3:異世界での最初の戦闘
ゴブリンとの戦闘の前にメリッサに確認しておくことがあった。
「メリッサ、君の戦闘スタイルは何?」
「遠距離からの魔法攻撃です!」
俺の質問に間髪入れずにメリッサは堂々とそう言い切った。
メリッサの口振りから見ても魔法には相当な自信があるみたいだ。
聞けば、メリッサの得意魔法は火の魔法らしい。
火の魔法に『火弾』というものがあるらしく、それを使ってゴブリンを倒すのだとか。
それなら問題ないな。
もしもメリッサが接近戦が得意だと言ってきたらどうしようかと思ったが、そんな俺の心配も杞憂に終わったみたいだ。
ゴブリンとの戦闘における俺の作戦は次の通りである。
まずはゴブリンの半数をメリッサに請け負って貰い、もう半数を俺が担当するつもりだった。
攻撃は家の中から行い、外には一切出ない。
窓を開けて、メリッサは火弾を。俺はというと・・・これだ。
スキルを使って、戦争で多用されるような機銃の一つであるマシンガンを生み出した。
これを使って、俺はゴブリン共を一掃する考えだった。
だが一つ懸念されるのは、現代の兵器がゴブリン共に通用するのかという点である。
もしマシンガンがダメならば、俺は戦う術を失ってしまう。あとはメリッサ頼みになってしまうわけだが、それだけはなんとしても避けたかった。
俺が手に持つ黒い金属の塊を見て、メリッサがポカーンと口を開けていた。
「それは・・・何?」
「ああ、マシンガンという武器だよ」
「・・・マシンガン?」
頭上に?マークを浮かべるメリッサに対して、俺は手短にマシンガンについての説明をするが、彼女はそれでもマシンガンに懐疑的な目を向けていた。
しかしこの後、彼女はマシンガンの威力を嫌というほど知ることになるのである。
もう少しで家の扉が壊れそうだ。
俺達は急いで二階へと駆け上がる。先程示し合わせた通りにそれぞれ所定の位置へと着くと、俺は徐に攻撃開始までのカウントダウンを始めた。
「3・・・2・・・1・・・今だ!」
俺の合図を基に戦闘の火蓋が切って落とされた。
勢いよく窓を開けると、マシンガンを片手に俺はゴブリン共に向けて発泡する。
バババババ・・・バババババ・・・バンバンババババ・・・
耳をつんざくような轟音とともに銀色の鉛が音速の速さでゴブリン共に向かったと思ったら、次の瞬間にはゴブリン共がバッタバッタと倒れていく。
地面に伏したゴブリン共の体の至る箇所が銀色の鉛に貫かれており、そこから大量の血が流れ出していた。
どうやらゴブリンにも現代の兵器は通用するみたいだな。
唯一の心配事が解消されたことで、俺は少し安堵する。
そこで、俺はある事実に気づいた。
何故俺は何の躊躇いもなくこんなにもあっさりとゴブリン共を殺しているのだろうか?
目の前に広がるゴブリン共の死体を見ても俺は何も感じなかった。
そう、何も感じないのだ。
普通なら生き物を殺せば、何らかの喜怒哀楽を感じるものだが、今の俺にはそれらの感情が一切欠如していた。
これも転生による影響なのだろうか?
もしそうだとしたら、これは俺にとっていいことなのか悪いことなのかわからないな。
ゴブリンなどの魔物ならまだしも人を殺すことにも躊躇しないとなれば、それはもはや正常な人間とは呼べないような気がした。
しかし、この世界では日本の法律は通用しない。
人間を殺してもおそらく罪にすらならないのかもしれない。そう考えると、俺も自身の変化をポジティブに受け止めるしかないのかもしれないと思った。
そんなことを考えていると、隣の部屋から物凄い爆音が聞こえてきた。
横を覗き見れば、窓からメリッサがゴブリン共目掛けて火弾をぶっ放しているところだった。
メリッサの掌から勢いよく放たれた火弾がゴブリン共目掛けて一直線に飛んでいく。そして標的に着弾すると、ゴブリン共は炎を上げながら燃えていた。
燃え盛る炎の中で、ゴブリン共の断末魔だけが森の中へと響き渡る。だがそれも数秒の後に、全く聞こえなくなってしまった。
後に残ったのは、黒く焼け焦げたゴブリン共の死骸だけだ。
こうして俺達とゴブリンの戦い(結果的には一方的な蹂躙になってしまったが)は俺達の圧勝という形で幕を閉じたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
─────ゴトッ
ゴブリン共の最後の一体が地面に崩れ落ちるのを確認して、俺は静かにマシンガンを床へと置いた。
このマシンガンは見た目に反して結構重いのだ。それに反動もすごいので、ゴブリン共を一掃した頃には、腕が攣りそうなぐらいにパンパンだった。
壁にもたれ掛かって一休みしていると、メリッサが部屋へと入ってきた。
「ヤマト君、その武器すごかったね。なんか、こう・・・バババババーンって。そうしたら、ゴブリンたちが次々と倒れていくんだもん。すごかったよー」
床に置いてあるマシンガンを凝視しながらメリッサは興奮気味に語っていた。
「そうだな。俺も同意見だよ。それよりメリッサもすごかったな、あの魔法・・・」
魔法のあとに続く言葉が中々出てこない俺を見かねて、メリッサがその続きを言ってくれた。
「火弾!?」
「そう、それ!あんなにすごい魔法が使えるなら、魔物との戦闘の時にすごい戦力になりそうだけど。そっち方面の需要はないの?冒険者とか・・・?」
こういったファンタジー世界といえば冒険者という職業はマストだが、実際に実在するのか確証がなかったので、俺は恐る恐る聞いてみた。
「・・・うん。でも、私は火の魔法しか扱えないから、使える用途が限られてくるの。それに、妹を残して家を空けることはできないから」
聞けば、メリッサにはまだ8歳にも満たない幼い妹がいるらしい。その子を家に残して長期間外出するのには不安があるので、冒険者にはなれないのだとか。
冒険者とは、それこそ現代で言うところの太平洋まで漁船に乗って魚を取りに行く漁師によく似ていた。一度長期の仕事を請け負うと、それこそ一年近く家に帰れないこともザラにあるのだ。
そういった事情に加え、自分の魔法特性を考慮してメリッサは冒険者になるという選択をしなかった。
そんなメリッサの身の上話を聞いている時だった。
─────グゥー
メリッサのお腹が鳴った。
「───!?」
お腹の鳴る音を俺に聞かれたことがよほど恥ずかしかったのか、メリッサは顔を赤くしながら俯いた。
おそらく今日一日メリッサは何も食べていないのだろう。
自分の家は貧乏だと言っていたし、メリッサの性格から察するに、自分のことは後回しで家族を・・・妹を気遣うことのできる優しい性格の持ち主であることは今までの会話で見受けられたからな。
「よし、ちょっと早いけど昼食にしようか!」
そう言って、俺は勢いよく立ち上がる。
そして今まで羞恥に悶ていたメリッサの表情がパアっと明るくなったのだった。
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