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彼氏が歩けば職質に当たる  作者: 紅井こい
8/8

第八話 一本の電話

 それは私たちが今のマンションに引っ越してきたばかりのことだった。

 引っ越しをしたので、免許の住所変更をいつ行うかを彼氏と話していた。

「住所変更、いつ行こうか?」

 私がそう言うと、彼氏は神妙な顔になった。

「えー、でも住所変更って警察署に行かないといけないんでしょ? 気が進まないなあ……」

「? 何で?」

「ほら、僕がポリスメンの巣窟におもむくなんて、それこそ鴨が葱を背負ってくるようなものっていうか、ヘタすれば逮捕されそうで……」

「完全に 容疑者の心理!  悪いことしてないんだからドンと構えてればいいんだよ」

「そうなんだけど、警察官に囲まれてると 何だか自分が悪いことをしたような気分になってきて……」

「パブロフの犬か!(ネコ好き彼氏だけど)」

 そんなやり取りからはじまった 不安いっぱいの新居での生活。

 現在五年ほど住んでいるのだが、実はこのマンション、色々と問題があった。

 それは何かというと、マンション自体はそれほど物騒ではないのだが(何だか どこの言葉か分からない言語を話している住人がたくさんいたり、ロビーにいるとあきらかに 反社会的勢力方面のちょっと怖い人に絡まれたりすることがあるくらいである)、隣のマンションで頻繁に 事件が起こっているのである。

「事件?」

「……うん。彼女の知らないときに、色々あったんだよ」

 詳しくは書けないのだけれど、テレビのニュースにもなった殺人事件の容疑者が住んでいたのである。

 ちなみに容疑者が住んでいた期間と、私たちが住んでいた期間はもろに重なっていた。

「もしかしたら僕たちも、知らぬ内に 犯人とすれ違っていた可能性も……(怖)」

「((((;゜Д゜))))」

 また 刃傷沙汰で、エントランスが血まみれになって黄色いテープが貼られていたこともあった。

 こちらは 傷害事件だったが、痴情のもつれが原因だったとか。

 完全に 呪われたマンションである。

「……しかも彼氏、最初はそっちのマンションも借りる候補として検討してたんでしょ?」

「……うん。内見をしてみて何となく気が進まなかったからやめて、隣にあった今のマンションにしたんだけど、本当にこっちにしてよかったと思うよ……」

「いやもっと離れたところにするのが一番よかったんじゃ……」

 そもそも住んでいるこの街自体、色々と キナ臭い話は絶えなかった。

 たとえばある朝に道を歩いていたら、どう見ても事件になりそうなレベルの 血痕が辺りにあったにもかかわらず、それはまったくニュース等に取り上げられることはなかった。

「どう考えても 闇に葬られたとしか思えない」

「(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル」

 それだけじゃなく危険ドラッグの特集で警察24時でも取り上げられたことがあるし、駅前で、なぜか踏切の遮断機の棒を持ったホームレスのおっちゃんとホストがケンカをしていたこともあった。

「遮断機の棒?」

「うん、遮断機の棒」

「……」

「……」

「ねえ彼氏、世の中って、不思議で満ち溢れてるね……」

 あの遮断機の棒をホームレスのおっちゃんがどこから持ってきたのかは、いまだに永遠の謎である。

 さらにマンションから歩いて十分のところでけっこう大きな 通り魔事件が起きたこともあったし、その近くにある裏道は江戸時代に 辻斬りが多発していたという曰く付きの道で、よく窃盗や恐喝などが起きている。

「なんだろう。日本の話のはずなのに、こうやって書き起こすと漫画に出て来そうな世紀末の スラム街の臭いしかしない……」

「たしかに。 肩にトゲをつけたモヒカンの兄ちゃんとかいそう……」

 とまあそんな感じに、 ちょっとばかりデンジャラスな街であるため、彼氏が職質に遭うのも、まあしかたのないことかもしれない。

 なので日々の職質を、彼氏は粛々と受け止めてきた。

 だけどある日、それだけじゃすまなそうな事態が起こったのだ。

「あれ、なんか携帯にすごいたくさん着信がきてる」

「? どうしたの?」

「マンションの管理会社からだ。何だろ?」

 こんなことは今までなかった。

 おそるおそる彼氏が留守電を確認してみると、そこにはこんなメッセージが残されていた。

『彼氏様の携帯で間違いないでしょうか? 警察より彼氏様にお聞きしたいことがあるとの捜査協力の要請が当社に入っています。これを聞いたら至急連絡してください』

 とうとう 逮捕キタコレ!?


次回:ついに彼氏は逮捕されてしまうのか……!

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