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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転生・転移関係

転生者、冒険者になって少しだけ世の中を変える

(なるほど)

といった調子で理解をしたのは3歳だか4歳だかの頃だった。

(転生ってやつか、それも異世界への)

 あまり驚きはない。

 このあたり前世の日本に、似たような創作物が数多くあったためだろう。



 いや、驚きはしても前提となる知識が少しはある。

 それらに実用性があるわけもないのだが。

 それでも心構えを手に入れるくらいには役に立ってくれた。



 それが実に大きい。

 おかげで少しは現状を受け入れる事が出来た。

 これからの事を考える事も。

(とにかく、まずは生き残らないとな)

 割と熾烈な現実に立ち向かっていく気構えをしていく。



 そんな男は、イオリと名付けられた。

 転生者である彼は、どういう経緯があったのか孤児院に身を置いていた。

 親が死んだのか、捨てたのか、はたまたそれ以外の理由があったのかは分からない。

 だが、気づけばここで他の子供達とすったもんだの生活をしていた。



 同じような境遇の者達がおおよそ数十人。

 それらが狭苦しいほど小さく古い建物の中、数人の大人達によって保護されている。

 もっとも、これを保護と言ってよいかは疑問であった。

 野ざらしにはなってない、一応食事は出て来るという程度の環境であり、それ以上ではない。



 躾らしい躾もほとんどなく、教育だってほとんどない。

 かろうじて読み書きと簡単な計算は教えてもらえる。

 だが、それ以上の事まで与えられる事はない。



 虐待というほど酷い扱いは受けないにしても、子供の養育環境として万全とは言い難いものがあった。

 保護者である孤児院の院長や養育担当者らしき大人達も、それほど子供との関わりに熱心ではない。

 仕事として義務で付き合ってるという風情であった。

 それでも、外に放置されてるよりはマシであるのだろうが。

 イオリやその他の子供達にとって、ここがよりよい場所という事にはならなかった。



 それに、孤児院の運営そのものもなかなかに歪なものである。

 だいたい5歳か6歳くらいになれば、小間使いとして働きにだされる。

 駄賃を稼がせられる事になる。

 現代日本で言うところの数百円程度の小遣いを得る為に、朝から夕方まで働かされるのだ。



 とはいえこの世界では珍しいものではない。

 一般的な人々も似たような事をしている。

 おかしいと考える者はほとんどいない。



 このくらいの年齢になれば、簡単な事から仕事をさせられる。

 読み書きや計算などもこれらの為といえる。

 手習いとして教育されるのは、生活に必要だからという理由が大きい。

 仕事をする為という。



(前世はかなり幸せだったんだな)

 現在の境遇と比較してそんな事を思う。

 周囲の状況から、おそらくは前世よりは文明の発展段階が低いであろう今生の世界は、生きていくのがかなり大変なようだった。



 実際、イオリも町の中で使いっ走りや、畑の手伝いに狩り出されるようになった。

 使いっ走りは文字通り使いっ走りで、仕事場で簡単な仕事をやらされる。

 物を持ってこいだの、これを届けろだの、あいつを呼んでこいだのといった調子だ。

 難しくはないが、一日中走り回る事もあるので子供の体力では大変だった。



 畑仕事の方も似たようなもので、雑草むしりから、道具の運搬まで様々な小間使いをやらされた。

 これらも仕事をまともに教えられる事は無く、誰かに聞きながら、やってるのを見ながら憶えるのが普通だった。

 そして、ちゃんと出来て当たり前、失敗したら怒鳴られるという理不尽さであった。

 やり方が分かってて失敗するならともかく。

 全くやり方が分からないのに、やれと言われて怒鳴られるのだからたまらない。



 それでも稼ぎを得ないとどうしようもないのも分かってる。

 孤児院は慢性的な資金難で、こうでもして養育の負担を減らさないとイオリ達自身にしわ寄せがくる。

 他に頼る当てもないので、やれる事をやっていくしかなかった。



 そんな風に過ごしてるうちに分かって来る事もある。

 孤児院の子供達は、この先十二歳くらいで追い出される事になる。

 それくらいの年齢になれば、商店や工房などに奉公に出る事になるからだ。



 一般的な就職がそれくらいの年齢からになる。

 これも珍しい事では無い。

 これがこの世界の普通で常識だ。

 現代日本とは社会のあり方が違うのだ。



 それでも生活が楽になるという事はなく、現状の延長のような状態が続くらしい。

 住み込みで働いて、給料ではなく小遣いを渡されるような状態が延々と。

 そんな馬鹿なと思ったのだが、この世界ではこれが普通のようだった。

 それだけ余裕が無いのだ。



 金銭もそうだが、食料や物資がそれほど豊かというわけではない。

 もちろん社会全体が困窮してるというほどでもないが、全てに行き渡るほどあふれてるわけではないのだ。

 様々な仕事は基本的に長男が継承し、他の兄弟はその手伝い。

 女の子はどこかに嫁に行くか、やはり家の手伝いで一生を終える。



 そして、家の手伝いをする事になる者達は、生活の面倒をみてもらうかわりに小遣いを渡されるくらいだった。

 こうでもしないと生活が成り立たないほど乏しい状態なのである。



 とはいえ、酷いと思えるのは、比較対象が現代日本だからだ。

 この社会が極端に酷いというわけでもない。

 この人生における社会も過去に比べれば大分発展している。

 過去に比べれば、今の方がまだマシになっている。



 この世界より、日本が発展しすぎてるだけなのだ。

 だからこの世界が酷い状態だと思ってしまう。

 しかし、この世界しか知らない者達は、今の方がまだ昔より良いと考えてる。

 それは何一つ間違ってないのだ。

 そして、こんな状態だからこそイオリのような孤児は不利な状況に追い込まれる。



 一家が生き残るだけでも結構大変な世界である。

 当然ながら他人に仕事を回すような酔狂な者達はそうはいない。

 できるだけ仕事は一家で確保し、他に流れない様にする。

 なので、仕事を持ってる家は他から人を雇うという事は滅多にない。



 人手が必要な作業はともかく、そうでなければ一家が仕事を継承していくのが普通だった。

 そして人手が必要な場合であっても、顔なじみを優先していく。

 なんの縁も無い者を雇うような事はまず発生しない。

 よほどの人手不足ならばともかく。



 そんなわけで、孤児や貧民と呼ばれる者達はどうしても後回しにされていく。

 この状況にイオリは震えるしかなかった。



 こんな状況の孤児や貧民が、多少なりとも稼ぐとなると道は限られていた。

 簡単に思いつくところを上げていけば、まずはヤクザやマフィア。

 それすら突き抜けて反社会勢力、いわゆるテロリストなどになる。



 あるいはこれらと正反対に、軍などにはいり兵士として最前線に向かうというのもある。

 女ならば売春などが代表格になる。

 更にここにこの世界ならではの存在も加わってくる。

 冒険者である。



 モンスターの存在するこの世界、それらを退治する仕事が存在する。

 それを担ってる者達を冒険者と呼んでいる。



 これらは就労するにあたって特に何らかの制限があるわけではない。

 モンスターを相手にするのでそれなりの能力や技術は必要だが、やろうと思えば誰も即座になれる。

 武器を持って野外に赴き、そこにいるモンスターを倒してくればそれで冒険者と認識される。

 あとはモンスターの体に埋め込まれてる核という器官を切り取って持って帰ってくればよい。



 魔力と呼ばれるエネルギーの結晶体である核は常に需要があり、買い取る者はいくらでもいる。

 これらを食っていけるだけ稼げれば生活は成り立つ。

 冒険者は実際にこれらをこなして仕事としている。

 それほど裕福な生活をしてる者は多くはないが、経歴や能力を全く問わずに従事出来る仕事となると、だいたいこれくらいしかない。



(他に比べればマシかな)

 小遣い稼ぎをしながら成長していったイオリは何時しかそう考えるようになった。

 売春婦などは男であるので論外である。

 仮に女に生まれてたとしてもなれるかどうかは分からない。

 この仕事、見た目が第一なので最低限の容姿がないとどうにもならない。

 それだけではなく、他にも様々な要素があるので簡単に始める事も出来ない。



 ヤクザやマフィア、テロリストなども同じである。

 そもそも全うに生きてくなら、これらを考慮に入れるわけにはいかないが。



 軍に入るのはこの中では比較的容易であるが、それでも大変なものではある。

 体力勝負な世界なので、最初の検査や試験でそこをまず確認される。

 ここで最低限の能力を示さなければ採用されない。

 採用されたとしても、送り込まれるのは最前線である。



 モンスターがいるこの世界、それらとの戦いは常に発生している。

 特にモンスターが押し寄せる場所には軍が常時展開し、終わりのない戦争を続けてるという。

 その為、一般採用された兵士はだいたいこういった地域に送り込まれる。

 生き残る確率は、かなり低いと言われていた。

 だからこそ、常時募集がかかってもいた。



 こういった仕事に比べれば、まだしもモンスターを相手にする冒険者の方が楽だとは思えた。

 話に聞くモンスターも、最弱の部類ならばごく普通の一般人でも倒せるくらいである。

 武器や防具の準備は必要だろうが、それならばどうにかなるのではと思えた。



 そうやって情報を集め、必要になりそうな物も出来るだけ用意をする。

 稼ぎは孤児院に渡っていたので資金はどうにも出来なかったが、出来る限りの事はした。

 そんなこんなで12歳になり、本格的に孤児院を追い出される。

 戻る場所は無くなったが、同時にこれで自由も生まれた。



 今までは小遣い稼ぎのために小間使いをしていたが、そういった制約もなくなる。

 早速、冒険者に仕事を斡旋する周旋屋という店にいき、登録を済ませる。

 こういった所に登録しなくてもモンスター退治は出来るが、所属していればそれなりに便利なのもこういった店である。

 モンスター退治以外の仕事をとってきてくれたり、倒したモンスターの核を買い取ってもくれる。

 必要な道具を仕入れてくれるので、あちこちの商店に出向く必要も無い。

 成り立てほやほやの冒険者としてはありがたい場所であった。



 いくらそう名乗ったとしても、仕事の実績がなければ誰も相手にしてくれない。

 そういった者でも比較的簡単に仕事にありつけるのは魅力的だった。

 それに仕事に必要な情報も持っている。



 彼等とて、成り立てほやほやの冒険者が無茶をして死ぬのをよしとしてるわけではない。

 出来るだけ生き延びて可能な限り稼いでくれなければ商売としてやっていけない。

 なので、手ほどき程度ではあってもある程度の事は教えてくれる。

 イオリに必要なのはそれだった。



 当然ながら最初から上手くいくわけもない。

 話は聞いてたし、道具はある程度揃える事も出来た。

 だが、簡単に倒せるほどモンスターは生やさしい相手ではない。



 人里の近辺までやってくるのはそれほど強いモンスターではないが、素人が簡単に倒せるものでもなかった。

 子犬ほどの大きさのあるネズミや、ほぼ同等の大きさのあるバッタなど、見てるだけでもおぞましい。

 他にも、同じくらいの大きさのカエルなどもいる。

 これらを相手に、何とか手に入れた安物のナイフで挑んでいく。



 残念ながら、一撃で倒す事は出来ない。

 さすがにそこまで弱くはない。

 とはいえ、メチャクチャ強いわけでもない。

 苦労はしても、12歳の少年でも倒せる程度だ。



 しかし、慣れてないせいもあり結構手こずる。

 飛び込んで体当たりしてくる勢いはかなりのものだ。

 食らえば体がよろける。



 ネズミの噛みつきも結構深刻で、噛まれた所に血が滲んでいた。

 それでもやってるうちにある程度のコツを掴み、少しずつ倒せるようにはなった。



 一日で30体ほどを倒し、その日の作業は終わった。

 どうにか持ち帰った核を精算し報酬を得る。

 日本円にして3000円程度の金額にしかならなかった。

 だが、一晩を過ごす事は出来る。

 それだけの報酬を得た事に、とりあえず安堵をおぼえた。



 それから単調な日々が続いていった。

 倒せるモンスターを倒してささやかな報酬を得る。

 その繰り返しをずっと続けていく。



 少しずつ貯めた金で武器を新たに手に入れたりしていった。

 手入れも同様に怠らない。

 防具も少しずつ手に入れていく。



 そうして一年、二年と経過していくと、自然とレベルも上がっていった。

 この世界の特徴の一つである。

 自分の能力や技術が経験値によって上昇していくのだ。



 成長速度は緩やかなものではある。

 レベルはなかなか上がらない。

 それでも日々の努力を積み重ねていけば、そこそこにはなれる。

 この成長がイオリの稼ぎを少しずつ大きくしていった



 そのおかげもあって、稼ぎも増えていく。

 冒険者生活三年目になる頃には、一日の稼ぎが6000~8000円ほどになっていたのだから。



 そんなイオリの所に、孤児院を追い出された者達が集まるようになった。

 自然な流れだろう。

 まがりなりにも成功してるのだ。

 後輩達も自然と頼るようになっていく。

 はっきり言って面倒ではあったが、それらを無碍に追い返す事も出来なかった。



 特段面倒見がよいというわけでもなかったが、同じ所にいた者達である。

 多少の仲間意識はあった。

 子供を放り出すのも気が引ける。

 何より、行く当てがなければ野垂れ死ぬか、窃盗などをしていかねばならない。

 それか、ヤクザやマフィア、テロリストである。

 そんな事をさせるわけにはいかなかった。



(しょうがないか)

 そう思って孤児院を追い出された者達を自然と引き受けるようになった。

 これが意外と大きな成果につながっていく。



 確かに孤児院から出て来た当初はさして役立つものでもない。

 せいぜい荷物運びが関の山だった。

 戦闘も簡単にできるわけがない。

 なのだが、それでも協力者がいると手間が格段に減った。



 戦闘も数人で囲んで殴りつければ簡単に終わる。

 一人当たりの能力が低くても数で補う事が出来た。

 全てのモンスターに通用するわけではないが、弱いモンスターが相手ならこれでどうにかなった。

 また、モンスターを探し回る手間も大分省ける。



 周囲を探索する人手が増えたし、見つけたモンスターをおびき寄せる事も出来た。

 そうやっていくうちに効率が上がり、稼ぎも安定していく事になる。

 レベルの上昇も確実なものとなっていく。



(上手くいってるな)

 そんな状況を眺めて安心する。

(今までのような事にはならずに済みそうだ)

 自分の置かれた状況との違いに胸をなで下ろしていく。



 イオリの後に来た子達は、イオリを頼りに出来る。

 だが、イオリ自身にはそういった相手はいなかった。

 なので、これからどうやっていくかは自分でどうにかせねばならなかった。

 先に冒険者になった者達で先輩と呼べるような者はいなかったのだから。



 もちろん、冒険者となったのはイオリが最初というわけではない。

 詳細は不明だが、他にも同じように冒険者になった者はいたのではないかと思ってはいた。



(その人達はどこにいったんだ?)

 そんな疑問を抱く事もあった。

 だが、冒険者を続けていくうちに、なんとなく孤児院の先輩達がどうなったのかは予想出来るようになった。

 おそらく、イオリがやってくるまで長生き出来なかったのだろうと。



 冒険者としての成功。

 それ以前の問題として、生存率というのはそれほど高いものでもない。

 何せやり方を教えるという事がほとんどないからだ。

 そこまで面倒見の良い者はそうそういない。



 少しばかり大きめの集団ならば事情は変わってくる。

 新人を鍛えねば戦力にならないからだ。

 だから、採用した新人を教育して訓練をほどこす。



 だが、それはあくまで身内だけ。

 外部の者達に手助けするという事はほとんどない。

 ことさら邪魔をするという事もまずないが。



 それぞれが対抗する競争相手だからというのもある。

 わざわざ競争相手を強くしてどうすんだ、という考えがある。



 そうでなくても、「そんな事してどうするんだ?」という意識もあった。

 何の縁故もない相手にやり方を教えてどうするのか?

 手助けする事にどんな利点があるのか?

 その意味や意義、利点が見いだせないのだ。



 その為、新入りが来ても特に手助けするという事は無い。

 周旋屋がやり方を多少教えはするが、せいぜいそのくらいである。

 イオリと同じように冒険者になっても、12歳そこそこの少年達が生き残れるわけがない。

 おそらく、ほとんどがそれほど長く続ける事もなく潰えていったのだろう。



 当たり前と言えば当たり前の話だ。

 イオリが生き残ってる事が奇跡に近いのだから。



 それも前世の記憶があるから、多少なりとも考える下地があったからである。

 他を圧倒するような能力があったわけではないが、それがあるから色々と考える事もできた。

 前世のおける数十年の人生経験は決して無駄ではなかった。

 誇れるほど大したものではなかったが。



 そんな調子で数年が経過していく。

 この頃になると、更に明確な変化があらわれるようになった。

 孤児院出身者の行き先が、イオリの冒険者集団に固定化されるようになった。

 元々他に行く当てのない者達だったから当然の結果だ。



 イオリもそれらを拒否する事なく受け入れてるのが大きい。

 よほど人間性の駄目な者は排除してるが。

 それでも、大半の孤児にとって、イオリはすがれる唯一の場所になっている。

 行き場の無かった孤児院出身者に、確実な勤め先が出来上がっていた。



 それに、イオリにも利点がある。

 イオリもこの頃になるとかなりレベルを上げており、より強力で稼げるモンスターを相手にするようになっていた。

 他の者達も同様で、集団で大分稼げるようになっていた。

 こうなってくると、孤児院から毎年定期的に人が入ってくるというのはありがたいものになっていた。



 何せ人手が確実に入ってくる。

 人員補充についての不安を少しは解消出来る。

 入ってきた者達の教育は手間だが、それをこなせば確実な戦力にもなってくれる。

 それは大きな利点になっている。



 収入が安定してくると、更に一歩踏み込んだ活動もするようになった。

 孤児院に差し入れを持っていき、食事や生活環境の改善に着手する事が出来た。

 食事もなかなか満足にとれなかった孤児達は、これで人並みにものを食べる事が出来るようになっていった。



 また、イオリの提案で学習に集中出来る期間を設けるようにした。

 今までも読み書きや計算は出来るようにはしてたが、それはあくまで小遣い稼ぎの片手間に行われていた。

 そうではなく、仕事などをせずに学習をする事に集中出来る期間を作った。

 基礎的な学力や知識を得てもらうためだった。



 単に読み書きが出来るだけ、計算が出来るだけではどうしようもない。

 もう少し見識を広げる、教養を身につけてもらいたいかった。

 最低限の礼儀作法なども。

 そうなれば、冒険者以外での勤め先を見つける可能性も出てくるからだ。

 それでもやはり、冒険者になる者が大半ではあった。

 こればかりはどうしようもない。



 そして、ヤクザやマフィア、テロリストなどになる者は極端に減った。

 これまで、どれだけの者達がこういった所に行ったのかは分からない。

 そんな事、わざわざ調べる者もいないので、正確な事は分からない。

 だが、そちらに流れる者は確実に減った。

 何せほぼ全員が冒険者としてイオリの所に来るのだ。

 そういった方面に向かうわけがない。



 同様に売春宿に売られる者もいなくなった。

 イオリの所で吸収してるのだから当然である。

 体力面の問題などで、女子にモンスター退治をさせるわけにはいかなかったが。

 それならそれで、他の仕事を割り振る事で居場所を作っていった。



 事務作業や荷物整理、食事の準備。

 そうしたモンスター退治以外の部分で支援してもらっていった。

 そのため、売春婦はどんどん減っていったが、それは決して悪い事ではないはずである。



 こうしてイオリの冒険者集団は孤児院仲間で自然と固められていった。

 他に道がないというのもあり、これは必然的なものになっていった。


 ただ、どうしても孤児院の存在が不要になるという事はなかった。

 貧民はどうしても発生する。

 そういった所に生まれた子供が捨てられる続ける。

 こうした事は後を絶たない。



 売春婦が子供を身ごもる事もあり、そこから流れて来る事もある。

 また、貴族が使用人を手をつけて子供が出来た、という事もある。

 落ちぶれて一家離散の果てに身寄りをなくす者も出て来る。

 なのでイオリの集団は結構長い間、孤児院から冒険者のなり手を受け入れる事となっていった。



 こうしていくうちに、冒険者として成功する者達が増えていった。

 イオリの集団は無理せず無茶をせずに稼ぎ続け、レベルを上げていった。

 そうしていくうちに、まとまった蓄えを作って家を構える者も出てくる。

 家族を持つ者も出てくる。



 まずはイオリがその最初の一人になった。

 同じように家を構える者も出てきた。

 そこまで稼げるようになれば、嫁をもらう事も出来るようになる。



 結婚して家庭をもつとなれば、好き嫌いだけでやっていけるわけがない。

 どうしても稼ぎは必要になる。

 その稼ぎをしっかりたたき出せるようになっているのだ。

 それならば結婚も出来るようになる。



 とはいえ相手は、やはり孤児院仲間が大半である。

 どれほど成功してるとはいえ、出自や育ちのあやしい者達に子供を嫁がせようとする者は少ない。

 例外もいくらかあるにはあるが、頻繁にあるわけもない。

 イオリや彼の仲間を相手にするような者達は、同じような境遇の者達になってしまう。



 それでも彼等は文句があるわけではなかった。

 同じような境遇でがんばってきた仲間同士だったのだから。


 そうやって所帯が増え、彼等が活動の中心としてる町に住処をこしらえていく。

 既に町の住人でひしめいてる内部には、さすがに無理だったが。

 町の外側ならばそれほど問題無く居場所を確保出来た。



 町の者達からすれば、そんなイオリ達を警戒した。

 彼らから見れば、胡散臭い連中であったのだから仕方ない。

 それらが近くにいると、どうしても警戒する。

 だが、生活に直接干渉してこない場所にいるなら問題にはしなかった。



 モンスターという脅威を取り除いてくれる貴重な存在でもある。

 近くにいるのはイヤだが、いてくれなければそれはそれで困りもする。

 そういうわけで、イオリ達が町の外側に住み着いてくれた事で安心する事が出来ていた。

 だいたいにおいて、町の外側には貧民が住み着いたりしている。

 今更それらが増えたところで……という思いもあった。



 町の者達の思惑はともかく、稼ぎを増やし、生活が落ち着いてきた事でイオリは更に次の段階へと進んでいった。

 元は孤児であっても、今は既に家を構え人並みの生活を手に入れている。

 子供もいずれは生まれるだろう。

 そうして生まれた子供は孤児ではない。



 その子供達がまともに生きていけるよう、その段取りをつけていきたかった。

 具体的にはイオリ達が苦労した努め先の確保である。



 既にある商店や工房といったまともな就職先は期待していない。

 そういった所に入りこむのが難しいのは変わっていない。

 だが、冒険者関係の仕事であれば話は変わってくる。

 必要な道具の作成に物資の買い付けなど、職人や商人に近い作業はある。

 それらを担当する者を、イオリ達で用意していった。



 イオリの所の仕事は、冒険者だけではない。

 それを支える仕事だって必要になる。

 規模が拡大するにつれ、イオリはその必要性を痛感していった。

 それらを担当する者達の用意や育成は必要不可欠なものだった。



 そんなこんなで20年、30年と過ぎていく。

 イオリ達の一団は町の外側の一角を、それこそ町と呼べるまでにしていった。

 彼等が用意した物資の買い付け部門は、そのまま商店になっていた。

 物品の製造を担当していた者達は、職人として工房を立ち上げている。

 モンスターを退けた場所を田畑にした者もいる。

 子供を教える教師になった者もいる。



 他にも人が生きていく上で必要な仕事をなしてる者達がいる。

 代わりにヤクザやマフィアやテロリストは減った。

 売春婦も以前よりは減った。

 孤児もいなくなったわけではないが、以前よりは減った。

 軍に入る者は以前と変わらずである。



 ただ、軍も新兵を確保するよりは、イオリ達のところから引き抜く事が多くなっていた。

 あるいは作戦の依頼をする事も多くなっていった。

 それなりの能力がある者を採用し、即戦力にするために。

 自分達の手勢から損失を出さずに作戦を遂行する為に。

 そういう外注先として、イオリの率いる集団は便利なのだろう。



 何にしても、町は以前よりは住みやすくなっている。

 それは間違いのない事であろう。



 その立役者となってるのがイオリだった。

 自覚はほとんどないが、彼が中心となって活躍したおかげで町は以前よりも発展していっている。

 特に大きな変化があったのが、孤児院とその出身者達である。

 今も孤児院は存在するが、かつてより建物は拡大拡張されている。

 以前に比べれば格段に快適な環境をととのえて。



 資金もイオリ達で受け持ってる。

 なので多少は余裕がある。

 何より子供達が孤児院を追い出された後の扱いに違いがある。



 冒険者が最大の行き先であるのは変わらない。

 だが、それ以外の道も少しは用意されていた。

 孤児院でしっかり教育をされてる者は、人材として重宝されている。

 それらは町の中にある仕事場から声がかかる。



 それでも採用人数はやはり少ない。

 狭き門なのは以前のままだ。

 だが、可能性が全く無いわけではない。

 それこそイオリが追い出された頃に比べれば雲泥の差がある。



 仕事を請け負ってる家が職業を継承する。

 この基本はそのままだ。

 しかし、そうした所でも、見込みのある者をとりたいと考える事はある。

 そうした場合に白羽の矢が立つのが、イオリの関わってる孤児院となる。



 町もまだ発展をしてる最中である。

 仕事は少しずつ、緩やかにではあるが増え続けてる。

 その分、働き口も増えている。

 それもあって、人手は常に求められている。

 そこにイオリの関係する者達が入る余地があった。



 もちろん、孤児よりは町の者達のほうが有利ではある。

 これは仕方がない。

 しかしこれらが問題になる事もほとんどない。

 町の住人達がイオリ達のところで仕事を見つけるのも難しいのだから。



 イオリによって発展してる町の外部。

 そこにある職場では、イオリの関係する者達の子供が優先的に採用される。

 イオリと仲間の家族であったり。

 イオリ達が世話になり、今では運営するようになった孤児院がだ。



 縁故関係で見れば、イオリ達の方と親密なのだから当然だ。

 町の者達の方が接点が薄い。



 それもあって、上手く棲み分けるようにもなってきてる。

 町の仕事は町の者達が担い。

 外部に出来たイオリ達の町では、イオリの関係者が仕事を担う。

 お互い、その領分をなんとなく守っていっている。



 極端にいがみ合ってるわけではないが、こういった線引きがどうしても発生していた。

 だからこそ孤児院の者達は、比較的有利にイオリ関連の所に就職する事が出来ていた。

 町の者達が自分達の身内を優先するように、イオリ達も同様に自分達に近い者を優先していた。



 ただ、交流が全く無いというわけではない。

 規模は町の方が大きいし、何かと発展もしている。

 新興住宅地として発展していってるとはいえ、冒険者集団の拡大のような状態がイオリ達である。

 規模としては町にはかなわない。

 取引相手として決して無視出来ない存在であった。



 必要な物資や技術などを手に入れるには、町との交流が必要不可欠である。

 同様に町の方もイオリ達がもたらすモンスターの核を必要としている。

 魔術を用いた道具を動かす為にどうしても必要になるので、取引関係を続けたいと求める者は多い。



 そんな利害の一致が彼等を繋ぎ止めていた。

 決定的な破局にならないよう注意をしながら。

 少なくとも、表だって侮蔑をするような事は双方慎んでいる。

 何かの拍子に崩壊しかねない間柄ではあるのだろうが、それでも両者は持ちつ持たれつな関係を維持しようとはしていた。



 そうしてイオリは生きてる間に自分の周りの状況を改善していった。

 世界の一角での小さな出来事ではある。

 だが、その周囲に与えた影響は大きなものだった。

 少なくとも身よりの無い者達に将来を与えていた。



 確実になれるという保障はないが、人並みに生きていける可能性を示した。

 それだけでも大きな成果だった。

 そういった境遇の者は、野垂れ死ぬしかなかった状況を変えたのだから。

 これだけでも、この地域で長く語り継がれるようになった。



 余談であるが。

 更に後の世になると、様々な人材を輩出する一団の創始者としてもあがめられるようになる。

 そこまで語り継いでいった者達の大半は、元を辿ればイオリと共に活動していた者達の子孫がほとんどだった。


 イオリはもともと男性の名前とのこと。

 なので主人公の名前として使ってみた。



 やってる事は今まで書いたのと変わらないかも。

 それらを手短にまとめただけとも言える。

 こういうパターンしかないというか。

 もう少し話の幅をひろげたいもの。



________________________



 面白いと思ってくれたら、評価点とかよろしく

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 そこまでは、という場合でも、「いいね」を押してくれると嬉しい






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 他にも短編はあるので、よろしかったらどうぞ。


「ふたつの国のお話」

https://ncode.syosetu.com/n2330ej/


「その恨み、はらします」

https://ncode.syosetu.com/n2888ej/


「ゾンビに囲まれて」

https://ncode.syosetu.com/n3368ej/


「聖者は教えを説いていく」

https://ncode.syosetu.com/n3820ej/


「魔族の国」

https://ncode.syosetu.com/n7030ej/



 最近滞ってるけど、長編もやってます。


「なんでか転生した異世界で出来るだけの事はしてみようと思うけどこれってチートですか?」

https://ncode.syosetu.com/n3761ef/


「捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった」

https://ncode.syosetu.com/n7019ee/





 ……R18とかもやってみたいなあ。

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