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彼氏が歩けば職質に当たる  作者: 紅井こい
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第六話 白い粉(後編)

 警察官二人に ナンパされて(違)交番に連れ込まれた彼氏。

 そこで待っていたのは、前科照会からはじまる熱い戦いだった。


 * * *


「それじゃあそこに座ってくれるかな」

「はあ……」

 交番内にあるパイプ椅子に座らされる。

 周りには警察官が五人ほど、がっちりと固めていた。

「まず名前と生年月日と、あと本籍地をここに書いてもらえるかな?」

「あ、ええと……」

 正直に書く。書いた紙は他の警察官に渡された。電話で何かを調べている模様。

 ああ、前科照会か……

「それで、これなんだけどね……」

 机の上に出された、ラップにくるまれた 白い粉。

 まあそうきますよね……

「あの、これは違うんです!」

 何か言われる前に、とりあえず釈明……いや説明を。

「これ…… 塩なんです!」

「塩?」

「は、はい。ええと、話せば長くなるんですが……」

 実はここのところ何だかついていないことが多かった彼氏。

 厄除けのために友だちと神社にお参りに行ったのだが、そのときにこう言われたのだった。


  ♢ ♢ ♢


「あのさ、言いにくいんだけど……」

「?」

「彼氏…… 生き霊が憑いてる」

「(((( (((;゜Д゜)))) ))」


  ♢ ♢ ♢


 まさかの 生き霊キタコレ!

 まゆつばもいいところな話だけど、そういう冗談を言うような人ではなかったため、信じた。

 何でも着物を着た長い髪の女の人の生き霊であるらしい。

 特に害はないらしいけれど、何となく気持ち悪かったため、その日の帰りにその足で「 粗塩」をデパートで買った。 伯方産らしかった。

 それを、ラップにくるんで持ち歩くことにしていたのだ。

 今思えばなぜラップ……と思わなくもないけれど、他に適当な容れ物がなかったため仕方なかったのだ。小瓶とかに入れてもそれはそれで別の意味で怪しかっただろうし。

 と、そういう経緯を説明したところ、

「生き霊、ねえ……」

 やばい。これはこれで キマってる人みたいだ。

 慌てて続けざまに色々と説明を付け加える。警察官は表情の読めない顔でそれを聞いていた。

 そして、彼氏の説明が一段落したところで、こう一言、

「……まあ、 これが塩だってことは見れば分かるんだけどね」

 分かるのかよ!

 だったら言ってよ!

 必死になって生き霊の説明までしたのは何だったんだよ!!

 ついつい語気が荒くなってしまった。

 世の中は無情である。

「これが本物だったら末端価格 数百万円くらいだからね。それじゃあ売人だよ。……あ、念のためちょっとベルトの後ろとか調べさせてもらってもいい?」

 まさかの売人疑惑!?

 とはいえ当然のことながらベルトの裏側には何もない。白い粉も他には持っていない。

 そこで前科照会をしていた警察官が戻ってきた。

 特に 前科などはないと判明した様子。

 空気が、少し緩やかになる。

「今日はどうしてここに来たの?」

「あ、ええと、仕事で……」

「仕事?  アルバイト? フリーター?」

「いえ、自営業で……」

「ん、 アルバイト、フリーター、バンドマン、どれ?」

 自営業だって言ってるだろ!

「ハハハ、冗談を……」みたいな対応だったけど、財布の中にあった名刺を見てようやく納得してもらえたようだった。

「それじゃあ 協力ごくろうさま。もう行っていいよ」

 去り際があっさりしているのはいつものこと。

 とはいえ今回は 売人疑惑もかけられている。用心して、出たすぐのところでタクシーに乗った。

 尾行は、たぶんなかった。


 * * *


 ちなみに仕事には遅刻しました。

 仕事先で職質のことを説明したところ、心配してもらえると思いきや取引先の人たちは、

「万が一逮捕されるようなことがあったときには、弊社の名前は絶対に出さないでね」

 にっこりと笑いながらそう言ったのだった。

 目は笑っていなかったのが印象的だった。



次回:血塗れのナイフを持っていた彼氏が職質を切り抜けられたわけ

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