Epilouge:Riku
…眼が覚めると真っ白な天井が見えた。
―――ここはどこだ? いまはいつだ? おれはなにをしている?―――
その結論を出すために脳ミソの中にある最後の記憶を呼び起こす。
…俺は誰かと藍空を見ながら話をしていた。誰だ?
―――そしたら私はいつまでも君を見ていられるな―――
「神月!!」
そう叫ぶと同時に俺は起き上がった。
「…やっと、目が覚めたみたいだな」
隣で誰かがそう言ったのが聞こえた。
「…神月」
俺の横には白衣を着た神月がいた。
「君はどれほど眠るんだ。いい加減待ちくたびれたぞ」
「は?」
なんのことだ?
「私の絵を描いてくれるだろ?」
神月は白衣のポケットから一枚の紙を俺に渡してきた。
「これは…」
渡された紙には、いつか描いた神月のスケッチが描かれていた。俺はハッとして神月の顔を見る。
「なんだ?」
「…俺はどれくらい寝ていたんだ?」
「…5年だ」
「………そんなにか」
いつもなら、『発作』が起きても1、2週間で目が覚めていた。長いこと『発作』がこなかった分がきたのか…
「こんなに長いこと寝るなんて初めてらしいな」
考えていると、神月が話しかけてきた。
「あっ……あぁ」
「君が寝ていた5年間、私は色々あったぞ? まず、大学を真面目に通った。聞いてくれ。私はあのT大の医学部で首席を取ったんだぞ? で、そのまま卒業して、医師免許を取り、この病院に勤めることになった」
当たり前だが、俺が寝てる間にも、時間は進んでいるんだな…
「大学では沢山の男性がアプローチを掛けてきて、大変だったんだぞ? しかも、その中にはMr.T大のやつもいた」
その話を聞いて、少しムッとしてしまった。
「でも、どんな男性に愛の言葉を囁かれたとしても、いつもこう思うんだ。私は君がいい…と」
「…神月?」
口調が弱々しくなっていったのを不穏に感じ、神月の顔を見てみたら、瞳から一筋の涙が流れていた。
「…もう目覚めないかと思った。もう君と笑い合うことをさえ、できないと思った」
「…悪い」
見ていられなくて、俺は神月をおもいっきり抱き締めた。
「俺が屋上に行かなきゃ、こんなことにはならなかったはずだ。だから、俺が全部悪いんだ…」
「そんなことはない。君が私に笑顔を取り戻さしてくれたんだ。君と会ってなかったら、私はきっと、今も笑えていない」
「………」
「だから、私には君が必要なんだ」
「…俺はまた『発作』が起きるかもしれない」
「その時は私が君を起こしてみせるさ。君が今日、起きることができたのは、昨日、私が君に違う薬を投与したからだ」
そうか、そういうことだったのか…
「だから、私の傍にいてくれないか?」
この言葉は以前に俺が神月に言った言葉だった。
なら、俺が言うことは決まってるよな?
「俺の方こそ…頼む」
この言葉を聞いた神月は、俺に満面の笑みを向けてから、おもいっきり抱きついてきた。
…なぁ、神様がいるなら、この願いを叶えてくれないか?
―――この空の下だけにある彼女の笑顔の傍に居させてくれませんか?―――
…窓から見えた空は、あの日見た空のように青く澄んでいた。
だから、空の上にいる神様にもこの願い届くよな?
―――俺の物語は終わらない…。彼女が…神月鏡がこの空の下にいる限り―――
Epilouge:Riku
fin...