XII
「母だった人?」
あの写真に写ってた女の人か?
「…そう。私の唯一の肉親であり、もっとも大切だった人…」
そう言って神月はうつむいていた顔を上げた。
「あれは今年の初めのことだった。母が突然倒れたんだ…」
神月は眉を寄せて苦しそうに続けた。
「私が生まれる前に父は死んでしまったらしい。だから、母は私にとって唯一の肉親であり、もっとも大切な人だった。そんな母が倒れて私はとても動揺した」
「………」
肉親が誰もいないなんて……
まるで…
―――俺と同じじゃないか―――
「私は毎日病院に行って、母の看病をした。しかし、いくら日が経っても母の体調は良くはならなかった…
そしてある時、母の担当医は私にこう告げたんだ…」
『君のお母さんは癌なんだ。それも全身に転移していて治る可能性はない…』
………
「私はその話を聞いて自分の耳を疑った。そんなドラマのような話が私の近くで起こるなんて信じられなかったからな…それでも日が経つごとにそれが本当のことだと実感していった…
そして、3月の終わり頃、母は私にこう言った」
『鏡。死んだら人間はどうなると思う? 別に意味なんかないわ。ただどうなるのかなって思ってね…私はね。空の一部になると思うの。そして、大切な人をずっと見守るの…』
………
「その数日後、母は死んでしまった……多額の保険金と私だけを残して……」
俺はただ茫然と立つことしかできなかった……
―――だって、そうだろ? 俺と神月が出会って約1ヶ月。ゆったりとした平和な時間を過ごしてきたんだぞ? それなのに……
「母が亡くなってから、ずっとこの屋上で考えていた。」
「………」
「今、私はきっと母は空の一部になったのだと思える。そう信じれる。だから、もう迷わない」
太陽は沈み、夕焼けの空から漆黒の夜空に変わろうとしていた。しかし、まだ黒には成り切れず、深い青色だった。
「君は…」
綺麗な空だった……
見上げれば何一つ無い空…青一色。
まるでその青に呑み込まれそうになる。
いやもう呑み込まれてるのかもしれない。
「死んだらこの空の一部になれると思うか?」
―――そうだな。きっと
「そしたら私はいつまでも君を見ていられるな。」
ただその一言はうれしかった。これからあんたを
………!!
「君、どうしたんだ!?」
悲しませるとしても―――
でも俺はきっとこれからもあんたを見てられる…
この意味の無い空の一部になって――