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0.いつかの彼女 プエラフロイス




 ああ、やっとここまで来た。

 ようやく辿り着くことができた。


 これで夢が叶う。長年の夢が、もうすぐ叶えられる。



 ここまで来るのにどれだけの苦労したことか。

 この世界に生まれ変わって、産まれて来てから今日まで、この日の為に生きてきた。

 数々のフラグを立てては回収し、立てては回収しを繰り返すこと数百回。その努力がついに実を結ぶときが来たんだ!


 ああ、これでようやくお目にかかれる。

 やっと彼に出逢うことができる。


 わたしの愛しのプリンス、至高のイケメン、最高の王子様。

 ああ、早くお会いしたい。この目にあなたを映したい。


 あなたに会うためだけに、興味のない男達に愛想笑いをし、時には強気に拒み、寡黙に佇み、華麗に踊り、謀略を張り巡らせ、気の利いた言葉を囁いてきた。男達が望む女を望むままに与えてやってきた。


 それもこれも、すべてはあなたに出逢うため。

 隠れキャラである大好きなあなたを出現させるため。


 この国の第二王子様。レグルス王子殿下。

 わたしの、わたしだけの王子様!


 出現条件は、対象キャラ全員の好感度をマックスに上げること。かつ、バランス良く接して修羅場を回避すること。

 今日で全員の好感度はマックスになったはず。


 残念なのは、彼と出逢うためには記憶喪失イベントをこなさなければならないこと。

 イベントが始まると、私の記憶は全て綺麗に消えてしまう。残るのは、生活に必要な最低限の知識だけ。せっかく残ってる前世の記憶も、攻略方法の記憶も、これまでの努力も、全て消えてしまうらしい。


 どうしよう? 記憶がないわたしは、ちゃんと王子様に惚れてもらえるかしら?

 そう考える今のわたしの記憶も、すべて無くなっちゃうのよね。


 それともう一つ、好感度も消えてしまう。

 予定通りにイベントが進めば、これまで積み重ねて来た男達からの好感度が順番に失われていく。この十数年間の努力は水の泡と消える。


 ああそれでも、彼に逢えるのなら喜んで記憶を投げ捨てよう。他の男からの好意など全て打ち捨ててやろう。


 だってその為に、その為だけに、生まれた時から今日までがんばってきたんだもの。

 レグルス王子に出逢って愛されるためだけに、前世の記憶を頼りに乙女ゲームのこの世界で、ここまでイベントをクリアしてきたんだもの。



 コンコンっと、扉を叩く音がする。先生が記憶を消しに来たのでしょう。

 これでシナリオが始まる。わたしの夢が叶い出す。


 さあ、この記憶をあげましょう。

 そして、彼をわたしのもとへ。



 王子ルートをはじめましょう。




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