VIII
「今から学校の屋上に行かないか?」
あれから少し気まずくなったからか、神月がこんな提案をしてきた。
「今から?もう校舎は閉まってると思うぞ」
「なら忍び込もう」
「バレたらどうするんだ?
めんどくさいことになるぞ」
俺はバレたら問題になることは嫌なので、否定の意見を出した。
「そこら辺は大丈夫だ」
何に対しての大丈夫なんだ?
「はぁ…で本当に行くのか?」
「あぁ。今から着替えてくるから待っててくれ♪」
神月は目を光らせて着替えに行った
俺に拒否権はないのか?
まぁいいけど……
………
……
…
「悪いな。さぁ行こう」
神月の私服は黒いタートルネックのセーターの上に白いトレンチコートを羽織って首に白いマフラーを巻いていた。
下はジーンズで俺は落ち着いた感じの服装だな思った。
「あっ……あぁ」
対する俺は制服で、端から見たら俺と神月は姉と弟に見えるかもなと思った。
それにしても……
「どうした?ボーっとして?」
「――いやなんでもない。
じゃ……行くぞ」
俺は不覚にも私服姿の神月に見惚れてしまったのだった……
………
……
…
「ここだ」
神月に連れてこられたのは校門とはまったく違うところだった。
「なんでこんなとこに?」
普通に疑問だったので聞いてみた。
「馬鹿みたいに校門から入るはずないだろ?普通に警備の人に見つかって帰れと言われるだけだ。それであれだ」
神月が指を差した方向にはフェンスに穴があった。
「……そこから入るのか?」
「そうだ。さぁさっさと行ってくれ」
「………」
その穴はそんなに大きくなかった。
入れんのかな?
「はぁ…」
なんか嫌だな…
………
なんとかフェンスの穴から校内に入ることができた。
穴をくぐった時に制服が破れかけたんだが……
「ふぅ…おい君そこに突っ立てないで早く行くぞ」
神月がいつの間にか横にいた。
思ったんだがこいつ人使い荒くないか?
「あぁ」
でもなんかこいつの言うことには反対できないんだよな……
「思ったんだが校舎にはどうやって入るんだ?」
「それにも抜かりはない」
「?」
「さぁ行こうか」
………
……
…
「この窓、実は鍵が壊れてて常に開いた状態なんだ」
そう言って多分被服室?の窓を開けた。
「なんでそんなの知ってるんだ?」
「前にこの教室を使った時に気付いたんだ」
なんで学校の人に言わないんだ?
「さぁ行こう」
なんか以外にめちゃくちゃすんなり行けるもんだな……
………
……
…
屋上――
特にハプニングもなく、ここまでたどり着いた。
一応ここは世間では名門進学校で通ってるんだろ?
大丈夫か?
「ここにこないのか?」
神月はいつもの場所までハシゴで行って上から訪ねてきた。
「今から行く」
握ったハシゴはとても冷たくて、登るときに手に凍傷ができるかと思った。
「………よっと」
登りきることができて空を見上げてみる。
「……やっぱここが一番だな」
「あぁ…ここが一番だ…」
満月の月が掴めそうなくらい近くにある気がした……
「ここはたぶん町で一番そらの景色が見やすい場所だったと思う」
「あぁ」
次第に会話が少なくなって静かな沈黙が流れたが、俺はそれも心地いいと思えた。
………
「……雪?」
空からは月明かりに照らされて美しさを増した粉雪が降ってきていた。
「本当だ…あんた寒くないか?」
「大丈夫だ。それより君は寒くないのか?」
「寒くない…」
「そうか……」
「………」
「………」
「……俺さ…」
「?」
「この数日で気付いたことがあるんだ。それは小さなことだけど俺にとっては大きなことなんだ」
「それはなんなんだ?」
「……俺は最近まで自分の人生なんてもうどうでもいいと思ってたんだ。希望や夢、楽しみなんて俺の人生にはもうないと思ってた」
「………」
「でもあんたに会ってから俺はそんなこと考えなくなった。あんたがここ数日学校を休んで俺はこれ気付いたんだ」
「それが君にとって大きなことだったのか?」
「……あぁ。だから」
俺が死ぬまでずっと……
「これから先、俺の傍にいていてくれないか?」
「………」
「おい。聞いてるのか?」
「……クッ……ハハハハ…
君、まさかそれはプロポーズか?」
「はっ?」
「そんな『これから先、俺の傍にいてくれ』なんて言われたことないぞ」
「悪かったな………嫌なら聞き流してくれ」
「……いいぞ」
「……?」
「君の傍にこれからもいてやる」
その時の笑いながら言った神月の笑顔は忘れられなくて、生きている間ずっと忘れられないんだろうと思った。
でも後に俺は後悔した。
神月にこんなことを言ってしまったことに………




