2:異世界での最初の出会い
「これからどうしよう?」
森の中で一人置き去りにされてしまった俺は、近くの木に寄りかかって頭を悩ませていた。
この広大な土地を利用して一千万円稼ぐには一体どうすればいいのか?
まだ一年もあるのではなく、もう一年しかないと思って行動しなければ、本当に一年なんてあっという間に来てしまうだろう。
いやその前に、俺は一年後まで無事に生きていられるのだろうか?
心配事は尽きないが、ここでジッとしていても仕方ないので、何かしようと動き出した。
何かの本で見た気がするが、サバイバルに一番重要なものは衣・食・住であると書かれていたことを思い出したので、早速実践してみる。
しかし、衣服や食事は今すぐ必用かと言われるとそうでもない。
今一番重要なのは居住スペースを確保することだろう。つまり、建物を作るしかないのだが・・・果たして俺に作れるのだろうか?
そんなことを考えていた時、いい妙案が頭の中に浮かんできた。
そうだ、『クリエイト・ボックス』を使用して建物を生み出すというのはどうだろうか?
我ながらいい考えかと思ったが、懸念されるのは本当に建物が出てくるのか?ということだろう。
マリーの説明では、命ある生き物は生み出すことができないらしい。では、それ以外ならすべて可能なのか?
疑問は尽きないが、何か代償があるわけでもないので、とりあえず実践あるのみだな。
でもその前に、この森をどうにかしないとな・・・。
木々が邪魔して、家を建てることができないので、まずは生い茂る木々の伐採から始めることにした。
頭の中でチェーンソーを思い浮かべる。伐採といえばチェーンソーだろう。
すると、一瞬にして俺の手前に鋭利な刃の付いたチェーンソーが出現した。
このスキル、マジで便利だわ。
これさえあれば1千万円稼ぐのなんて簡単じゃないのか?
というか、これで1千万円生み出すのが手っ取り早いんじゃ・・・?
すぐに頭の中で現金で1千万円を想像するが、何も起こらなかった。
どうやら現金を生み出すことはできないようだ。
まぁ、そうだよな。
これで現金が出てくるようなら本末転倒だろうに。
気を取り直して、俺はチェーンソーを使って木々をバッサバッサと切り倒していった。
ある程度木々を切り倒したところで、少し休憩がてらに水を飲む。
もちろん、この水も『クリエイト・ボックス』を使って生み出したものだ。
その後も、俺は精力的に森を開拓していき、ようやく家が建つぐらいまでに森を開拓することに成功した。
早速、俺は『クリエイト・ボックス』を使って頭の中で手頃な家を想像してみる。
すると、程なくして立派な二階建ての大きな家が出現した。
やったー、成功だ!
これで当面は寝る場所の心配はしなくて済むな!
それよりも『クリエイト・ボックス』で作り出した家の中がどうなっているのか気になってしょうがなかったので、すぐに家の中へと足を踏み入れてみる。
やっぱりな。家の中はある意味俺の想像通りだった。
端的に言うと、中はもぬけの殻だったのだ。家具も何もなく、ただ部屋の空間だけがそこには存在していた。
あの時、俺は家の外観しか想像していなかったので、家の内装までは具現化されなかったのか。はたまたそうではないのか。これも後でじっくりと検証してみる必要があるが、今はしない。
チェーンソーで木々を切りまくったせいで、俺の体はすでにヘトヘトだったのだ。一応ステータスで確認してみても、俺の体力ゲージが少し減っているのがわかった。
疲れたから、もう寝よう!
そう思い、家の床に寝転がると、俺はひんやりとした気持ちよさを覚えて眠気が余計に増してくるのを感じる。
そして瞬く間に、俺は深い眠りの中へと落ちていった。
こうして俺の異世界生活一日目が幕を閉じたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
深い眠りから目が覚めると、外はすでに朝方だった。
どうやら半日以上は寝ていたらしい。
一度大きく背伸びをしてから起き上がると、目の前に見知らぬ少女が立っていた。
「───!?」
どうやら少女も俺が起きたのを見て驚いたらしく、すぐにその場から逃げ出そうとしたので、俺は慌てて彼女を追いかけた。
「ちょっと待って!」
逃げようとする少女の肩を掴んで引き留める。
すると、俺に肩を掴まれた少女は、すごく申し訳なさそうにペコペコと頭を下げて俺に許しを懇願してきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。家に勝手に入ったことは謝りますから、どうか許してくれませんか?」
「それよりも何で君はここにいるの?」
俺の率直な質問に少女は手もみしながらゆっくりと話し出した。
「あの・・・こんな場所に家があるのなんて知らなかったので・・・つい興味本位で・・・」
少女の理由を聞いて俺は納得した。
それもそうか。何もない森の中に急にこんな立派な家が建っているなんて普通に考えて怪しいものな。
「そっか。君の名前は何て言うの?俺はエンドウ・ヤマト。気軽にヤマトって呼んでくれ!」
「・・・メリッサ。私の名前はメリッサです」
恐る恐るではあったが、メリッサはちゃんと俺の質問に答えてくれた。
それと今更ではあるが、ちゃんと俺の言葉は通じるみたいだ。俺もメリッサの言葉を理解できているしな。
どうやら言語のほうは問題ないみたいだった。
見たところ、メリッサは10代半ばぐらいだと思われるが、どうだろう?
それにメリッサはすごく可愛かった。
茶髪のショートボブのような髪型で、顔立ちもすごく整っており、メリッサはまさしく美少女という言葉を形容するのにふさわしい女の子だろう。
俺がもう少し若ければ今すぐにでも付き合いたいものだが、如何せん28歳のオッサンが未成年に手を出すのは倫理に反する。
でも、待てよ。よくよく考えてみれば、今の俺は18歳の爽やかイケメンじゃないか。
それならば、何も問題ないな。などと勝手な解釈をしていると、メリッサがキョトンとしているのに気づいて、俺は慌ててお茶を濁した。
「ええと・・・ああ・・・そうだな。メリッサはどうしてこんな辺鄙な場所に一人でいるんだ?」
「実は、この森に生えている”アリテラ”という薬草を採りに来たんです。アリテラは熱や風邪によく効く漢方薬の成分に使われる材料でして、結構な値段で商人が買い取ってくれるんですよ」
メリッサが言うには、この森にはアリテラという貴重な薬草が生えているらしく、それを採って商人に売ったお金を生活の足しにしているのだとか。
それに詳しく話を聞いていくと、メリッサの家はすごく貧乏らしく、食事も満足に取れない状況が続いているので、自分も何とかして家族を助けなければという思いからの行動みたいだ。だからメリッサがこの森に毎日薬草を採りに来ていることを家族は誰も知らないらしい。
何故言わないのかとメリッサに訊ねたら、この森は魔物などと出くわす危険があるため街の人間はあまり近づかないようなのだ。だから家族に言えば、確実に森へ行くのを反対されるだろうからということらしい。
なるほどな。そういう理由から一人で森にいたのか・・・って、魔物が出るって!?
メリッサの話を聞いて、額から今までかいたこともないような汗が流れてくる。
魔物といえば、真っ先に思い描くのはゴブリンやオークの類だろう。
まさかこの近くにそういった魔物がいるのか?
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
そんな俺の不安が的中したのか、急に俺たちがいる家にドンという重い衝撃が走った。
窓の外を見てみると、ゴブリンの群れが家を取り囲んでいたのだ。
ゴブリンたちは手に剣や弓などの武器を持っており、確実に俺たちを襲いに来ているのは間違いなかった。
よく見れば、ゴブリン共の数匹が太い丸太を持って俺が建てた家の扉をこじ開けようとしているではないか。
あれが、先程の衝撃の正体だったのか。
今にも扉は壊れそうであり、あと何回かぶつけられたら確実に破壊されるだろうな。
俺はメリッサを見やる。
メリッサも戦う覚悟ができている目をしていた。
見かけによらず根性あるな。
いや、そうでなければ一人でこんな森へと来る勇気はないか・・・。
「よし、それじゃあゴブリン退治といこうか!」
俺の声を聞いてメリッサがコクりと頷く。
こうして俺の合図を皮切りに、ゴブリンたちとの戦闘が開始された。
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