するだけで難なく森の中を走ることが可能だと思われたのだ。
それならメリッサも日が暮れる前に家に帰ることが出来るだろう。
そうと決まれば、行動あるのみだ。俺は頭の中にバイクをイメージする。
こういう場合は、どういったバイクがいいのだろうか?
原付か?いやいや、ここは大型二輪しか考えられないよな。
映画とかでも後ろに女の子を乗っけて、森の中を敵から颯爽と逃れるシーンがあったっけ。
そんなことを思い出しながら、俺は大型二輪バイクを呼び出した。俺の前に立派なエンジンを備えた黒色のカッコいいバイクが現れる。
だが、ここで一つ問題があった。
───俺、大型二輪の免許持ってないんだよなー
日本では車の免許しか所持していなかったので、法律上は俺は大型二輪に跨がることはできなかった。
しかし、ここは日本じゃない。異世界なのだ。ならば、何も問題ないだろう。
早速、俺はバイクに跨がり、エンジンをかける。
───ブンブンブンブンブンッ・・・ドゥルルルッ・・・
「それは一体何ですか?」
今まで事の成り行きを黙って見守っていたメリッサだったが、ついに堪えきれなくなって俺に聞いてくる。
「これはバイクさ。これでメリッサを街まで乗せてくよ!」
「・・・バイク!?」
またもやメリッサの頭上に?マークが付くが仕方ないだろう。
俺も上手く説明できる自信がなかったので、メリッサにヘルメットを投げた。
「さぁ、早く乗って!時間無いんでしょ」
「でも悪いです。昼食までご馳走になった上に、家まで送って貰うなんて・・・」
なかなかバイクに乗ろうとしないメリッサに、俺は業を煮やして無理やりメリッサを後ろに乗せた。
「俺もメリッサの住む街をこの目で見てみたかったから、そのついでさ!バイクから振り落とされないように俺の体にしっかり捕まってなよ!」
そう警告され、メリッサは俺の体に腕を回してきた。
まさか、異世界で女の子と二人でツーリングっぽいことをするなんてな。
この時ばかりはマリーに感謝した俺であった。
「それじゃあ、出発するよ!」
「・・・はい」
メリッサの返事を聞いて、俺はバイクを走らせた。
魔物が住む危険な森の中を悠然と走り抜ける一台のバイク。
この後、森に入っていた冒険者の一向が森の中に響くバイク音を「森が怒っている」と勘違いして、ギルドに報告し、後に捜索隊が組まれることになるのだが、それは俺の知る所ではなかった。
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