Epilouge:Kyo
彼が『発作』で倒れて5年の月日が経った……
私はその間にT大の医学部に進学し、医師免許を取得。そして、彼が入院している病院に就職することになった。
5年間の大まかな経緯はそんな感じだが、本当に長い5年間だった。
………
5年前
彼が倒れてから、私は学校が終わると、彼が眠る病院に向かうという生活をしていた。
彼が起きてることを願いつつ、彼の病室の扉を開けた。
「今日も来たんだね…。神月さん」
病室には、私に彼の症状を告げたあの時の先生がいた。
「…こんにちは」
「うちの看護士から聞いてるよ。天野くんが倒れてから毎日ここに来ているんだろ?」
「…はい」
「『発作』が起きてから、2週間か…。そろそろ目覚めてもいい頃だと思うんだけどね」
「え?」
私は先生の言葉の意味を汲み取ることができず、聞き返した。
「それはどういう…」
「今までの『発作』は1、2週間過ぎた頃に目が覚めている…」
「それじゃあ…」
私はその言葉に希望を見出だした。が、先生の続く言葉はそんな甘いものではなかった。
「『今まで』はね…。彼が起きる前にはある兆候が見られる。わかりやすいのは心拍数の上昇だ」
ベッドの横にある心電図を見てみると、昨日と変わりなかった。
「しかし、今見たところは昨日と変わりがない。ギリギリ生きてるといったところか…」
「そんな…」
「…薬の効き目が薄れてきてるのかもしれないな。彼の症状に合う薬を改めて調べてみる必要が有りそうだな」
「………」
先生の言葉を聞いて、私は地獄にでも突き落とされた気分だった。
「神月さんも落ち込まないでくれ。必ず彼は目覚めて帰ってくるよ」
「そんな…」
その言葉で、私の悲しみが怒りに変わってしまった。
「そんな言葉はいらない!! 彼が帰ってくるなんて、どこにも保証がないじゃないか!!?」
病院だということも忘れ、叫んだ。
―――これから先、俺の傍にいてくれないか?―――
あの言葉は嘘だったのか?
「いいや、保証ならあるさ」
「まだ……まだ言うのか!?」
涙を必死に堪えながら、先生に向かって叫んだ。
「…神月さんがいるからだよ」
…えっ? どういうことだ?
「天野くんはここに引っ越して来る前は隣の県にいたんだよ。隣の県から、この病院に初めて彼が来た時はびっくりしたよ。まるで死人のようだった」
先生は昔に物を思いながら、話を続けた。
「それで、珀愛学園に編入したぐらいかな? 天野くんに変化が起きた」
「変化?」
「表情がね…。明るくなったんだよ。天野くん自身は気付いてないかもしれないけど」
確かに彼を初めて見た時は、なんとなく生気を感じられなかった。それがいつからだろうな? 彼がよく笑うようになったのは?
「それはね。ずばり、神月さんの存在が大きく関係してると思うよ」
私が?
「大切な人ができたんだと思う。いっしょにいて、楽しいと思える存在がね」
私も彼と出会ってから、生きるのが楽しくなった気がする。それは彼が毎日、私の屋上にいて、話すことが多くなって、気が付いたら彼が傍にいるのが当たり前になっていた。私にとっても彼はとても、大切な存在だ…
「そんな存在ができたのに、ずっと寝てるような人じゃないさ。彼は」
そう言った先生は彼の額にデコピンした。
「早く起きないと、神月さんも愛想尽かしちゃいますよ」
「…先生」
先生の言葉は、私の心に深く届いた。
そうだ……。彼は私に傍にいてくれと言ったんだ。だから、彼の方から離れていくなんてない。
「それじゃあ、僕は仕事があるから戻るよ」
「先生!!」
病室を出ようとした先生を私は呼び止めた。
「なにかな?」
「私は彼が戻ってくることを願っています。私も彼を助けたい…」
だから…私は…
「T大の医学部に行きます。そして、大学を卒業したら、ここで彼の病気を直させてくれませんか!?」
それが私の彼のために出来ること…
「それは心強いな。待ってるよ…」
私は病室を出ていく先生に頭を下げた。
彼を目覚めさせてやる!!
そう心に誓った。
………
あの日から私はがんばった。そして、この病院に勤めることになり、彼の症状を研究することになった。沢山の資料を調べてみると似たような症例がアメリカであったらしい。
「これは使えそうだな…」
その症例に準えた薬を明日、彼に投与してみよう。
もし彼が目覚めたら、どんな話をしよう?
でも、この一言だけは絶対に言おうと思う言葉がある。
それは…
―――私の傍にいてくれないか?―――
私は昔、彼と屋上で見たような空を見つめながら、そう思っていた。
Epilouge:Kyo...
長々とやってきたましたけど、完結です。
色々と伏線が残ってるかもしれませんが、完結です。
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。by.Aki.