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「なぁ」
今日も飽きることなく、俺は神月と授業をサボっていた。
「どうした?」
「突然だけどさ、やっと自分の本当の夢を見つけた」
「…教えてくれないか?」
「画家になりたい。有名になれなくてもいいから一人でも多くの人の心に残るようなそんな絵を描く画家に…」
俺は昔の夢を再び叶えたいと思うようになっていた。きっと俺には未来はあると思うから……
「いい夢だな」
「あんたにそう言われるとうれしいよ」
「それより、君は絵を描けるのか?」
「前の学校では美術部の部長だぜ?」
「それは初耳だな。今度、私でも描いてみてくれないか?」
「お安い御用だ」
そして今日はノートをちぎった紙を使って神月の人物画を描くことになった。
………
「………」
「………」
晴れた静かな朝だった。俺は黙々と絵を描きあげていった。
「…なぁ」
モデルの神月が突然不満そうな顔で言ってきた。
「どうした?」
「私はいつまでこうしていればいいんだ?」
「もう少しで描き終わるからその動かないでくれ」
「………」
神月は不貞腐れた顔した。まぁ無理も無い話だが、10分近く同じ態勢で絵の完成を待ってるんだからな。慣れないやつにはつらいだろう。
それにしても俺はもともと人物画はそれほど得意ではない。しかし10分で、もう描き終えそうなのは俺からしたらかなり早い方だ。ノートをちぎった紙を使って、シャーペンで描いてるからかもしれないが、俺はそれに驚いていた。モデルがいいからかな?
………
「できたぞ」
それからもう2、3分で出来上がった絵を神月に渡した。
「………」
神月は無言で自分の人物画を凝視した。
「悪いけど人物画は得意じゃないんだ。下手だと思ったなら正直に言ってくれていいぞ」
「…いや、とても上手だ。しかし、これは私か?」
「そうだけど、あんた自身に見えないか?」
「私はこんな美人ではないぞ…」
おいおい…
「前にも言った通り、あんたはかなりの美少女だと思うぞ?」
なんか真面目な顔して言うの恥ずかしいな…
「こんなスケッチより実物あんたの方が数段美人だ。それに俺はありのままを描いたぜ」
言い終えたら、神月は綺麗な笑顔になって、
「ありがとうな。大切にする」
この時、俺はやっぱり画家になりたいと思ったのは間違いではなかった。そう思えた。
「今度は油絵でもっと時間をかけて描いてやるよ」
「気持ちはうれしいが、さっきの時間であれだったんだ。ずっとじっとしてるのは私には無理みたいだ」
「いつか頼むよ。俺も、もっとうまく描けるように頑張るからさ」
「…わかった」
俺は絶対にもう一度、神月を描きたいと思った。絶対に……
………
「天野くん、神月さん。ちょっといいかな?」
授業も終わり、担任の連絡も終わったときに結城先生に声をかけられた。
「なんですか?」
「今日は何曜日かわかってる?」
今日は……
「金曜日です」
俺が答えるより先に神月が答えた。競ってたわけじゃないから別にいいんだが…
「そう!金曜日!何の日かわかる!?」
なんかあったけな?
「………」
この質問には俺も神月もわからないらしく両者無言だった。
「はぁ〜……あれほど言ったのに忘れてるみたいね…答えは進路選択の最終決定!!」
あっ……
「そうだった……」
今の今まで忘れていた。
「早く決めてくれないと先生も不安なの。酷な話かもしれないけどね……」
「そのことならもう決めてます」
!!
いきなり横から凛とした神月の声が聞こえた。
「私はT大の医学部、そして彼はまだ学校は決めれてませんが、能力にあった芸術学部を希望しています」
神月の進路については全く聞いたことがなかったので、T大の医学部というのには正直驚いた。
それより……
「お…「私はそれで話を進めておいて下さい。それより彼は最近、行きたい学部を決めたばかりで、学校はまだ決めかねてるらしいんです。先生が手助けをしてあげてください」
神月は俺が話に参加しようとする前に強引にそう言ってしまった。
「わかったわ……それじゃあ天野くん。少しばかり先生と話し合おうか!!」
「…はい」
「じゃあ私は帰りますね」
神月は俺にウインクして帰って行きやがった。
やられた…
この後、結城先生と二時間もしたくもない進路選択の話をする羽目になった。